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読書メモ㊺

〈不満買取センター〉って知ってますか?
会員登録(無料)をして日常の不満を投稿するとポイントが付いてアマゾンギフトに交換できます。
投稿される不満のジャンルはさまざまです。「毎日暑い」などのつぶやきから政治への要望まで。
集まった不満は企業に届けられよりよい社会をつくるために役立てられます。
今の不安定な情勢の中で、何かしなくてはとみなさん感じているのではないでしょうか。こういった場所から声を発してみるのもアリだと思います。

それにしても毎日暑いですね。涼しい場所で読書できることが何よりの贅沢だと感じるこの頃です。


『横浜奇談新聞 よろず事件簿』澤見 彰 (ポプラ文庫ピュアフル)

開国直後の混沌とした異世界のごとき横浜を舞台にした元武士で陰気な主人公が、一緒に読売を作ろうと青い瞳のイケメンさんに勧誘されるお仕事バディもの。
起きる事件は基本的にはハートフルで読みやすい。価値観が激変する時代、自らを古い人間としつつ新しい時代に向かっていこうとする葛藤とか、差別への憤りとか、優秀だからとそれだけでは生き抜けない幸運のありかだとか。現在に通じるテーマがたくさんです。
読売についてや当時の風俗についてなんかは、前回紹介した『文明開化がやって来た』で知ったばかりだったんで特に面白かったです。冒頭の床屋の話なんて、読んだ通りだーと。当たり前のことなんですけど、ちゃんと資料をあたってるんだなと。当たり前のことなんですけど。
そして卯三郎さんがかわいい。もふもふは正義。もふもふが出てくるだけでポイントアップ。マスコットキャラクターの存在って重要ですよね。私はこういうキャッチーな要素を取り入れられないからなー。むー。



『ブッチャー・ボーイ』パトリック マッケイブ∥著 矢口 誠∥訳(国書刊行会)2022/01

〈日本の読書通たちが待ちに待った邦訳!〉ってどこかで見かけた宣伝文句につられて手に取ったんですけど。なるほど、すごかったです。
ただただ痛い。「痛々しい」ではなくイタい。そして胸が冷える。
なにが妄想でなにが幻覚でなにが現実かもわかりにくい語りの中で、主人公に対する行動や表情の機微がリアルなのだと感じさせられるのは、それが誰もがやってしまうかもしれない悪意や浅慮の露出だからなのかもしれない。狂気に満ちたフランシー少年の動機の一端は理解できてしまう。
この小説は「アイルランド人の精神状態をリアルに描いたケーススタディー」であり、人間そのものの悪意(あるいは善意)の在り処を浮かび上がらせてもいる。それは自分の中にも存在するもので、だからこそこんなに痛いのかもしれないです。



『南極のスコット大佐とシャクルトン たくさんのふしぎ傑作集』佐々木 マキ∥作(福音館書店)2016/04

40ページほどの写真が豊富な絵本なんですけど密度が濃い。
三英雄の南極点到達への挑戦の足跡を淡々と記しているだけなんです。だからこそ三人の違いがくっきりとしていて。アムンセンの名前がタイトルにないところに本書のスタンスが現れているのかも。



『大人だって読みたい!少女小説ガイド』嵯峨 景子∥編著 三村 美衣∥編著 七木 香枝∥編著(時事通信出版局)2020/11

なにがスゴイって、冒頭の津原泰水と若木未生のインタビューがまず衝撃でした……。当時の舞台裏ってそんなだったのかって。今だからいえるってことでしょうけど。でももうおふたりともすごく冷静で。

〈まあそれが出版界に於ける、あの時代の少女小説の位置づけですよ。かつてあの文化を支え、今は大人の読書人に成長している分厚い層が、見えていない。〉(津原)

〈青春の定義って「必ず終わるもの」だと思うんです。《グラスハート》は完結できたので、今度は《オーラバスター》が終わります。今は青春の後片付けをやっているようなもので、これを越えたら次の景色が見えてくると思っています。また新しい青春が始まるかもしれない。〉(若木)

また新しい青春、ぐっときました。

ガイドページではジャンル別に分けて新旧の名作が紹介されてます。超メジャーなものから、すっかり忘れていたマイナーまで。懐かしくて涙が出そうになりました。
最新の書誌情報を添えてくれているのが嬉しかったり。加筆新装版とか……ちょ、いつのまに続編とか!? なんて情報が盛りだくさん。
なんだかんだで再評価が進んでいるのを感じました。児童向けに移植されたり、一般向けに新装版が出たり。業界の四苦八苦を感じもしますけど。新装版なら『銀の海 金の大地』をぜひ! 絶対買うから! とか。
〔両片思い〕〔異世界トリップ〕〔逆ハーレム〕〔政略結婚〕なんて今風なキーワードがついているのも、面白いようなもの悲しいような。

知らない作品もたくさん、知ってはいるけどあれってそういう作品なの!? と、まんまと乗せられて、あれもこれも読まなきゃってなりました。読みたい本リストが膨れ上がって、いつ消化できるのやらー。

というわけで、画像はさっそく購入しちゃった少女小説たちです。

何も言わないで……わかってるんです……ストレスなんです……爆買いに走っちゃうんです……


以下は資料メモ
『有職文様図鑑』コロナ・ブックス223 八條 忠基∥著(平凡社)2020/07
『日本の装束解剖図鑑 古代から現代までイラストで読み解く有職故実の世界』八條 忠基∥著(エクスナレッジ)2021/03

2件のコメント

  • 不満買取センターなんて星新一みたいな世界観ですね笑
    少女小説のラインナップが奈月さんらしくていいですね、感想楽しみにしてます☺️
    わたしはあんまり少女小説を読んだことないですけど、『海がきこえる』とかそうなのかなー? 少女小説とはいえ、男の子が主人公でも成り立つんですよね?
  • メルカリも良くできたシステムだなぁって感心だったんですけど、不満買取センターもうまいことを考える人がいるものだと。でもそうですね、そういうフィクションが発想の元になってたりして。

    『海がきこえる』は発売当時から一般文芸のハードカバーでしたね。大人気活躍中のコバルト作家がハードカバーの本を出すって画期的だった気がしました、当時は。

    >少女小説とはいえ、男の子が主人公でも成り立つんですよね?

    いい質問です!(古い)
    よくぞ訊いてくれました。そーなんです、当時の少女小説では男子主人公はアリのアリで大アリでした。SFサイキックアクションや学園バトル、伝奇ファンタジー。大人気でアニメになった「少年陰陽師」だって「今日からマ王」だって男子主人公でした。
    でもでも、今の女性向けは男性主人公はNGなようなんです。たぶん。おそらく。

    これまた面白いことに、逆に男性向けライトノベルでは女性主人公アリになってるんですよねー。『本好きの下克上』や『薬屋のひとりごと』は、〈以前だったら女性向けレーベルで発売されてただろう〉ってありましたし、両作品とも『ライトノベル・クロニクル』でも越境ものっぽく紹介されてて。
    男性向けレーベルが女性向けまで視野に入れてるに対して、女性向けレーベルはものすごーく間口が狭くなってる感じがします。

    こういうジャンルの変遷って供給側の販売戦略でしかないわけですけど、本気で書籍化したくて狙ってる人たちは振り回されちゃうし、流行に乗れるかも時の運でしかないんだな、と感じます。質より量な世界なら猶更。
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