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「鬼とミライ」初期稿

 2016年7月2日が最終保存日で、元のタイトルは「鬼囲い」でした。

 読み直してみてあまりにも意味が分からなかったので、7年ほど経った2023年3月に「鬼とミライ」(https://kakuyomu.jp/works/16817330654441045956 )として投稿しました。

 今回はあまりにも意味が分からないオブ分からない初期稿だったので、当時の自分の書きたかったものなのかどうかさえ定かではありませんが、当時のテキストを近況ノートに貼ります。

 私はそのテキストを読んだ時「病院行った方が良い」と思いました。

 当時の投稿サイトで、毎回コメントしてくれた名前も忘れてしまったあの方にあらためて感謝の意を捧げます。

 あなたのおかげで今の私がいます。ありがとうございます。当時もあなたのおかげで三か月ほどではありますが、ほぼ毎日投稿することができていました。
 当時の私が書くものは、意味が分からなすぎて、よくコメント欄が荒れてました……なつかしい思い出です。

以下、「鬼囲い」の本文です。

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 僕は物心つく前から、ずっと病院で暮らしている。
 僕ら病院で暮らしている人には鬼が巣食っているんだって。
 寂しくはない。友達だってそれなりにいるし、両親は毎週休みになると僕に会いに来てくれる。兄の話を聞くのが僕の楽しみだ。
 テストで100点とった。運動会で転んでしまってビリになったが、それさえなければ一位のはずだった。おしかった。学芸会で魔法使いの役をやったんだ。ピアノを習って今度発表会だ。
 両親の話は兄の話だ。
 病院の人たちは僕たちのことを本気で病気だと思っているらしいが、僕らはそう思っていない。僕ら、と言っても僕とあと一人しかいないけれど。彼は僕の相棒だ。崎原ミライという。青年だ。羨ましいくらいにカッコイイ。
 病院ではいつも鬼ごっこをしている。
 僕らともう一人。いつも三人だ。
 鬼は僕らだ。
 いつも逃げる役は楽しそうだ。彼らは自分たちを病気だと思っているらしい。彼らのはそうかもしれない。
 ミライは病院から学校に通うという不思議な生活を送っている。そんなミライから提案を受けて僕は両親に「家に行きたい。兄に会いたい。家族で暮らしたい」と泣き落としをかけた。
 両親から話を聞いた病院関係者などなども、病気の経過具合から問題なしと判断したようで思いの他、それはそれはすんなりと僕は釈放された。まあ毎日通院することが条件だったけれど。 


 一ヶ月ほどは順調に。それはそれは慎重に学校生活を送った。
 いきなり現れた転校生。しかもそれは自分たちが見知った同級生と同じ顔なのである。
 ただでさえ無駄に不安を抱えている年齢なのだ。慎重に慎重を重ねて過ごしてやりすぎることはないだろう。
 学校生活というものはとても新鮮だ。
 彼らが知っている同級生とは僕の兄『小黒リク』。彼は彼。僕は僕。まったくの別人だ。その証拠に彼と僕を間違える人はほとんどいない。
 しかし学校に通って見ると、勉強というのはある種秤の役割をしているらしい。その出来不出来によって今後の人生を左右される。
 兄はとても必死に勉学に励んでいるようだ。おかげで学年でもトップクラスの成績だ。僕は真ん中。中間くらい。
 僕は家に帰る前に病院へ。兄は放課後は習い事と塾、家庭教師に時間を注ぐ。家に帰っても夜遅くまで勉強をしている。
 夜中にキッチンへ来る兄のために僕は夜食を作ってやる。朝になると無くなっているので食べてはくれているらしい。
 ある日、僕は兄に聞いた。
「兄さんは勉強が好きなんですか?」
 少し考えた後、兄は
「お前には分からない」
 とだけ呟いて部屋に閉じこもってしまった。
 学校では相変わらず、不審者や放火魔の噂でいっぱいだ。他にすることはないのか。
 そして少し分かったことがある。学校のクラスの中ではムードメーカーらしい。とても人気者だ。
「ウミくんは、お兄さんと全然違うね」
 同じクラスの女子の台詞だ。それに反応したように、わらわらと集まってくる。
 そして口にする台詞は一様に、「お兄さんと違う」。
「お兄さんは凄く話しやすいよね」「勉強できるのを鼻にかけてないって感じ?」「ピアノで賞に入ったこともあるらしいよ」「ウミくんはお兄さんと違って話かけにくいんだよね」「むすっとしてないで笑ったら?」
 何だかなぁ。
 その場はとりあえず始業のベルで難を逃れたが、まったく困った困った。家と学校では別人かと思うくらいに表情が違う。
 学校ではとても生き生きとしている。
 無理もない。
 話で聞いていた家庭と、実際の家庭ではやはり全然違う。
 愛してはいるのだろうけれど、伝達手段があまりない。
 病院に行ったときにするのは家族の話だ。
「母さんはどんな感じ?」
「最近元気がないかな?」
「父さんはどんな感じ?」
「最近とても疲れているようだよ」
「お兄さんはどんな感じ?」
「なんだか限界みたい」
「へぇそれはいい」
「そうだね。おそろいだ」
「君は良いのかい?」
「仕方ないだろう?」
「じゃあ、満月に迎えに行く」
 毎回そんな会話。
 そして最近気づいたこと。
 燃えるごみの中には僕が作った夜食メニューがとてもミックスされた感じにこんにちはしてらした。
 うーん。まあ自己紹介したときも心底驚いた顔をしていたし、そんなものかな……?

 


「お前が悪い」
 夜寝ている間、僕の首を絞める人影。
 小黒リクだ。
 いつの間に部屋に。そんなことは考えない。
 何が悪いのか。遅かれ早かれこうなることは知っていた。いつ爆発してもおかしくなかったのだ。
「お前が鬼だろ! 俺の家族をめちゃくちゃにしやがって!! 俺は幸せだったのに」
 首を絞める力が弱い。
 こんな力では赤子を殺すのでもせいいっぱいかもしれない。
 幸せだったらこんなことしない。なんでこんな事になったのか分からないものは分からない。
 彼にとっての僕は確かに鬼かもしれない。
 僕はリクの腹を目掛けて近くにあったものを投げつけた。カチコチと音を立てるそれは目覚まし時計。なんて便利な道具でしょうか!!
 リクが一瞬ひるんだ隙に、僕は部屋を飛び出す。
 リビングから光が漏れている。
 そこでは母も父も目がうつろ。二人とも夢の中にいるみたい。
「ウミ!! 待て殺してやる!!」
 後ろからリクの声。
 そんなこと言われて止まるばかがどこの世界にいるんだアホ。
 僕の脳裏にはいつもしていた鬼ごっこの景色。そしてミライの言葉「満月に」。僕は父も母も残して外に駆け出した。
 リクの足はとても遅い。意思だけが肥大化したかのように気配だけは後ろまで迫っている。うん、鬼気迫っているとはまさにこのこと。
 家を飛び出し、空を見ながら走る。僕の姿が滑稽にみえるのか満月が笑っている気がする。被害妄想かも。リクの気配はやはりすぐ後ろまで。足音は三つ。家族で仲良く追いかけてきたようだ。
 僕もいつの間にやら彼らの夢の中に合流してしまったようだ。いつまでも同じ十字路。右に曲がっても左に曲がってもずっと同じ道。
 何度目かしれない十字路で、
「家族というものは良いものだね」
 ミライが僕に向かって微笑んだ。
 僕らは合流したところで、鬼ごっこの本来の役割をこなす事にした。ミライに、
「ウミは囮をやってくれ。僕は周りに灯油とか撒いてるから」
 単純な作戦を与えられ実行する。今回は結構派手みたい。
 僕らはいつもこうやって鬼ごっこをする。捕まえるのは僕ら以外のもう一人。鬼に憑かれた子。
 いつも僕が囮にミライがもう一人に後ろからバットやら椅子やらで殴りかかる。動きを鈍らせたその隙に、僕がもう一人を食べてしまう。
 自己申告制なところがあるからほとんどの人は言わないが、鬼にはそれぞれ能力を持っていることもあるのだ。病気の子にはない。つまり僕らのご飯ってわけ。
 鬼にもいくつか種類があるらしい。
 精神を蝕まれ食われる側の人間。そして、鬼すら食う人間、僕らだ。
 鬼以外には巻き込まれて半ば人間としての思考を失ってしまう人なんかもいるけど、それらはまあ副菜。今回は父と母。
 メインディッシュはリクだ。
「ウミ! お前だけ! いつもお前だけだ! 俺は誕生日もずっと一人だった! クリスマスも! 正月も! 一緒に遊んだ記憶なんてほとんどない!! 母さんも父さんも仕事が忙しいと思って我慢してたんだ!!」
 リクは憎悪もしくは嫉妬かな? それを顔いっぱいにして僕の元へ。いつもここ寸前のところでミライが、
「ごめんウミ」
 は?
 リクを止めるそぶりを一つも見せずに僕に向かって言った。
「面倒なんだよね、君さ」
 ミライの言葉を受け止めながら僕は絶望に包まれた。僕ら相棒だろ? 何なんだよ急に。
「肥大した自意識。とても面倒だ。僕は付き合い切れないね」」
「はああ? 何だよそれ! 相棒って言ったのはミライじゃないか!!」
 リクが僕に触れ、父や母も僕に触れた。
 家族の親交を深めるためじゃない。僕を殺す為に。
 リクの力が弱すぎて僕を殺せないのは理解したようで、リクが命令を下し、母が僕の首を絞め、父が僕の体を抑えて、じわじわと意識を奪われていく……。
 僕は特別なんだ。
 食われる側じゃない。食う側だ!!
 こうなったらミライも――――。




 家族で固まっているその中心にいるウミが俺をにらんだ。
 付き合いが長いから何となくその瞳の言いたいことは理解できた。「こうなったらお前も食ってやる」そんな所かな?
 ウミの口の中、目玉の奥からムカデがダンゴムシややたら肉付きの良い蜘蛛なんかが零れだす。
 ウミが鬼を食うときはいつもこうだ。
「ウミお前さ、気持ち悪いんだよねぇ」
 一瞬ウミの顔がショックを受けたように歪んだ気もするが、俺は気にせずマッチに火をつけた。
 ここは夢の世界。
 夢に巻き込まれた俺はどちらかといえば被害者だよね。家族ごっこはよそでやれ。
 たくさんの虫に囲まれて燃える元相棒家族はそれはそれは気持ちが悪い。
 火が広がるにつれて、徐々に無限に続く十字路は陽炎のように消えてしまった。
 消えたのは火と十字路。ウミ達は残っている。
「死んでまでも気持ち悪いんだよなぁ、お前は」
 
 






 かごめかごめ

 かごのなかのとりは

 いついつでやる

 よあけのばんに

 つるとかめがすべった

 うしろのしょうめんだあれ?

 


 『鬼』とは、人の心の弱い部分に巣食う魔の通称である。一般に言われる『魔が差す』などの中にはこの鬼によるものも少なからず存在している。
 鬼が心に巣食う条件として人間の精神の強さはあまり関係がないようである。一瞬でも落ち込んだり悩みを抱えるなど、その一瞬を狙うようである。
 鬼を退治する方法については、節分の行事や鬼の登場する民話を参考にしたが今一つ解明されていない。
 鬼に憑かれると、徐々に自分をすり減らし精神病と似た症状が発症する。完全に人間の個がなくなると、体が変質してしまう。今のところ、世間には公表されてはいないが彼らを収容する病院(といっても刑務所のような施設になってしまっているが)を国が設立し、変質した者は発見されしだい隔離されているようだ。
 自分をすり減らすスピードは個人個人で全く違うようである。
 大切なのは『自分』を認識させてやること。
 毎日名前を呼んだり、親身に話しを聞く。聞くだけでは至って至極真っ当な事である。
 それでも数日や数週間で変質する者や、かといって発症してからも社会生活を送る者の差はあまり分かっていない。
 変質してしまった者は既に人としての意識はない。
 隔離しているのも殺せないからではない。
 体を切り刻み、体内に薬物を打ち込み……、先人には新人の為に身を捧げてもらうということらしい。
 本人に意識はないし、遺族には納得してもらえるだけの金額を払っているようだ。人に害しか与えない、対策もしらない人間が世間から隔離し、いつまでも人間大の怪物など飼えるものか。
 大抵は言い値で納得する。
 納得しようとしている。
 症状の軽い者たちは本人の希望で社会生活を送ることも可能であるし、自分から隔離されるものも多い。最近では国立の病院の中にサナトリウムと称したフロアが作られることもあるそうだ。
 



「ほらリク。弟のウミよ」
 母が手を向けたその先には俺と同じ顔をした少年が笑っていた。年恰好も俺と同じくらい、だから中学二年生かな。俺がそうだから。
「こんにちは、リク兄さん。兄さんの話はお母さんとお父さんから聞いてました。こうして会える日をとても楽しみにしてました!」
 そうか。俺は初耳だけどな。
 にこやかに笑う少年は俺とは正反対に上品で雰囲気から違う。目の前にあるのがいつも鏡で見る顔だからか、性質の悪い間違い探しみたいだ。

 

 その日は変な日だった。
 朝は母にどこにも寄らず帰るよう厳命し、家に帰ると仕事でいないはずの父に病院に行くと言われ家族で家からそれなりに遠い国立病院に向かった。
 父の運転がいつになくゆっくりとしている気がする。
 親戚の誰かが事故にあったのだろうか。
「なあリク。お前、弟は欲しいか?」
 ふと父が口を開いた。
「なんだよ。急に」
 さすがに俺は焦った。
 もうコウノトリが赤ん坊を運んでくるなんてことを鵜呑みにしている年齢ではない。
「欲しいも何もないよ……」
 俺の様子を察してか母が、父を嗜めた。
 そして、何となく台詞を間違えたと気づいたらしい父は言葉を選ぼうとしては口を閉ざすのを繰り返した。
 その様子を見てか母は最終的に『鬼』というものについてのみ説明していた。
 なにやら、病状が進行すると人でなくなる、とか。でも社会生活を遅れてる人もいるのよ、だとか。
「おじさんかおばさんがその鬼になったってこと?」
「母さん」
「……あなたにはもう一人兄弟がいるのよ」
 父に先を促され、母は少しうな垂れて言葉を紡ぎだす。
「リク、あなたは双子なの。2歳までしか一緒には暮らしていないから覚えていないのかもしれないけれど。覚えているかしら」
「……は、初耳です」
「そうね、そうよね……。今日はあなたの弟が退院する日なの」
 今年度最大のドッキリか何かかな……。
「鬼の話は何なの?」
「その子の病気よ」
 退院して大丈夫なんかそれ!
 かくして、拒否権のない俺の目の前でいかにも病弱な少年が微笑んでいるわけである。
 今でも鬼は感染すると考える人も少なくはないので、家にあった彼に関するものは全て処分されてしまったらしい。写真の一枚すら残さずに。
 そんなものかな……。






「ミライくん」
 青年は真っ白な部屋で、力なく振り向いた。
「残念だったね」
 病院に暮らしているとはいえ、社会生活もそれなりに満喫していたようなので、ニュースは既に彼の耳にも入っていたようだった。
 彼と仲が良かった少年が退院した数ヶ月後に怪死したのだ。世間には事故死と発表されている。
 しかし、勘の良い彼に嘘を吐く気にはなれず、
「ウミくんの一家は全員が鬼が巣食っていたようだよ。悲観しての自殺だと皆思ってる。方法についても、正常な判断が出来なかったと」
「知ってます」
 青年は悲しげに笑った。
「ウミくんは体の変質は見られなかったが、鬼はどんどん肥大化していたから。少し魔が差しただろう彼の家族もそれに侵食されたんじゃないかと言われてるよ」
「珍しいですよね。家族が全員。しかも三人は気づかれもせず今まで過ごしていたなんて」
「ウミくんは特異な例だけれど、偶々全員が悩みを抱えてそれが触発されて事故になったらしい」
「そうですか……、酷い偶然もあったものですね……」
 彼の仲の良い子供がこんな事になって、社会に不安を覚えなければ良いが。
「そうだ。ミライくん」
「明日の天気ですか?」
「あ、……うん」
「金曜日はデートですもんね。残念ながら雨だと思いますよ」
「やっぱり?」
「天気予報もそうですよ」
「ミライくんの天気予報は百発百中じゃないか!!」
「はは、占い師でもやろうかな?」
 ミライくんはとても好青年だ。彼に鬼が巣食っているなど信じられないくらいに。

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