どこかで聞いたことがあります。
「本を一冊作るのに、物語の文字数は10万字以上が目安」と。
10万字くらいのパートを、すでにいくつか書いてあります。
近況ということで、昨日、草稿として書いたものをメモしておきます。
カヒという人物は、すでに投稿した短編の加藤カヒ本人です。
そうだ、前回で六人目がこのさき登場すると言った気がします。
今回のメモにいる「バノ」という十五歳の少女が、その六人目です。
きっとアップした時点では、ほとんど説明が足りなくて意味がわからないものになっていると思います。「今ここを書いている」というメモだと思っていただければと思います。
ネタバレのほぼないパートです。
◆
「ハヤガケドリのお宝を盗みに行こう!」
騎乗できるトリ、ハヤガケドリには群れを作る種類もいる。ラプサバローン種の群れの中にヨーチョフという小柄な個体が生まれることもある。
このヨーチョフの羽が一枚あると、荒野でハヤガケドリを高確率で呼び出せる魔法道具が作れるのだ。
バノ「ひさびさに悪いことをしようかな!」
パルミ「バノっち、やっぱり不良だったん? 飲酒の疑いもあったよね」
トキト「飲酒はパルミの早とちりだったろ。和徳利を持っていただけで」
パルミ「そだった。バノっちが悪いことをするはずないよね。パルミ聞き間違えた」
カヒ「ううん、わたしも『悪いことをしようかな』って聞こえたよ」
バノ「言ったよ、今日は悪いことをするんだ」
ウイン「またまた、バノちゃんは悪い人ぶるからなあ。で、どんな悪いことをするの?」
アスミチ「ウインはたぶん悪いことっていう言葉を聞いてもバノが悪いことをしないと思ってないよね」
バノ「ハヤガケドリのお宝を盗もう」
ウイン「やったー、ハヤガケドリのお宝を盗むよ! ……ってあれ? ハヤガケドリはお宝を盗まれてかわいそう」
バノ「ハートタマがハヤガケドリの気配を察知しれくれてさ。ドン・ベッカーの甲板から視力強化で見たら、珍しい種類だったんだ」
アスミチ「ハヤガケドリって移動する鳥でしょう? 宝って持ち歩くの?」
バノ「一般に宝を溜め込むタイプのハヤガケドリは三種いる。コキュウレ種、カイオツイ種、トボイス種だ。これらは生息地に美しい石や珍しい木の実を埋め込んで目印を置く。見つければ、高い値のつく宝石や木の実が手に入る」
ウイン「埋めるんだね。石や木の実を人間が取っちゃうことがあるのか」
カヒ「盗まれても、ハヤガケドリは死んだりしないよね」
バノ「ハヤガケドリは宝を盗まれると、とくに探し回ったりせず、また新しい宝をべつの場所に埋める。子育ての習慣が変化したものだろうと言われている」
パルミ「にゃるほどー。だったら肉を食べるために殺すのより迷惑じゃないかも」
トキト「野生動物が人間の作物をちょっと荒らすのと似ているよな」
バノ「ところがどっこい」
ウイン「どっこい? バノちゃん、今日はなんかいつもと違うよね……」
カヒ「でもおもしろい言葉だよ。どっこいどっこい、どっこいしょー!」
バノ「カヒ、ノリがよくて助かるよ。今回のお宝は、そういうものじゃないんだ」
アスミチ「えっ。違うんだ。それじゃあ、もしかして、もっといいもの?」
バノ「アスミチは勘がいいね。ラプサバローン種。白と金の斑模様の美しいハヤガケドリだ。クリアで澄んだ鳴き声、遠くまで響く。飼育に向かないが、王侯貴族が苦労して飼いならし、乗機にすることもある」
アスミチ「ラプサバローン種。名前からして豪華絢爛だよね」
バノ「この種の群れには、特別なヒナが生まれることがある」
カヒ「ヒナ!」
バノ「全身が黒と金色のヒナだ。ヨーチョフと呼ばれる。成鳥になると生え変わってほかの個体と同じ色になるらしいが、このヒナのときだけ生えている黒い羽毛が、今回私が盗み出そうとしているお宝なんだ」
トキト「バノのことだから、魔法道具の材料じゃねえの?」
バノ「トキト、大当たりだ! このラプサバローンの黒羽毛は、ハヤガケドリを呼び出す魔法道具に最適だと言われている。これがあればほぼ確実にハヤガケドリが呼び出せるんだ」
ウイン「たしかに便利! 野牛やライドビートルが間違って来ちゃうこともないのかな?」
バノ「ラプサバローンはハヤガケドリの王族だって言われているね。ハヤガケドリはこれに呼び出されたら必ず参上するらしい。野牛やライドビートルにはその効果が及ばない」
カヒ「すごく便利かも……」
バノ「では、私は盗みの準備に入る」
トキト「待ってくれ。俺も協力したい」
アスミチ「ぼくもぼくも! いいでしょ、ねえ、バノ」
パルミ「あたしだって、そんな話を聞いたら泥棒したくなっちゃったし。パルミ、今はまだ泥棒できないけど、きっと覚えます」
みんなでハヤガケドリのお宝を盗む作戦がスタートした。
バノ「群れの真ん中でヒナが守られている。群れは二十羽のハヤガケドリの成鳥が半径五十メートルほどに広がっている。どうやって真ん中のヒナに近づくか、考えよう」
トキト「霧魔法で、俺が透明化するのはどうかな? バノがメカボブビンと戦うときにかけてくれたやつ」
アスミチ「いい案だけど、今は、霧は出ていないよ」
カヒ「人間の匂いで気づかれたりしないのかな?」
パルミ「匂い消しの魔法ってあったんじゃね? バノっちがオアシスで使ってた」
カヒ「うん、使ってたよ。だから、わたしも真似して使えるようになった。匂い消しが必要だったら、わたしがかけるよ」
ウイン「姿を消すのがむずかしくても、変身魔法なら、どこでも使えるよね?」
トキト「バノの話じゃ、トリに変身するのはかなりむずかしい感じじゃなかったか?」
バノ「変身魔法というより偽装魔法になるが、ハヤガケドリに見えるようにすることだけなら、できるだろう。だが、私たちが騎乗したことのあるハヤガケドリの姿になってもラプサバローンは警戒して近づけない」
アスミチ「ラプサバローンに偽装するのは?」
バノ「鏡像魔法で映像をコピーすることはできる。だが、見破られてしまいそうだよ」
ウイン「やっぱり、警戒されにくいべつの生き物の姿になるのがいいってことだね」
トキト「なあ、バノ一人でお宝を盗むとしたら、どうやるつもりだったんだ?」
バノ「尾行だ」
カヒ「尾行って、隠れてあとをついていくっていう意味?」
バノ「そうだよ、カヒ。ついていって、草むらに身を潜めて、ラプサバローンがたまたま戻って来るのを待つ」
パルミ「待つ!? いつ戻って来るかわかんないっしょ?」
バノ「そうだね。何時間も待つしかない。そして黒い羽のヒナを見つけたら、紫革紙面の魔法で羽をひとつ切断する」
ウイン「バノちゃん、それじゃラプサバローンに気づかれて襲われちゃうよ」
バノ「必死で逃げるよ」
トキト「それじゃ行き当たりばったりすぎるだろ。危険だしさ」
バノ「ある程度逃げれば、ヒナを守るためにラプサバローンも戻っていくだろうしさ」
パルミ「バノっち、頭がいいのに、たまに頭で考えるより先走ること、あるよね……」
バノ「ええっ、考えてるけど? 最悪、夜まで待てば、あっちは鳥目で見えないだろう? こっちには夜目を利かせる魔法の力がある。名付けてヨーチョフ暗視ナビー」
相変わらず、バノはものまねが似ていません。空をふわふわと浮いていた精霊(ピッチュ)のハートタマが、こんなことを知らせてきました。
ハートタマ「ラプサバローンの群れのほう、トカゲがいっぱいいるぜ。トカゲなら、警戒されねえかもな」
トキト「荒野にトカゲはけっこういるもんな。それがいいんじゃねえの?」
アスミチ「ハートタマ、ダッハ荒野には人間くらいの大きさのトカゲもいるの?」
ハートタマ「そりゃいるぜ。そこいらじゅうに」
カヒ「トカゲとかヤモリとかになって、にゅるにゅる近づくのがいいのかな?」
バノ「それでいこう。あんまり緻密に作戦を考えていると、ラプサバローンがどこかに移動して見失ってしまうかもしれないからさ」
ウイン「バノちゃん、以前もこうやってちょっとした悪いことをしたことがあったの?」
バノ「あったとも、ウイン。そのときは腕のたつ冒険者が一人ついてきてくれたから、危険は全部お任せできたけど」
トキト「ラプサバローンと俺が戦ったら、俺が勝つ!」
カヒ「トキト、ただでさえ羽を盗むんだから、ラプサバローンを傷つけたらだめだよ」
トキト「じゃあ、バノが襲われたら、俺が金属棒で撃退する。これならいいだろ、カヒ」
カヒ「う、うん。でもできるだけ乱暴しないでね」
トカゲへの変身魔法は、全員が初めての経験だったので手間がかかります。近世界で二年を先に過ごしてきたバノがお手本を見せることになりました。彼女は衣服を着たトカゲになりれました。
パルミ「服は着ていていいんだ!?」
バノ「消臭魔法をかけるから、服くらいべつに平気だろう」
パルミ「バノっち、またしても行き当たりばったり……」
バノ「あはは。だって、失敗してもべつに困らないし。ハヤガケドリが衣服を着たトカゲを警戒するかどうか、わかるじゃないか」
アスミチ「あ、それがわかるだけでも楽しそう。警戒しないでいてくれたら、応用が効くよね」
ウイン「んー、魔法道具は、できれば私も見てみたいから、失敗しないほうがいいなあ」
カヒ「そうだよね。ハヤガケドリを呼ぶ魔法の羽、いいなあ」
全員がバノの真似をしてトカゲに変身することができました。
トキト「じゃあ、草むらをトカゲになって、ハイハイの速さで腹ばいで進め」
ドンキー・タンディリー「じゃあ、ボクとハートタマはここにいるからね。がんばってね」
ドンキー・タンディリーは土や石を食事にする時間にするようでした。
草むらにダイブして、トカゲの姿で群れに近づく六人。危険に備えて二人一組のバディになっています。
バノとカヒの組からまもなく悲鳴が上がりました。
バノ「うわあああああああ」
カヒ「やだあああああああ」
ハヤガケドリにトカゲだと思われたまではよかったのです。しかし、ラプサバローンはトカゲを餌として捕食する種だったらしく、数羽に囲まれて襲われてしまったのでした。
思念でトキトが助けに向かうと伝えたものの、バノがそれを拒みました。
バノ
――私とカヒなら魔法で防御できる。
カヒ
――そうだよ。がまんして耐えるから、その隙にお宝を盗んで、トキト!
トキトとアスミチの組が別ルートから周りこんで黒いヒナを目指しました。
トキト「やべえええ、俺たちも見つかった。餌だと思われてるぜ」
アスミチ「金属棒で反撃しちゃだめだからね、逃げちゃうから」
トキト「じゃあ全速力で逃げ回りながら、魔法で防御だな」
アスミチ「それもきついけどね! あわわ、逃げるしかない」
これで残ったのはウインとパルミの組だけとなってしまいました。
ウイン「四人のおかげで、だいぶ大人のラプサバローンが減ったね。近づけそうだよ」
パルミ「ウインちゃん、でも黒いヒナのとなりに、すごく大きいのがいるよ」
母鳥のラプサバローンでした。母鳥は子を守るために凶暴になります。また子に与えるためのエサをたくさん探します。
ウイン「あれが見張っていたら、ヒナの羽を盗む前に攻撃されちゃうよね」
パルミ「うん。間違いなく」
ウイン「バノちゃんが言っていた通り、行き当たりばったりでデータが取れたよ、パルミ」
パルミ「うえ? もう失敗っていう意味? データがとれたから終わり?」
ウイン「違うよ。ハヤガケドリはトカゲを食べようとする。だから、隙が作れる」
パルミ「あ、そういう意味ねー。うん」
ウイン「だから私があの大きな母鳥を引き付ける。パルミが羽を盗む」
パルミ「ええっ、ウインちゃんがいちばん危険じゃん」
ウイン「でもまあ、そうするしかないからねー。私のほうが魔法の力も強いから、攻撃避けも長持ちするしね」
パルミ「バノっちの言う通りだとしたら、少し離れれば、ラプサバローンは追っかけてこないんだよね?」ウイン「そこ、絶対にそうだとは言えないけど、たぶんそうだね」
パルミ「うううー、絶対にそうだと思いたかったよ」
ウイン「悪いねパルミ。じゃあ、時間もないから、よろしく」
パルミ「あにゃっ、今、今なの? すぐなの?」
ウインはちょろっと母鳥の前に飛び出してさっそくくちばしの攻撃を受け始めた。
パルミ「ウインちゃんが攻撃されはじめちゃった……いくぞ、パルミはいくぞ、静かに死ぬまで忍び足」
パルミはみごとにひな鳥に近づくことができた。すぐにヒトの姿に戻って、羽に手を伸ばす。
パルミ「お宝、いただき!」
そのときひな鳥が姿勢を低くした。パルミに気づいたのだ。後ろをくるりとパルミに向けた。
パルミ「ひゃっ、ヒナのプリケツ……」
ばこーんと大きな脚で蹴られてふっとばされてしまった。数メートル、宙を飛ぶパルミ。
ウイン「わあああああ、パルミ、大丈夫っ」
パルミ「ごほ、ごほっ、びんせんとふぁん、ごっほっ。異世界効果で丈夫な体に変化していて助かったにゃあ」
これで六人全員が見つかってしまい、トキトが撤退の言葉を仲間にかけた。
バノ「ちょっと残念だったな。このプラン以外で成功させたたかったのに」
カヒ「え? このプラン……」
黒いヒナの上にハートタマがふわりと落下してきたのでした。
ハートタマは紙切れを持っている。
バノ「遠隔操作。氷紋抜刀」
紙切れから氷の刃が飛び出して、尾羽根の一本を切り取り、その羽根といっしょに紙切れの中に戻っていきました。紙はどうやらバノがいつも持ち歩いている紫色の本、紫革紙面《しかくしめん》を切り取ったものだったようです。
アスミチ「紫革紙面のページをハートタマに持たせたんだ!」
ハートタマ「アスミチの言う通りだぜ。じゃ、あばよー」
ハートタマは垂直にふわふわと上空に上がっていって、巨大ポンコツロボ、ドンキー・タンディリーの待つ位置まで戻っていきました。仲間たちもハヤガケドリに追いかけられない範囲まで後退することができました。
トキト「なんだよー、一本取られたぜ。俺たちが囮役になっちまった」
バノ「ごめんごめん。もともと、私一人なら自分で飛行魔法を使えるので、上空から行く方法を検討していたんだ。けど、見つかってしまったら逃げられて二度と使えない手だろ? そこでちょっとアレンジしてみた」
ウイン「トカゲで近づいて盗むことができていたら、ハートタマの出番はなかったってこと?」
バノ「そうだね。ハートタマ一人で近づいても、やはり見つかってしまう可能性は高かった。あくまで私たちが見つかって失敗したときだけ有効になるプランBだ」
アスミチ「ねえ、魔法道具、作らない?」
カヒ「これ、バノでも作れるの? 街にいる魔法使いに頼まないと作れないとか?」
バノ「ハヤガケドリの王族の性質を利用するんだ、私のハヴ魔法でも作れるよ。じゃ、このあと食事を取ってからやってみようか」
こうしてドンタン・ファミリーは「ラプサバローンの黒羽根」を手に入れました。
ハヤガケドリを呼ぶのがいちばん上手なカヒが持ちます。カヒがこの黒羽根を使って荒野に呼びかけることで、ラプサバローン種という珍しいハヤガケドリに、めいめいが乗ることができるようになるのでしょう。
(おわり)
添付画像に、ここまでの登場人物のイラストをつけておきます。
AIを利用して、私のアイディアで画像に起こしたものです。
主人公たちは、左のほうに縦に並んでいます。