寅衛門「江戸のファーストフードについてはもう少し後ほど……」
寅吉「予定通りに進行しないのがここの作者のデフォルトです」
寅衛門「さて徳川将軍吉宗は、長崎を通じて外国から馬を導入し国内の馬との交配を進め、強い馬を得ようとしたことが伝えられている」
寅吉「おお、血統の導入ですな! 強い馬の血はいつだって歓迎ですぞ!」
寅衛門「海外から導入されたその中に、波斯馬(ハルシャうま)というペルシャ原産の馬がいた。それが(1)の図だ」
寅吉「人と比べると、ずいぶんと体高がありますね。後ろにいる国産馬がかなり小さく見えます」
寅衛門「この馬の血が、その後、特に軍馬にと継承されていく。そもそも在来種と云う概念すら日本の馬では曖昧だったのだが、ここでさらに純系の存在があやしくなる」
寅吉「・・・・・・さっきからちょっと思ってたんですが、ハルシャってペルシャのことですよね。前に、世界にすんでいる人々の図を紹介した時、そこでペルシャ人が出てきた気がするんですが」
寅衛門「これか(2)? え~と、"ハラシャ国 犬の頭、猿の面を被りて男女昼夜歌い舞う"」
寅吉「・・・・・・なんかすみません、ペルシャの人」
寅衛門「話を戻すぞ。(1)の絵をかいたのは高力猿猴庵という人物だ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%8A%9B%E7%8C%BF%E7%8C%B4%E5%BA%B5寅吉「サンキュー、Wiki!」
寅衛門「高力猿猴庵は絵師や作家ではなく、尾張藩士であったとされる。尾張以外の国でも、役職が無い下級藩士の中には、このような絵日記を良くする者が多い印象だな。今もそんな絵日記がいくつか残されている」
寅吉「なんか素人でもふつうに手に入るようなの、あります?」
寅衛門「例えばこれなんかどうだ(3)。尾崎石城という下級藩士の絵日記は、現在「新訂幕末下級武士の絵日記」として一般の本屋でも手に入るものだ。彼らが何を考え、どのような日常を送っていたのかを知ることができる貴重な資料だ」
寅吉「幕末の下級武士の生活が分かってすごく楽しい、って、・・・・・・地元では飲んで食って遊んでますねえ」
寅衛門「もう一つ紹介したいのが『久留米藩士 江戸勤番長屋絵巻』だ。これは作者が『翠雨』での中屋敷描写の参考にした資料で、中でも宴会の絵がおすすめだ」
https://www.edohakuarchives.jp/detail-2059.html寅吉「・・・・・・座が乱れております」
寅衛門「江戸参勤が終わってこれで地元に帰れる!と大喜びした藩士達が、次の日、江戸勤番3か月延長を知らされてヤケ酒を呷る宴会の描写だな。秀逸だ」
寅吉「参勤に江戸で来たとはいえ、大多数の藩士は藩邸内にほぼほぼ閉じ込められていたんですよね」
寅衛門「加賀藩なんかだと藩邸は町一つが入るような敷地があったが、広い敷地を持たない場合、狭いところにずっといて、すごく退屈な日々だっただろうと察する」
寅吉「吉原にもいけないとか、やんなりますわ」
寅衛門「話は戻って、先程の波斯馬(ハルシャうま)の絵がある日記『猿猴庵随観図絵』だが、実は他のページの方が有名だ」
寅吉「(4)ですね。なんですかこれ」
寅衛門「なんとこれは日本で観察されたオーロラの記録だ」
寅吉「日本でこんな大規模なオーロラが見れたんですね!」
*詳しくはこちらをどうぞ「江戸時代のオーロラ絵図と日記から明らかになった史上最大の磁気嵐」
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20170920.html寅衛門「とまあ、こんな感じで、公式記録ではない、いわば個人の同人誌の様な日記から、当時生きていた人々の生活、事件、そしてそれに対する考え方を知ることができる」
寅吉「ブログとかツイッター、インスタみたいなものだったんですかね。・・・・・・ワシのマル秘日記は墓に埋葬してくださいね」
寅衛門「読みたくもないが、何を書いとるんだ……」
新版万国人物双六
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1310694猿猴庵随観図絵
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2537160