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読書メモ54

『ハレム 女官と宦官たちの世界』新潮選書 小笠原 弘幸∥著(新潮社)2022/03

「悪役令嬢は素敵なお仕事」の次の舞台はハーレムにしよう、と参考に篠原千絵の『夢の雫、黄金の鳥籠』を読んだりトルコのテレビドラマ「オスマン帝国外伝~愛と欲望のハレム~」をちまちま視聴してます。
けど、どっちもヒロインはヒュッレムなんですねー。もっと前の時代のことを知りたいのですが。
(でもでも「オスマン帝国外伝」はめっちゃ面白いです! 女優さんたちすごい迫力。男たちの権力闘争にもわくわくします。壊れていく主従関係にハラハラ。新シリーズ「新・オスマン帝国外伝」では時代が下って最強の母后キョセムが主人公だそうで。わーこっちも見たい。視聴が追い付かない)

えーと、で、オスマン帝国以前のハレムについて知りたくてこの本を手に取ってみたものの、やっぱりメインはスレイマン1世以降、トプカプ宮殿のハレムが中心なのですねー⤵
資料の関係でそれはもうしょうがない。アッバース朝型ハレムとトルコ・モンゴル型との違いがわかったし、なにより成り立ちからその終焉まで、長い長い歴史を概観できるのは面白かったです。



『翼っていうのは噓だけど』フランチェスカ セラ∥著 伊禮 規与美∥訳(早川書房)2022/09

共感できる部分がまったくなくて、完全なる外側から「うーわー…………」って観察するタイプのお話でした。
情報を小出しにしたかったという作者の狙いによる時系列が前後する構成は、やっぱりスリリングで、それがあったから面白く読めました。
ティーンのえぐい部分だけを抽出して煮詰めたような描写ばかりが続くのだけど、不思議と淡白で読めちゃう不思議。
SNSの問題ももちろんだけど、そもそも町の伝統とかで充満するルッキズムが大問題。あんなん呪いですよ、呪い。
唯一応援したいキャラはくじらでした。彼女には頑張ってほしい。



『民主主義のルールと精神 それはいかにして生き返るのか』ヤン=ヴェルナー ミュラー∥[著] 山岡 由美∥訳(みすず書房)2022/08

来年春の統一地方選挙に向けてざわざわしてきたなーと感じる今日この頃。にわかに公民の勉強をはじめてみる。
で、新しめなこちらの本。刊行が最近だけあってウクライナ戦争直前までの欧米各国の状況を取りあげた例が多いです。
なんとなくニュースで聞きかじっていた人名や政党名がたくさん出てきて、詳しくないので膝を打つってまではいきませんが、これまたぼんやりと、あーなるほどーと読んでいて面白かったのですが、半分くらいしか内容が残っていない自分の鳥頭が恨めしい。
それでも、日本にも当てはまる指摘がたくさんあって、うーむ、となったし、私自身は政党制に否定的なところがちょっとあったのですが(かといってハイパー民主主義が現実的とも思わないけど)、政党システムは最善の方法で必要ってくだりにすっきりした気持ちになれました。改善しなければならないところはあるものの。

ルールは議論を重ねてつくりかえていかなければならず、新しい方法が実際に行われた事例など(それが成功はしなかったとしても)すごいなって思いますね。
日本もまた既得権を持つ集団の影響力が強いですから、改革を行うのは一苦労だけども、でも、前を向かなければならない。希望とは前を向くことだから。

「私たちには本来の原理について考える時間があり――またその時間をつくるべきでもあり――本書はそこにひとつの可能性を賭けてる」



『18歳からの格差論 日本に本当に必要なもの』井手 英策∥著 田渕 正敏∥[画](東洋経済新報社)2016/06

自身の幼少体験を元にベーシック・サービスを提唱している著者のインタビューを読んでから興味を持ってました。
(私の今の推しは井出英策さんと石井光太さん。奇しくも同年代の方々ということもあり一層の活躍を期待してます)
著作がたくさんあって目を通したいものばかり。まずはイラストが豊富で分かりやすそうなこの本をチョイス。ものすごく分かりやすかったです。そして言葉が率直だからこそずっしりきました。

〈税への抵抗が強い社会は、誰かのための負担をきらう「つめたい社会」〉(p16)

〈貧困にあえぐ人びとを「見て見ぬふりをする社会」を僕たちは生きている〉(P24)

〈借金より問題なのは、いまのつめたい社会、情けない社会を子どもたちやその次の世代に残してよいのか、ということではないでしょうか。〉(p30)

〈発想の大転換、思い切って中高所得層も受益者にする〉(p80)

〈生まれた家が貧しかった、生まれたら障がいがあった、それは決してその子どもたちのせいではありません。でも、それだけの理由で、もしその子どもの一生が決まるとするならば、それは「不運」なのではありません。「理不尽」なのです。
 かわいそうだから助けてあげるのではない、理不尽だから闘うのだ、運の悪い人が人間らしく生き、競争に参加し、たとえそれで敗れても勝者に惜しみのない拍手を送ることができる社会をめざすのだ、そのためには、弱者の幸福ではなく、人間の幸福を追求するのだ、こんな考え方が僕の思想の根っこにあります。〉(p93)

そういう社会にするための方法はとてもシンプルで簡単なように見えるのだけど、実際にはそうはいかない。どうして???って思いますよね。

関係ないですけど、池田勇人元首相のイラストがかわいくてちょっとツボりました。この人が打ち出した財政政策が自己責任社会を生み出したようなものですが……



『欲望の経済を終わらせる』インターナショナル新書053 井手 英策∥著(集英社インターナショナル)2020/06

引き続き井手さんの著書。
新自由主義とはなにか、なぜ幅を利かせているのか。
経済成長の生み出す税収を社会保障や教育サービスのために使ってきたヨーロッパ諸国と比して高度経済成長期の日本は所得減税をつうじて納税者に所得を戻していったため増税をしにくくなった、「増税なき財政再建」を世論にとけこませる戦略をとった経済界、痛み分けを装いつつ企業増税を実行した大蔵省、アメリカの圧力、新自由主義へと方向づけた「前川レポート」、傷口を広げた「平岩レポート」、そして新自由主義が全面化した小泉政権期。

〈民営化であれ、財政支出の削減であれ、ようは政府がみずからの非効率性をみとめ、みずからきりきざみ、すて身で有権者の関心をひこうとする、いわば「敗北主義の政治」である。
 同時に、不正やムダづかいの犯人を特定し、それを袋だたきにする政治が合理性を持つ。所得税にくるしみ、将来不安を強めつつあった都市住民の不満ときびしい財政事情とがかさなりあうことで、「利益の分配」から「痛みの分配」へと大きく政治課題はかわっていった。そして、この激動の時代にあって、政府、経済界、都市無党派層の利害の均衡点としてフル回転することとなったのが新自由主義イデオロギーだったのである。〉(p108-109)

けれど、ここで強調された「トリクルダウン理論」はそうはならず、現実には格差が拡大し小泉政権末期には格差社会論が広がった。

〈規制緩和、行政改革、自由化、小さな政府を追求する新自由主義は、痛みをだれに押しつけるのかをあらそい、だれが不正をおこない、だれが不当な利益を得ているのかを血眼になって探すような政治を生んだのではないだろうか。〉(p117)

「経済=お金もうけ」ではない、いまの日本では自己責任社会の前提じたいがくずれはじめている、収入の多い少ないがすべてを決める時代は終わる、「欲望の経済」から「人間の顔をした財政改革」へ。

問題なのは「こまっている人たち」への共感が弱まっていること、問題の核心は「負担」の重さではなく「負担感」の強さ、つまり「痛税感」。
特定の人たちに受益が集中していることへの反発をやわらげ、財政の原理からズレてしまった日本の財政をつくりなおさなければならない。
まずしさを認めない中流幻想の痛ましさ(我が家の家計もそうです。まさに中の下……)、弱者への反発とねたみと憎悪。
愛国心とナショナリズムは同じではないということ、「リベラル」に欠けているもの、日本におけるポピュリズムとは。

実施の難しいベーシック・インカムよりもベーシック・サービスを。そのために必要な消費税率は16パーセントだとする提案は具体的でシンプル、同じ税負担をしたとしても最終的なくらしの水準の格差は縮まるというのは目からウロコだし(『18歳からの格差論 日本に本当に必要なもの』の図解がとても分かりやすいです)、所得制限を設けてのバラマキにかかる事務費は問題になっていたことですし、提案通り、みんなで負担してみんなで受益ってとてもいいことだと感じるのですが。さて。

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