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取材ノート:「翠雨の水紋」(31)羽代藩軍装備

寅衛門「終わったんだが終わってないんだが、微妙な最終回を書きやがって、あの作者」
寅吉「これから校正に入るそうですが、だいぶ書き直しが必要なことがすでに明らかになっています」
寅衛門「聞きたくないなあ」
寅吉「まだ取材が足りない、とか言っていますからね」

寅衛門「さてでは現時点での羽代の軍装備を確認してみよう」
寅吉「軍船はないんですよねえ」
寅衛門「貨物船と軍船を併用しようとしているようだ」
寅吉「ドック型揚陸艦みたいなこと言ってますね」
寅衛門「ええっと、まずは弁財船が大1隻、中3隻。このうち大きい弁財船には2門、大砲が設置できるのではないかという作者の計算だ」
寅吉「作中ではボートホイッスル砲を1門ということですが」
寅衛門「2門いけるだろう。もともと小型船でも取り回しがきく大砲だから、本来なら中型の弁財船ぐらいがちょうどいいはずだ」
寅吉「アームストロング砲は」
寅衛門「あれなあ、なんだかんだ言って、あまり使い勝手が良くなかったようだ」
寅吉「……名前がキャッチ―ですよね」
寅衛門「もともと中筒から大砲は、かなり日本でも性能が良い物が作られていて、幕末期に入ってきた西洋の技術とハイブリッドになった結果、日本の土地風土に合った大砲が開発されていたという経緯がある」
寅吉「薩摩藩がアームストロング砲を最終的には見限っていた、というのは文献資料があるんですよね」
寅衛門「そうだ。薩摩藩は軍艦をイギリス、グラスゴーの造船会社に発注していたのだが、その時、業者とのやり取りで海戦においては別のものが適している、という結論に至っている」
寅吉「グラスゴーですか。あれ、作者そういえば」
寅衛門「あいつふらふらと出かけたことがあるらしい」
寅吉「海外も国内も変わらない気軽さですな」

寅衛門「アームストロング砲よりも汎用性が評価されたのがホイッスル砲だ」
寅吉「なんか寸詰まりですね」
寅衛門「いろいろ種類があるんだ。画像を引いてこれたのがたまたまこのタイプだっただけだ。ホイッスル砲は1854年、ペリーが幕府に贈呈し、幕府は直ちにこれの複製の生産を始めた」
寅吉「日本の職人ェ……」
寅衛門「同じような話で、イギリス公使の馬を借りたい、と日本の役人が来て朝、馬を連れて行き、夕方には返しに来たと」
寅吉「何がしたかったんですか」
寅衛門「数日後、イギリス公使はその役人の馬に蹄鉄がつけられていることを発見した」
寅吉「馬を借りたい、って、イギリスの馬がつけていた蹄鉄を見たい、という意味だったんですか」
寅衛門「その日のうちに昌平坂の下にある錬鉄所の鍛冶職人が作ったらしい」
寅吉「はあ」

寅衛門「で、羽代藩は海に面していて、日本各地の多くの沿岸がそうであるように山が近くに迫っている」
寅吉「この中腹に砲台を作った、とは最終回に描写していますが」
寅衛門「そこにアームストロング砲を置こうかなって」
寅吉「……ああ、何か1枚意味が分からない絵があると思ったら、海に面した山のどのあたりに砲台を築くべきかを示した図なんですね」

寅衛門「で、船だ」
寅吉「これが江戸時代の日本の船、いわゆる和船の種類ですか。なんか宝船とかありますが」
寅衛門「猪牙(ちょき)と呼ばれる吉原直行タクシー便に使われた船や、文学作品の題名で有名な高瀬舟も書かれている」
寅吉「あ、軍船もありますね。だけどこれ……」
寅衛門「輸送船だな。まったく身動きが取れない」
寅吉「外洋に出ての海戦は、そういえば日本はそのころまだ経験が無いんじゃないですか」
寅衛門「船で行った先、あるいは瀬戸内海などの近海ではあるが、外洋に出ての海戦は蒸気機関やエンジンの発明を待たなければならない」
寅吉「ですよね。人力だったら漕ぐだけで精一杯ですよね」

寅衛門「そして最後が小銃なのだが」
寅吉「ま~たいろいろ種類がある~」
寅衛門「1800年代中頃までは、日本にもたらされる西洋の小銃は中古品が多かった」
寅吉「ああ、『翠雨』作中でもそんな話をしていましたね」
寅衛門「アメリカの南北戦争、ヨーロッパのクリミア戦争などで使用された小銃が日本に輸入された。ゲベール銃の多くがこれらに由来する」
寅吉「ゲベール銃、ほんまの幕末期にはほとんど時代遅れになっていたんですよね」
寅衛門「戊辰戦争が始まると、戦闘に加わった主藩勢力は新品の銃を輸入した。戦争終結後、明治政府が徴収した小銃の数はおよそ18万丁を数えた」
寅吉「だいぶ買いましたね」
寅衛門「内訳としては、ミニエー銃、エンフィールド銃、スナイデル銃、スペンサー騎兵銃などがある」
寅吉「もっと種類があったのに、どうしてその4種類何ですか?」
寅衛門「あの藩主が持っているのがその4種類なんだ」
寅吉「スペンサー騎兵銃でしたよね、ぶっぱなしたの。どうしてスペンサーにしたんですか?」
寅衛門「……短いから」
寅吉「……ああ、身長ですか」
寅衛門「170cm以下には人権が無いらしいな」
寅吉「時事ネタは鮮度が切れると意味が分からなくなるから止めときましょうよ」

寅衛門「西洋から持ち込まれた銃も、故障や不具合がある度にマニアな職人によって修理される以上に魔改造され、幕末の小銃はえらいこといろんな種類があったらしい」
寅吉「いろんな種類があり過ぎて、弾に互換性が無く苦労したという話もございます」

寅衛門「次作『海鷹の翼』では、兵器だけでなく洋船もどうやら出てくるようだ」
寅吉「竜骨がどうだとか、作者、ぶつぶついっておりますなあ」
寅衛門「これからプロットを詰めていくのだが、船が山に登るような話には」
寅吉「なるかもしれませんよ」
寅衛門「ならんだろう」
寅吉「いや、あの作者のことですから」
寅衛門「……なるかもな」
寅吉「ええ」

寅衛門「そんな次作『海鷹の翼』は今年の秋から連載を始める予定です」
寅吉「またカクヨムコン期間ガン無視なGoing my wayな連載になるかと思いますが」
寅衛門・寅吉「どうぞよろしくお願いします!」

*資料は国立国会図書館デジタルコレクションから引用しています。
村田銃発明物語 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1720266
手遊ふねつくし https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1301937
武道藝術秘傳圖會.https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2560074?tocOpened=1

*羽代の概略図中、オレンジ色の地帯に砲台が築かれています。ちょうどその下の図の感じですね。羽代城北側の内海は潮が引くと干潟になるので港には仕立てづらいのですが、羽代城の下の岩礁を削って千石船のドッグにする予定です。
楽しいですね、こういう設定を考えるの!(゚ω゚)

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