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呼び水の魔王 38話先行公開!

 1月1日更新予定の38話を先行公開します。
 長くなり過ぎて前編と後編に分けてますが1月1日に2話更新の予定です!

以下本文↓



 ジェシカから、ジンの『相剋』【霊界権能】について、一通り話を聞いたマリー、レヴナント、フォルドの三人は驚きよりも理解が追い付かなかった。

「『相剋』と言うモノが禁忌に近い力である事は知っていたが……」
「……そんな力を、勇者シラノは何人にも宿らせていたと言うの」
「なんだそれは! 良くわからんが! なんだ! それは!」

 この国では『相剋』保持者と言うと勇者シラノが生み出した『覚醒者』が該当する。

「『相剋』は十人十色です。それに、ジンの【霊界権能】は自らで発現しました」

 彼の色の違う瞳と眼の傷はその時に負ったものだと言う事も説明する。
 何故『相剋』と言う“具現化”が起こるのか。そして、ヒトに宿るのか……
 『覚醒者』を生み出した勇者シラノはその仕組みを知っていた様だが、誰でも自由に得られるモノではない事だけはわかっている。

 その時、表の扉が開く音が聞こえた。
 店は閉めているので客は来ない。すると、ロイとレンの声が近づいてくる。
 ロイがレンを見つけて帰ってきたのだと、場の四人は察していると、

「リア姉、奥の部屋だ」
「ナタリアさん、こっち!」
「失礼します」

 扉が開き、部屋に入ってきたのはレンとナタリアだった。

「|師匠《せんせい》!?」

 一番にジェシカが驚く。ナタリアは自身の胸に手を当てて、一礼した。

「夜分に礼もなく軒家へ踏み入れた事を深く御詫びいたします。私の名前はナタリア。ジンに|縁《ゆかり》のある者です」

 質素な旅人服を着ているにも関わらず、気品ある立ち振舞いと物言いに、最上位の貴族を連想させた。
 まるで、どこかの国の王を思わせる程の気迫にマリーは思わず立ち上がる。

「あ、わ、私は……マリシーユ・ヴァルターと申します!」
「フォルド・パッシブ。この店の店主だ。彼らの身内と言うのならば、礼を欠いた事は気にしていない」
「……」

 各々でナタリアへ返す中、レヴナントだけが困惑するように彼女を見る。
 そんなレヴナントの視線にナタリアも僅かながら反応があったものの、すぐに微笑み返した。

「彼を助けに来ました。側に寄っても?」
「ああ」

 フォルドは場を開けると、ナタリアはジンへ近づき眼を閉じる彼の額や頬を触る。
 その様子を反対側に回った、レンとジェシカは見守った。

「師匠、ジンは……」
「ナタリアさん……」

 ジンから、すっ、と手を離すナタリアに二人は不安そうに問う。

「レン、ジンは生きてるわ」
「! ホント!?」

 ナタリアの言葉に場の空気が変わる。
 生きているのか死んでいるのか不明瞭なジンの様子にナタリアは“生きている”と断言したのだ。

「でも、私一人じゃジンを救えない。力を貸してくれる?」
「うん!」
「ジェシカ、何か書くものを貸して」
「これで良ければ」

 ジェシカは普段から持ち歩いている手帳を手渡す。
 ナタリアは一番手後ろのページを開くと、サラサラと手書きで魔法陣を描いた。

「ジェシカ、これをロイと一緒に建物を囲う様に展開して」

 返された手帳には、簡易な図形を重ねた要点を建物の四方に配置し、それを結ぶ様に線繋がれた魔法陣が記載されていた。

「いい? 貴方とロイの二人だけで描くのよ」
「わかりました」

 手帳を受け取り、ジェシカは部屋から出るとロイにその事を告げて一旦、店から出る。

「レン、貴方はジンの手を握って、呼びかけて。声ではなく、心の中で」
「うん」

 常識外のジン救うと言うのに、まるで|呪《まじな》いでも始めるかのような様子に他の面子は少し気が抜ける。

「すみません」

 そんな四人の様子にマリーが声をかけた。

「私も……何か出来る事はありませんか?」
「マリシーユ様。その申し出はとても心強く思います。しかしこれは、ジンと縁が深い者達だけで行わなければならないのです」
「それなら――」
「お言葉ですが貴女様とジンの“縁”は私たちよりも深くは無いのです。心当たりはありませんか?」

 マリーは意識を失う際、咄嗟に頭をよぎったのはレヴナントだったことを思い出す。

「フォルド様。失礼ながら、ご退室をお願い出来ますか?」
「ああ。部屋には誰も入れぬ方が良いか?」
「はい。よろしくお願いします」

 退室するフォルド。マリーはナタリアに一礼すると部屋を後にし、その後にレヴナントが続いた。
 ナタリアはジンの隣の椅子に座ると己の魔力に集中する。


〖何をしている?〗
 救うのです。
〖その者はお前に取って、“凶”の一つであろう?〗
 違います。彼は“凶”などではありません。
〖ならば何だ?〗
 “未来”です。


 魔力を感じる。ジェシカが魔法陣を仕上げた様だ。
 見ずとも魔法陣の要点に置ける図形を細かく把握出来る程に魔力の流れがスムーズに感じる。急ぎで走り書きだったあのメモで、ここちらの意図を汲み取り、より適切に仕上げた様子に彼女の成長が伺えた。

 ナタリアはゆっくりと詠唱を始める。

“悠久よ――”
“この身をお許しください”
“踏み入る私をお許しください”
“まだ、そちらへ行くべきでない者がいらっしゃるのです”

 それは、ナタリアの心で唱えたが、ジンと関係の深い三人には伝わっていた。

 魔法陣が光る。それは『収穫祭』の明かりに比べてとても弱々しく、見落とすような淡い光――

「レン、ジンを呼ぶ声を絶やさないでね」
「うん!」

 『再界【霊界権能】』

 その瞬間、ナタリアの魂は身体を残し、立ち上がる様に白と黒で構築される半透明の世界――霊界へ侵入した。
 そして、ジンの身体から伸びる魂との糸を視認。その瞬間、突風のような虹色の濁流が襲ってきた。

“…………”

 ソレに対してナタリアは抵抗せずに、ただ眼を閉じて呑み込まれる。





「……|師匠《せんせい》」

 霊体は他の誰にも見えないものの、ナタリアがジンを救いに行った事はジェシカとロイにも感じ取っていた。

「……あーだ、こーだ言っても仕方ないとは思うけどよ。正直、こんな時に何も出来ない俺はむず痒いぜ」
「……今回は私達の手に負える問題じゃないわ。必要なのは魔法でも剣術でもなくて……」

 ヒトを想う力。
 その言葉がロイとジェシカの心に答えの様に浮かび上がる。

「後は、この魔法陣を維持しないとね。何かの手違いで消される事が無いように――」
「おや? これはこれは! 有名な者達が居るな!」

 その時、存在感のある声に二人は振り返る。そこにはヘクトルとミレディが立っていた。

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