5章(前)16話(没)
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「あなた、馬鹿じゃないの!? この状況で『構わない』って、犯人扱いされても仕方ないわよ!」
人だかりをかき分けて、私はずんずんとリディアーヌに向けて歩み寄る。
周囲の視線が一斉にこちらを向くけれど、気にしてはいられない。
だいたい、もう声を上げてしまったからには、いくら気にしたって手遅れなのだ。
「きちんと否定しなさいよ! さっきから言葉が足りないのよ! 穢れを生み出してないんでしょう!?」
「エレノア……!?」
割り込んでくる私に顔を向け、リディアーヌが驚いたように目を見開く。
だけどその表情は一瞬だ。
すぐに、元の取り澄ました表情に戻ってしまう。
「なんの用かしら。いきなり話に割って入って馬鹿だのなんだの。失礼ではなくって?」
相変わらずのツンツンである。
突き放すような口ぶりに思わず足が止まるが、リディアーヌは気にしない。
例によって悪役めいた態度で、ふん、と鼻を鳴らすだけだ。
「この話はあなたには関係なくってよ。……ああ、いえ、あなたはアマルダ・リージュと仲良しだったわね。それなら、わたくしを馬鹿にするのも納得だわ」
「誰が仲良しよ!?」
リディアーヌの言葉に、私は大慌てで首を横に振った。
冗談じゃない!
「そんなこと言った覚えはないわ! むしろそっちこそ、アマルダと仲が良かったんじゃないの!? 親友なんでしょう!?」
「なんのこと? アマルダ・リージュと親友なのはあなたの方でしょう。彼女の口からも、実際に何度か聞いたわ。『ノアちゃんは幼馴染の親友なのよ』って」
「はああ!? じゃあ、リディとアマルダが親友って噂はなんなのよ!!」
アマルダとリディアーヌは、神殿では誰もが知る親友同士。
他の聖女がうらやみ、神官たちが讃える雲の上の二人――なんて噂はなんだというのか。
思わずそう、声を荒げてしまったとき――。
「やめて! 二人とも、私のために争わないで!!」
割って入るのは、例によって『親友』のアマルダだった。
――なにが『私のために』よ!!
自分が元凶のくせに、なーに言ってるんだか!
けっ!
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供養ここまで。
楽しく書いていたのですが、このすぐ後の展開と矛盾することに気付いたので没。
書いてから気付くな(憤怒)