『図解 古代ギリシア』スティーヴン・ビースティ/イラスト スチュワート・ロス/文 倉敷雅人/訳
私の新作「女神墜落」の舞台は都市国家アテナイをモデルにしてます。そこでとても役に立ったのがこのイラスト本です。都市国家ミレトスの少年が父親と一緒に古代ギリシア世界を旅するストーリーです。この本ではペルシア戦争後のアテナイが繁栄を誇った時代が舞台となっていますが「女神墜落」はペルシア戦争前をイメージしていて、だいぶ様子は違うのだろうなーと思いつつ、まあイメージですからね。
横からこの本を覗き込んだ娘が一言「ああ、これあの人を探す奴だね!」
違うよ。ウォーリーを探せじゃないよ。……それくらい精密な街中の様子が分かります。建物が断面図になっていて生活の様子がありありと分かります。眺めていると閃きもあってとても良かったです。
シリーズ本に『図解 古代ローマ』『図解 古代エジプト』もあります。その方面の資料をお探しの方は是非。
『南極のコレクション』武田剛
読書メモ①で紹介した『命がけで南極に住んでみた』は詳細なルポで面白かったのですけど、写真というものがないのがネックでした。こちらは一年間南極に滞在した日本の新聞カメラマンによる写真本。なので貴重な写真がたくさんあります。子供向けなので前後の表紙裏にイラスト図が入ってるのも良かったです。『命がけで南極に住んでみた』に出て来たマクマード基地やデュモン・デュルビル基地を見つけて嬉しくなったり。
ところで、『命がけで南極に住んでみた』の著者のゲイブリエル・ウォーカーさんは基地の移動を米軍の飛行機やヘリでしてたのですよね。南極まで来るのもイギリス海軍に随行してって感じで。イギリスの鳴り物入り?
ところが、日本の昭和基地の観測隊員は、往復1200kmあるドームふじ基地への道のりを雪上車で40日間かけて移動するのですよ。燃料のドラム缶を運ぶためなのでそもそもヘリや小型飛行機では運べないのかもですが。
昭和基地は南極の中でも不便な場所にあって、飛行場がつくれず交通手段は観測船「しらせ」だけ。なので越冬隊員は一年間日本に帰れないのだそうで。というのも南極観測が始まった1957年、参加したのは戦勝国ばかりで、戦争に負けた日本は残った場所で観測するしかなかった。
不便ではあるけど、昭和基地は暖かい場所ですごしやすくペンギンやアザラシがたくさん寄って来る。なによりオーロラがよく見える。「残り物に副あり」だそうです。
著書の武田さんはイラクやアフガニスタンなど戦地取材もされてる方です。
「南極は地球上でただひとつ、国境のない大陸だ。(略)南極がいつまでも、戦争とはえんのない平和な大陸であってほしい」とあとがきに記されています。ゲイブリエル・ウォーカーさんも同じことを記されてました。何もない場所南極は人をまっさらな状態に戻してくれるのかもしれないです。
『緋色の皇女アンナ』トレーシー・パレット作 山内智恵子訳
こちらも児童書です。なんでこの人児童書ばっかり読んでるのってそろそろ皆さん思いますよね。だって児童書って間違いがないのですもの。安心して読めるんです。このお話もすごかったー。最後には号泣でした。深い、深すぎる。
十一世紀、ビザンチン帝国の皇女として生まれたアンナ・コムネナが主人公。父親のアレクシオス一世はトルコ撃退のためにローマ法王ウルバヌス二世に援軍を求め十字軍派遣のきっかけをつくった人物ですね。
アンナが弟ヨハネスとの政争に敗れ過ごしている修道院から物語が始まります。そして帝位後継者として過ごしていた時代へと回想が続くのですが。小学生が読んで楽しいのだろうか、これ。大人な私はとても楽しめました。
とにかく人物の造詣が深すぎる。アンナは策略家の祖母から冷酷な女帝たれと教育を受け、染まりかけたもののそれに反発。祖母は操り人形を弟のヨハネスにすげ替えアンナは後継者から追い落とされるのだけど、ヨハネスは本性を隠していただけで帝位についた後祖母を軟禁してしまう。など息をつかさぬ政争劇です。
だけど語り口は誇り高い皇女様の一人称ですからね。それはそれは気品に満ちています。これは「女神墜落」の敬体での執筆にとても役立ちました。インプットって大事ですね。
物語を通して家庭教師シモンやトルコ人奴隷ソフィアとの交流が描かれ、修道院で穏やかなラストシーンを迎えます。アンナを「おちびさん」と呼んで子どものようにかわいがっていたシモンによって復讐の連鎖から救われるのです。素晴らしい最後でした。
そろそろ私にもカク神の光が満ちてくると良いのですが~。