今年最後の更新です。
本当は今年中に5章(前)を終わらせたかった……!
あと2~3話で(前)が終わり、長い長い5章(後)になるはずです。
全7章+エピローグで完結予定。来年は完結できるよう頑張ります!

良いお年を!


5章(前)17話(没)
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「さっきからあなた、無礼にもほどがあってよ!? 急に割り込んできたと思ったら、どういうつもり!!」
「どうもこうも、本当のことじゃない! 自分が器用だとでも思ってるの!?」
「そっちじゃなくってよ!!」

 ダン! と私に足を踏み出し、リディアーヌは苛立ったように顔をしかめた。
 言ったらなんだけど、その様子はやっぱり善人顔とは言い難い。
 鋭すぎる赤い瞳に見据えられ、私は思わず身を竦ませる。

「文句を言うために来たの!? だったら大人しく引っ込んでいなさい! これは、わたくしとアマルダ・リージュの話よ!」
「……そうよ、ノアちゃん」

 私に向けたリディアーヌの言葉に、静かな声が同意する。
 見たくもないけど、つい声に振り返ってしまえば、両手を胸に当てて首を振るアマルダの姿があった。

「ノアちゃんの明るいところは大好きだけど、今は聖女として、神殿にとって大事な話をしているの。ふざけている場合じゃないの。それに――」

 そう言って、アマルダは言いにくそうに一度口ごもる。
 それから、すぐに意を決したように、上目遣いで私を見上げた。

「それに――ノアちゃんだって関係ない話じゃないのよ。リディちゃんのしたことで、ノアちゃんの……ノアちゃんの婚約者さんだって、いなくなっちゃったんだから!」

 ――アマルダがそれを言う!!??

 身を切るように辛そうに肩を震わせるアマルダに、私はすぐに言葉が出なかった。
 たしかに、元婚約者のエリックが行方不明になったのは事実。
 私だってショックだったし、関係ない話だなんて思わない。

 だけど――よりによって、それをアマルダの口から聞かされるとは思わなかった。

 ――他人事みたいに! 誰のせいで婚約が破談になったと思っているのよ!!

「ノアちゃん! 婚約者さんのためにも、今はそこをどいて! リディちゃんには罪を償ってもらう必要があるのよ! そうじゃないと、あの方だって報われないわ!!」
「……ふ」

 反射的に、口から声が漏れる。
 音だけ聞けば、笑うような声だけれど――当然、笑ってなんていない。

「ふざけてるのはそっちでしょう! なにが『婚約者さんのため』よ! 冤罪のためにエリックの名前を出してんじゃないわよ!!」

 私はアマルダに向き直ると、耐え切れずに声を上げた。
 びくりとアマルダが肩を震わせるが、知ったことではない。
 そのまま一歩前に踏み出し、私はアマルダを真正面から見据える。

「リディが原因だっていう証拠はあるの!? 誰か、あの子が穢れを生み出したり、操っているところを見たの!? 憶測でものを言わないでちょうだい!!」
「ノアちゃん……」

 アマルダはショックを受けたように、よろりと後ろによろめいた。
 背後に控えていた神官たちが慌ててアマルダを支え、一斉に私を睨みつける。

「グランヴェリテ様の聖女に、なんて口の利き方だ!」
「いったいどこの聖女だ? 礼儀がなっていない!」
「お前は……無能神の聖女ではないか! 神殿のお荷物が、黙っていろ!」
「アマルダ様の慈悲で聖女にしてもらえたくせに、恩知らずにもほどがある!」

 神官たちの口々の言葉に、私の表情がひきつっていく。
 無能神の聖女も、神殿のお荷物も、全部あっちが勝手に押し付けたものだ。
 恩知らずと言われたって、そもそも私には恩を受けた記憶さえもない。

 だというのに、アマルダは恩人顔で神官たちに振り返り、首を横に振ってみせるのだ。

「……みんな、やめて。ノアちゃんは私の親友なのよ。ただ、今はいろいろあったから混乱しているだけ。そうでしょう、ノアちゃん?」
「アマルダ、あなたねえ……!」
「ねえ、ノアちゃん。婚約者さんの件で落ち着かないのはわかるけど、冷静に聞いて」

 アマルダは私の言葉を遮ると、まるでなだめるような――子供にでも言い聞かせるような口調で言った。

「私も信じたくはなかったわ。でも、この神殿で動機があるのはリディちゃんしかいないのよ。神殿に穢れが出て――犠牲になる人が出て、喜べる人は他にいないの」

 言いながら、アマルダは苦しげに目を伏せる。
 頬に残る涙の跡は痛ましく、小さな体は弱々しい。

「ノアちゃんにとっては急の話で驚いたでしょうけど、神官様たちとも何度も話し合ったのよ。何度話しても、だけど結論は同じ。この国の根幹を揺るがす、邪悪な穢れを生み出すことができるのは、リディちゃんの他に考えられなかったわ」

 それなら――そう口にするアマルダの声は頼りなく震えている。
 まるっきり怯えた少女のようだった。

 それでも。

「それなら――リディちゃんが、国さえも傾ける悪事に手を染めているのなら、ノアちゃんにどれだけ誹(そし)られても、最高神の聖女として、私は引くことはできないわ」

 前を向く姿は強い。
 意志の宿る瞳はまっすぐに前を向き、揺るがぬ決意を見せている。
 周囲から聞こえるのは、感嘆の吐息の音だ。
 凛、と音がしそうなその姿に、きっと誰もが目を奪われることだろう――――が。

「……つまり、証拠はないってこと?」

 こっちはアマルダのそんな態度は慣れっこである。
 感激する神官たちも無視して、私はさらに一歩、アマルダに足を踏み出した。

「動機があるからってだけで、憶測で決めつけたの」
「ノアちゃん、ちゃんと話し合った結果なのよ。どうしてわかってくれないの……?」

 どうしてもなにも、納得できるはずがない。

「話し合いだけで、リディが原因だってどうしてわかるのよ。理由になっていないわ!」
「落ち着いて、ノアちゃん。理由になっていないのはノアちゃんの方よ。私はきちんと、どうしてリディちゃんが疑われるかを言ったのに、ノアちゃんは否定するばっかりでしょう」

 アマルダは小首を傾げ、困ったように苦笑する。
 聞き分けのない――と言わんばかりの態度に、とても落ち着いてはいられない。
 そのうえ、アマルダはさらに人の神経を逆なでしてくるのだ。

「憶測で決めつけているのはノアちゃんだわ。リディちゃんが原因じゃないって、どうして言い切れるの? ノアちゃんこそ、証拠はあるの?」
「ない……けど……!」

 けど、と言葉を詰まらせる私に、アマルダはますます困った顔で息を吐く。
 半ば呆れたようなその吐息に、私は頭に血が上っていくのがわかった。

「ノアちゃんは、証拠もなく神殿が決めたことを疑ったのよ。思い込みで犯人をかばうなんて、これじゃあ、婚約者さんも浮かばれないわ……」

 同情するように視線を落とし、アマルダは目尻の涙をぬぐう。
 その勝手な涙に、もう限界だった。

「……いいわ」

 思わず漏れ出た低い声に、アマルダが「え」と小さく呟く。
 きょとんとした彼女の顔に向け、私は容赦なく指を突きつけた。

「いいわ! だったら見つけてやるわよ! 証拠!」

 売り言葉に買い言葉。
 このときの私は、完全に頭に血が上っていた。
 アマルダと神官、リディアーヌ――だけではない。
 周囲のあまたの視線が見守る中で、私は声を大にして宣言した。

「それで、リディが犯人じゃないって証明してみせるわ!!」


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供養ここまで。
アマルダが誘導したっぽい感じになってしまったので、5章(後)で出す予定だった神官に先に出てもらいました。
アマルダは意図的に相手の言動を誘導できるほど頭が良くはないのです。