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「アヤカシ記者」完結に寄せて。(ネタバレあり)

お礼以外での形ではお久しぶりです。黄鱗きいろです。
今回は「アヤカシ記者、蒸気都市ヲ行ク。」の完結に寄せて、いくつか解説や所感などをお送りしたいと思います。

まずはアヤカシ記者の構想について。
アヤカシ記者を書いたきっかけは、公募に出す小説を書こう!と思い立ったところからでした。
ただし最初はカクヨムコンテストに出すつもりではなく、ジ○ンプの小説新人賞に出そうと思っていたのです。
しかし、好きなものを詰め込んで(妖怪と大正は相性がいい!大正とスチームパンクは相性がいい!混ぜちゃえ!)、筆に任せて書いていったところ、どう考えてもジ○ンプには合わない、カテゴリエラーな第一話ができてしまっていました。
そんな時に、第二回カクヨムコンテストが開催されることを知り、十万文字書き切るぞー!と気合を入れて書いていったのがこの作品になります。
今から考えてみれば、こんなにたくさんの皆様に読んでいただき、楽しんでいただけて、こちらを選んで正解だったな、という思いでいます。

第一話について。
実は私、以前に「ドラゴニックオートマトン」というライトなスチームパンクものを書いておりまして、もう一度スチームパンクを書きたいなあと思ったのが第一話を書き始めた動機の一つです。
だからなのか、はっきり言ってスチームパンク×ミステリー×新聞記者の作品としての出来は第一話が一番うまくいったと思っております。
先生の着想は、主人公が要る→探偵ではありきたり→同じような職業はないか→新聞記者とかどうだろう。という流れで決まりました。この時点で、最終話ラストの「先生がアヤカシを助ける理由」は決めていたので、ここの選択が上手くまとめることができたいい転機となったのだと思っております。
あおいちゃん、犬村さん、いちすけは大正時代からの連想――女学生、憲兵さん、書生さんという記号から生まれました。
記号から生まれたにしては、ここまで生き生きとした存在に育ってくれたのが正直驚きです。
ちなみに私の一番の推しは犬村さんです。いいですよね、犬村さん。怒りっぽくて堅物で、でも女子供には弱い好青年。たまりませんよね。
忘れがちなあおいちゃんの口癖「はぇー」もここが初出です。第五話に至っては一度も言っていませんでしたね。シリアスでしたもんね。

第二話について。
雷獣の話です。なんでまたこんなマイナーなアヤカシの話を書いたかと言うと、雷獣が私の書いた卒論のテーマだったからです。
明治、大正期はアヤカシの黄昏の時代だと私は考えております。江戸時代では不可思議の闇に包まれていたアヤカシ(妖怪、幽霊などなど)が、舶来の知識や思考形式、情報伝達によって白日の下に晒され、次々とアヤカシが殺されていった時代です。
雷獣はその分かりやすい例と言えるでしょう。
だからこの作品の全体のテーマを伝えるために雷獣の話は、絶対に必要なものだったのです。突然ミステリーがアクションに変わって困惑させてしまったかとも思いますが(笑)
ところで犬村さんはここで私服で登場していますが、私服がひどいという話にはあおいちゃんは言及しません。
これはあおいちゃんの優しさ、というか包容力、というか、「なるほどそうなんですね!」でなんでも受け入れてしまうあの子なので、自然と言及していないのだと思います、多分……。あおいちゃんいい子……。

第三話について。
いぬむらたつとしくん(10歳)回です。
私の性癖をこれでもかと詰め込みました。はい、ショタコンで人外好きで犬村さん推しなんです。
狗神の性質については、中央公論新社から出ている「日本の憑きもの」という本を参考にしました。
本編に出てきた特性は、ほとんどが本当のことです。「人間を襲う」という点など、作劇の都合上、ちょっとだけ嘘も混ぜ込みましたが、おおむねあれが狗神の特性と考えていただいて大丈夫だと思います。詳しく知りたい方は、「日本の憑きもの」を読んでみることをオススメします。面白いですよ。
さて、この話の最後と第五話の最後だけ、裏島先生の記事がなかったことにお気づきになった方もいらっしゃると思います。
これは一応理由があって、第五話についてはテンポが悪くなるから、という理由なのですが、第三話に関しては、狗神持ちの家というのがいわゆる被差別民として扱われるものだから、ということから裏島先生は記事を書きませんでした。
正確には被差別民でありながら、畏敬を集める存在であったのですが、都会に出てきてしまっては畏敬の部分は取り払われてしまいます。
裏島先生は、今後の辰敏くんのことを考えてこの事件を記事にしなかったのです。
ところで冒頭部分で裏島先生は犬村さん相手に管を巻いていますが、あそこで「なんで憲兵なんかになったんだよ」と言っているのが、第三話読了後だと違った意味に聞こえてくると思います。裏島先生にとっては犬村さんはいつまで経ってもあの時の子供のままなんですね。表向きはいがみあっていますが。二人がいがみあうきっかけとなった事件も今後書いていきたいです。

第四話について。
狸憑き回です。
この話は本当に難産で、綿貫さんが探偵で、ママが事件をねつ造していたということしか決めていない状況で数週間そのままでした。
なんとか怪盗ムジナという存在を思いつき、まどろっこしくてごまかしにあふれたトリックを設定して、一話にまとめあげたというのが本当のところです。
なので、ちゃんとまとまってるよ!と言われた時はホッと胸を撫で下ろしました。本当にまとまってよかった。
さて第四話ですが、綿貫さん回であると同時に、直接登場はしませんが犬村さん回でもあると思っています。
なぜならこの第四話の根底にあるテーマ、「義理の親子の愛」は犬村さんにも大いにかかわっているものだからです。
犬村ママのラスト近くあのセリフは、正直アヤカシ記者の最大の盛り上がりどころと言ってもいいかもしれません。それぐらい気に入っています。
あの言葉は、自分たちが本当に犬村さんを愛して育てたという自負がなければ出てこない言葉ですし、実際犬村さんは実の親子ではないのに、服のセンスが移ってしまうぐらい義父母のことを慕っていて、本当にそこが……そこが……。愛されて育ったんだなあって……よかったなあって……。
第四話はそんな感じです。犬村さんについては語ると止まらなくなるのでこれぐらいにしておきます。

第五話について。
あおいちゃんをいじめる奴はみんな私が成敗してくれる!!!
そんな気持ちで読み返していました。
一個ネタばらしをすると、これまでの話で直感的にあおいちゃんが嫌な感じを受けた人(智矢さん、藤上さん)は、全員悪役なのです。あおいちゃんすごいね。エスパーかよ。
この第五話はここまでのお話の総集編です。ちりばめまくった伏線をどうにか取りこぼしのないように回収していくのは非常に疲れました。
テーマとしては第二話のアンサーとなる回だと思っています。すなわち、アヤカシが人々の中から消えてしまう事態にどう対処すべきか、アヤカシと人間がどう付き合うべきなのか、という話です。
山童と大工、人間に怯えるアヤカシたち、そして蛇蠱に向き合えていなかったあおい。何度も繰り返して、人間とアヤカシのあり方、先生のスタンスについて書いていきました。
いくつか伏線について説明していくと、実は先生は最初あおいちゃんに「お前がなんとかする問題だ」と言っているのです。あとから考えてみると分かるのですが、これは蛇蠱に向き合え、という意味だったのです。
それからお気づきかもしれませんが、あおいちゃんはアヤカシに「さん」をつけているのです。ですが、蛇蠱にだけは最初「さん」をつけていなかった。分かりあえる存在だと思っていなかったからです。だけど向き合って、分かりあおうとしてからは「さん」をつけています。あの「さん」はあおいちゃんの敬意の現れなのです。
ラストシーン、あおいちゃんが先生の背中に揺られて帰っていくシーンは、本当にここが書きたいがためにここまで書いてきたシーンでした。あおいちゃんにとって先生は父親のような存在であり、先生にとってあおいちゃんは愛すべきガキどもの一人なのです。すなわち、疑似親子!疑似親子大好き!
あおいちゃんが先生の匂いを吸い込むシーンが特に好きですね。心底安心しているというか、先生の背中はあったかいんだろうなあというか。
これからも裏島先生とあおいちゃんは軽口を叩きあいながら、楽しい毎日を送っていくんだろうなあと思える終わり方だったと思います。
我ながら好きだなあ。

私による解説、所感は以上となります。
もし、ここが知りたい!ということがありましたらコメントに残していただければお答えしますので、どしどしコメントしていってください。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
続編、番外編の構想もありますので、どうぞそちらもご期待くださいませ。
番外編については期間中にSSを何度か更新いたしますが、続編については、もし間に合えばプロローグか第一話ぐらいは公開したいと思っております。
では、次の更新があることを祈って。

1件のコメント

  • 初めまして。『諜報員明智湖太郎』の十五静香です。
    この度は拙著に評価ありがとうございます。

    アヤカシ記者面白そうですし、評価も高いので、楽しみに読ませて頂きます。

    今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
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