最新話を書いてみた所、なんだか楽しくなり──没にしやした。
かといって消すのも勿体ない上、ふぶくん組長の頑張りも見てもらいたく、近況ノートで供養。
◆◆◆
夏にしては比較的に涼しいか、いやじっとしていると汗ばんでくると、微妙な気温のそんな日。
とある白熊と少女は、屋外にある迷子センターの敷物の上に座り込んでいた。
「まだ来ないねー」
「アナウンスとかはしてもらってますの、きっと来るですの」
「貞ちゃん?」
「井戸の住人は来ませんの!」
少女は天衣無縫な笑顔で、白熊は少しぷりぷりしながら、はぐれた連れが迎えに来るのを待つ。
「井戸の中って涼しいのかなー、やっぱり」
「ずっと入ってたら風邪引いちゃいますの」
「貞ちゃん、すごい長い間入ってなかったー?」
「あの方はきっと特別な訓練されていますの」
「えっ、ほんとー?」
「知らないですの」
「なんだー」
子供や小熊の歓声響く、昼日中の白桜山公園。
駅やバスターミナルから近い東口に設置されたその迷子センターには、白熊と少女以外に、同じく迷子な幼子三人と、強面の若い男性スタッフが四人いた。
不安そうな顔をしている子、ぼんやりしている子、眠っている子と反応は三者三様。白熊と同じ小熊はいない。
スタッフは電話したり、周囲を警戒したりと、忙しそうだ。
「そういえばさー、温泉は行ったことあるけど、プールや海はまだ行ってないねー」
「……ですの」
「今度行かなーい?」
「……温泉の時も思ったけど、私のような熊が一緒に入って大丈夫ですの?」
「もーまんたい、もーまんたい。お猿さんだって入ってるしー」
「うーん……」
「──かき氷の配達に来ましたー!」
ふいに、可愛らしい大きな声が、耳に届いた。
白熊と少女が声のした方を見れば、そこにはくるくる回る手ぶらの白熊と、まだシロップのかけられていないかき氷を大きなお盆にいくつも載せた、黒いヘアバンドで髪をまとめる鋭い三白眼の青年が立っていた。
「組長!」
「組長自らお出でなすったんですかい!」
「言ってくれれば俺達が行きましたのに!」
スタッフがそんな言葉と共に駆け寄ろうとしたが、青年が「……お前ら」と静かに口を開けば、瞬時に立ち止まった。
「迷子のお子さん達を預かるという大役があるのに、来させるわけねえだろう。俺のことは気にすんな、仕事しろ」
「組長……」
「今回の仕事が成功すれば、来年以降もイベントやらせてもらえるかもしれないし、迷子センターも任せてもらえるかもしれない。気ぃ引き締めろ」
「うっす!」
強面の男四人が一斉に返事をして頭を下げる姿は、幼子に少しばかり刺激が強かったようで、眠っていた子とぼんやりしていた子は目を見開いて背筋を伸ばし、不安そうだった子は瞬時に目が潤み出した。
それに気付いた少女が傍に行こうとした時には──既に白熊が駆け寄っている所だった。
少女と共にいた白熊でなく、
「苺のかき氷、美味しいよ!」
青年と共に来た白熊だ。
「茉白ね、かき氷は苺が好きなんだ! お嬢ちゃんも、苺好き?」
まだシロップのかかってないかき氷を差し出しながら、茉白と名乗る白熊はそう語り掛ける。
泣き出す寸前の幼子は、かき氷と茉白を見比べた後、こくんと、頷いてみせた。
「やっぱり苺だよね! ふぶくんふぶくん、苺のシロップかーけーてー!」
「了解、まーしー!」
ふぶくんと呼ばれた青年は、三白眼が見る影もなく垂れ下がり、ほんのり恐怖心を抱く笑みを浮かべて白熊と幼子の元に行く。
きっと本人は満面の笑みのつもり、だろう。
幼子の引っ込み掛けた涙がまた滲みだしたが、かき氷に苺がかけられると、一気に瞳は輝きだした。
「召し上がれー!」
スプーンを差し出されながら茉白に言われ、引ったくるように受け取ると、幼子はかき氷にかぶりつき──少しして目を細めて悶えだす。
かき氷の一気食いにはお気をつけ下さい。
幼子の背中を優しく撫でながら、茉白は周囲に呼び掛ける。
「皆の分もあるよ! 苺以外のシロップもあるけど……苺にしてくれると嬉しいなぁ……」
「いっけね、まーしー。俺、苺以外のシロップ、持ってくんの忘れてたわ」
「もー、ふぶくんったら。苺食べれない子がいたらどーするの?」
口では怒りながらも顔はにこやかな茉白に、幼子二人は「食べれるよー」「大丈夫ー」と元気に答えていた。
それなら良かったと、ふぶくん自ら幼子達にかき氷を配っていく。当然、白熊と少女にも。
「君達も大丈夫か、苺」
「だーいじょーぶ」
「大丈夫ですの。……あの」
ほんのり警戒しながら、白熊は訊ねた。
「何で、かき氷くれるんですの。屋台の人なんですの?」
ふぶくんの容姿もだが、強面男性達に組長なんて穏やかじゃない呼び方をされていたのも、白熊的に引っ掛かったらしい。
その警戒心はふぶくんにも伝わっており、あー、なんて言いながら一瞬視線を逸らして、けれどすぐに白熊と目を合わした。
「屋台っていうか、広場の方でかき氷のイベントやってるんだ。これは俺の組い……従業員への差し入れ。大人だけだと不公平だから、君達にも差し入れ」
「……そうですの」
「ありがとーございまーす」
ゆっくりお食べと言って、青年は離れていった。
「……」
「悪い人じゃなかったのにー」
「……ですの」
会話をしていく中で、白熊にもそれは分かったらしい。
じっと、遠ざかる青年の背に視線を向けた。
「それじゃ、まーしー。会場に戻るか」
「茉白、ここにいる」
「え、どうしてだよまーしー」
「そろそろまふちゃん、着きそうなんだって。ここで待ってる」
「あ、もう夏期講習終わったのか」
「大変だよね、受験」
「だなー。……じゃあ、最後にその」
「むぎゅー」
一頻りむぎゅりあった後、強面男性四人に頼んだぞ、なんて声を掛けて、ふぶくんは迷子センターから出ていってしまった。
「……ねー、むぎゅるー?」
「むぎゅるって何ですの? ……ん?」
ふいに視線を感じ、顔を向ければ、茉白がこちらに近付いてきていた。
「こんにちわ! 白雪茉白です!」
少女とタイマン張れるレベルの、弾ける笑顔であった。
「こんにちわー! 黒鳥サクノでーす!」
先に少女ことサクノが挨拶を返し、
「……黒鳥イチコですの」
遅れて白熊ことイチコも名乗った。
「同じ白熊さんがいたから来ちゃった! この辺に住んでるの?」
当たり前のように隣に座ってきた、茉白からの質問。イチコがそっとサクノに目で助けを求めれば、「んー!」とかき氷を楽しんでいる所で。
自分が答えなければいけない、人見知りならぬ熊見知りのイチコは、自身のかき氷を見つめながら返事をする。
「遊びに来てますの。でも、保護者とはぐれて、ここに」
「あっ、そっか。早く迎えに来てくれるといいね。お母さん?」
「……」
もう一度、サクノに目を向けても、サクノはかき氷を楽しんでいる最中で。
「……姉さん、ですの」
言いながらほんのり、違和感を覚えていた。
イチコが『黒鳥イチコ』になったのは、つい最近。
家族なんていなかった。
兄弟もいなかった。
いたのは仲間だけだった。
それなのに急に、姉が三人もできて、良くしてはもらっているが、まだまだ現状に慣れていなかった。
熊見知りだから、尚のこと。
◆◆◆
で、この後になんやかんや二頭は仲良くなりマブダチに。
書いてて楽しかったのですが、この話だと、まふちゃん高三なのですよ。
イチコちゃんの出番も高三の夏以降でないと辻褄が合わなく……うん、なるんですよね。
まぁ、黒鳥家は時空移動者の人達って設定があるので、何食わぬ顔で高三の夏以前でも登場できるんですけど……。
混乱を避けて、一応、没。
ちなみにイチコちゃんのお名前は、壇一雄さんから取ってやす。