1) 静粛性の崩壊
紙面に印字されて、遠くはなれた読者の手に渡ることを、本来、文学は想定している。その時作者は、時に応じて読者の疑問に答えることはできない。読者もただその印字の行列に直面するほかにすべがない。だからこそ文字の排列には最大限の注意が払われた、誤字、衍字、脱字、文法や論理の誤りは蚤取り眼で探し出された――。このように思われます。
対して、電子情報としての文字の排列はいつでも変改可能です。
刻されることで生まれる文字と文字との絶対的な距離が、紙面という無規定の空白を、縦横のある一幅の絵画のように切り出していました。切り出された空白とその上に盤踞して動かない文字の排列とが、決定力(静粛性)を構成します。したがっていつでも変改可能であり且つ具体的な場所を占めていない文字の排列には、決定力(静粛性)が常に不足しています。
2) 私語的性格の強まり
伝達までの時間がゼロになるに及び、文字の性格は変わりました。互いに時間的・空間的に隔たっていた頃は、掛け合いのように相手の疑問に応じられないので、予め網羅的に記述される必要がありました。伝達の速度がはやまり、文字は“あたかも実際に会話しているかのような”錯覚を起こさせ、発話自体の、発声される音自体の拙劣な模倣にしか供せられなくなりました。文字は静粛な文字としての優位性を失うとともに、おしゃべりを可視化するだけの、そもそもにおいて代替可能なものに堕しつつあります。
3) 作り手と受け手があまりに肉薄していること
以下、図示の通り。
