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父の話

特に書くこともないので父の話でもしようと思います。といっても大して面白い話でもないのですが。

確か僕が五つか六つの時、父と公園に遊びに行ったんですが、運動神経の無かった僕がアスレチックから転落して救急車で運ばれたことがあるんですよね。幸い一週間ほど入院するだけで済んだんですが、まあ暇で仕方がない。そんな僕を哀れんだのか、それとも謝罪のつもりだったのか、父が僕にゲームをプレゼントしてくれました。それがポケモンダッシュというDSのソフト。
僕はポケモンが好きだったし初めて見るソフトだったので、唐突な展開に少し困惑しながらも喜びました。しかし悲惨なことに、このポケモンダッシュはクソゲーでした。
某有名実況者さんも動画をあげているので詳しくはそちらを見ればわかると思うのですが、一時間もプレイしない内に僕も違和感に気づきました。今なら笑って済ませられるんですが、当時の僕はクソゲーの与えるストレスに耐えられず父に文句を言いました。すると父はあからさまに不機嫌になって「ああ、大人でも拗ねることってあるんだな」と子供心に感じたのを覚えています。
まあこれだけなら運が悪かったねで済む話なんですが、このアフターフォローで墓穴を掘ってる感じが実に親父らしい。

似たような話はもう一つあります。

東京の私大に進学が決まって、その入学式の前夜。新居にはまだ家具がなかったのでその日はホテルで過ごしたのですが、父も同伴してくれていました。それ自体はありがたいことだし、父も息子のために役に立とうという気持ちはあったのでしょう。
けれど夕飯をどこで取るか決まっていなかった。父はホテルの中で済ませるつもりだったようですが、レストランの場所を勘違いしていた。ちゃんとそのホテルには普通に食事できる場所もあったのに、到底普段着の親子連れが入れるような価格設定ではない店が立ち並ぶエリアをウロウロするはめになって、結局外で食べようという話になった。
外は小雨が降っていたけど、小さな折り畳み傘しか持っていなかったので、肩を雨に濡らしながら夜道を歩いて行く。明日は入学式だというのになんでこんなことをしているのか、という思いが湧いてきて、自分の見通しの甘さにも父の段取りの悪さにも苛立ちが募っていく。
やっと見つけた吉野家に入って好きでもない牛丼を食べていると、父がでかい声で何やら話しかけてくる。おしゃべりをするような気分ではなかったので生返事だけ返しても、沈黙に耐えられないのかなかなか口を閉じようとしない。父が何を喋っていたかはまったく覚えていないけれど、隣の席にいた高校生くらいの男子が不思議そうにこちらを眺めていたのはよく覚えている。親子にしか見えないのに、親子にしては冷めすぎている、そんな光景が異様に見えたのかもしれません。
これだけならそういう日もある、で済ませてもいいんですがその翌朝がいけなかった。
いざ入学式に向かおうとする僕に向かって父は何か説教のような訓示めいたことを言いました。父も昔は東京で一人暮らしをしていたそうなので何か思うところがあったのかもしれませんが、あの失態の後に何を言われてもまったく響きません。実際何を言われたのかまったく思い出せませんでした。

ここまで読めばわかると思うんですが僕は父が嫌いです。だけど憎悪にまでは至らない。彼があくまで父であろうとしていることがわかるから。だから彼を小説にできなかった。父を評価することができなかった。
ただそういったジレンマみたいなものは書けたかな、と思っています。そのうえでやっぱり父が嫌いなのは変わらないので、ここにエッセイとして記しておくことにします。
お目汚し失礼しました。

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