「おい、吾作、見ろ」
ひげ面の男が、青ざめた顔をして地面を指さした。吾作と呼ばれた青年は、鍬をかついでひげ面の近くに寄った。地面の倒れているものを見た吾作は、「わっ!」と大声で叫んだ。
「吾作……これで三頭目だ……」
「一体誰がこんなことを……」
「河童の仕業だ……」
「河童……なぜ今更。昔話でしか聞いたことねぇ」
「なんで、ってぇのは知らねぇ。風の噂みてぇなもんだからよ……」
地面に倒れていたのは、干からびてぺらっぺらになった馬の亡骸だった。こうした奇妙な死体は、これまでに二頭分見つかっている。これで三頭目だ。
「なんてことだ。これじゃあこの鱶見村もおしめぇだよ。どうすりゃあいい……」
「どうすりゃいいって言ってもよ、だぁれも姿を見たことがねぇとかで、手の打ちようがねぇのよ吾作」
「……親父、後ろ……」
「……あ?」
怯えた顔の吾作に言われて、ひげ面は恐る恐る振り向いた。
そこには、馬をぺらぺらにした下手人がいた。
夕闇の空に野太い叫びが響いたのは、すぐ後のことだった。