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一万フォロー記念+イベントには全力ダイブ短編

※ この短編は『てけとーじくー』により構成されています ※
※ 著しく本編の雰囲気を損ないます、なんでもありです ※
※ まあええか、の精神でお付き合い下さい ※

※ 大体クィナ編②くらいまでのネタバレを含みます ※















『☆トリック&トリート☆』

    ※   ※   ※

 『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞおっ!』

 部屋の扉を開けたら、珍妙な恰好をしたエレーナとブリジットが珍妙なことを言って押し入ってきた。

 手にはカボチャのランタン。
 それと同じ刺し色の入った、なんともめでたい恰好した二人。

 今日は朝から装備の整備をしていたから、ちょいと手が汚れているんだが。

「あぁ……なんか最近流行ってるアレか」

「そうだぞーっ」
「悪戯しちゃうぞおっ」

 手首から先をだらりと垂れさせ、珍妙な姿勢を取る二人。
 何とも愛らしいが、一つ問題がある。

「二時間後くらいにまた来てくれないか。今は用意がないんだよ、ははは」

 朗らかに笑った途端だった。

「ほほう」
「お菓子がないと」

 ギラリと目を輝かせた二人の口がにんまりと広がった。

「悪戯だーっっっ!!」
「いやっほおー!!」

 半時くらい擽られ続けて、本気で笑い死にするかと思った。
 様子を見に来た、普通の恰好をしていたマリエッタに助けを求めたのに、なぜかじっと見られて考え込んでいた。

    ※   ※   ※

 「逃っげろー!!」 
「おーぅ!!」

 悪戯娘二人が突風みたいに去っていった後、お菓子を持っていなかったマリエッタも程々に擽られて、笑い転げて地に伏した。
 また誰かが捕まって被害者が増えていくも、一先ず俺は床を這ってマリエッタの元へ向かう。
 笑い過ぎて腹筋が痛い。
 あいつら遠慮容赦なくやりやがって。

「大丈夫か、マリエッタ」
「はぁ、はぁ……はぁぁぁぁ、なんとか、生きてます」

 言葉の割には嬉しそうだ。
 元々マリエッタは皆から絡まれたり遊んで貰うだけでも嬉しそうにするもんな。
 素直で可愛らしい我がパーティの末っ子、そして、

「センセイはご無事ですか?」

 俺の愛弟子だ。
 最近は少し体力も付いてきたが、無茶をすれば倒れてしまう。
 分かっているからエレーナ達も手加減したんだろう。
 そんな彼女の目標は、立派な戦士になることだ。
 戦士。
 魔術師でも神官でもなく、身を張って戦う戦士だ。

 そこに憧れた経緯については、床を這っている状態じゃあ恰好付かないから省略しよう。

「あぁ。にしてもアイツら、要求するもんがあるなら先に告知しておいてくれよ。急に始めると乗っかるにも乗れない催しだろ、コレ」
「……昨夜思い付きで衣装を作っていましたから」
「なるほど思い付きか」

 まあでも、と膝を付いて立ち上がり、マリエッタに手を差し出す。
 ちっちゃな手を握り、引っ張り上げるんじゃなくて、自力で立ち上がる支えとなってやる。
 無理にやると脆い筋を痛めるってのもあるが、彼女は助けられるお姫様じゃなくて、戦士になるんだからな。

「っふふ」

 立ち上がったマリエッタが嬉しそうに俺を見上げてくる。
 もう繋いでいる必要は無いんだが、まだその手は握ったままだ。

 いいさ。
 手を引いて歩いている訳でもないんだしな。

「でも、ちょっと羨ましかったです」
「可愛らしい衣装だったもんな」
「そういう訳では……ないんですが」

 ふぅむ。
 コレは複雑な乙女心。

 どれが原因だろうなと考えるが、答えは急がなくていい。
 探すのも楽しさの一つだ。
 俺達は冒険者だからな。

「マリエッタ」
「はい、センセイ」

 一先ずこの旅を楽しもう。
 幸い今日は暖かく、危険も怖さもない一日だ。

「また悪戯されないよう、一緒にお菓子作りをするか?」
「っ、はい!」

 そんな訳で、火の落ちた暖炉前を相変わらず根城にしているティアリーヌが揉みくちゃにされているのを見つつ、俺達は我が身大事とクルアンの町へと繰り出していった。

    ※   ※   ※

 買い物を済ませ、二人で普段とは違う、ちょっと落ち着いた雰囲気の道へと脚を向けた。
 クルアンは俺でも把握し切れないほどの酒場で溢れているが、たまにあの騒がしさから抜け出したいって奴も居て、そういう場合はこの辺りへやってくる。

 古ぼけた石畳と、石を土台としながらも上部は木造。
 結構古い土地なんだ。
 住むには不便のある場所だけど、道幅は広くて、けれど主要経路からも外れているから馬車や荷車なんて通らない。搬入の奴らも表は遠慮して裏道を通るし、そこも結構広いからな。

 そうして生まれたのが、道へ広々と椅子と机、そして日除けの傘を並べての優雅な屋外席(オープンテラス)。

 自然と、やってくる客も荒くれ者共じゃなくて、そこそこ良い暮らししている街中暮らしの連中だ。

「あら、珍しい顔ね」

 そこに、あまりにも予想外の顔があった。

「…………なんでお前が居るんだよ」
「お祭り企画に理性って必要かしら? 最初に断っておいた筈よね?」

 なんだかトンでもないことを口走ってるが、受け入れつつある自分も居て、正直参っちまうな。

「だからってお前、脈絡なさ過ぎだろ…………ラウラ」

 名を呼ぶと、長寿の血も入っているらしい、見た目にはマリエッタと同じ年頃の女が嬉しそうに笑ってみせた。
 マリエッタは生まれつき身体が弱く、興奮するだけで倒れちまうような虚弱さだが、そこに輪をかけて細い。

「えっと……お知り合い、でしょうか?」
「将来を誓い合った仲よ」
「ええ!?」
「違うぞ」
「ええ!?」
「あんなに深く愛し合ったのに、仕方のない子ね」
「…………ええ?」

 振り回されるマリエッタ。
 コイツの言動をマトモに受けてると疲れるぞ。

「え、えっと…………よろしくね、ラウラちゃん」
「……………………っぷ」

「笑ったわね!? そこへ直りなさいロンドッ、この私が成熟した身であることを思う存分味合わせてやるんだからっ!」

 止めろよ、大人げないぞ、見た目通りにな。
 第一往来で口走ることじゃないだろ。

「悔しかったらもっと食って肉付けな。マリエッタの方が筋肉付いてきてるぞ? 研究職だからって引き籠り過ぎは身体によくない」
「運動ならロンドが付き合ってくれればいいじゃない」
「そういえばお前とは大抵ソレばっかだったな」

 我ながら行動が安直だった。
 ちゃんと向き合うこともせず、話を聞いてもディトレインの事ばかりに繋げて、それで、

 あぁ、今はいいよな。
 祭りに理性は要らないって、まあ迷惑かけないこと前提だが、悪くはないさ。

「ねえロンド」
「うん?」
「私、今お菓子を持っていないのよ」

 得意顔で誘ってくる脳内桃色女。
 だが俺の隣でマリエッタが息を呑んで目を輝かせた。

「お菓子が無いなら悪戯していいんですよねっ!? やったーっ」

 憐れすけべ女は無邪気っ娘に敗れ、なんだかんだ楽しそうに擽られることとなった。

「ラウラ様!? っ、あ、っく! コレはキサマの仕業かっ!!」
「おうリリィ、ちょうどいいや、その菓子貰っとくな」
「ああっ、私のパンケーキがっ!?」

 しまった。
 リリィのを取ったら、悪戯出来ないじゃないか。

 そんな訳で(?)俺達はラウラとリリィをお菓子作りへ参加させることにした。

    ※   ※   ※

 腕が痛い疲れたと早々に根を上げたラウラが、暖炉の脇で丸くなるティアリーヌに寄り掛かって寝始めた。
 調理に使いたいから暖炉へ火を入れてある。
 まあ、気分的に今日は秋だし、弱火だから悪くはない。

 甘い臭いに上機嫌なティアリーヌの尻尾が揺れる度、ラウラの顔面にぺしぺし当たっているんだが、いたぶられるのが何だかんだ大好きな女は悪くないって感じの表情をしている。

「すみません……私もまだまだ腕が、センセイのようにはいかず」
「あぁいえ、私も騎士ですから、この程度はなんてことありません」

 ラウラ、マリエッタ、リリィと受け継がれてきた生地は、そろそろいい具合だなってくらいにツノが立ってきている。
 というかリリィもそう腕が太い訳じゃないのに、身体の使い方が上手いからか、俺の言った通りいい具合に空気を含ませてのかき混ぜが出来ている。

 周囲は既に粉だらけ。
 最初に面白がってラウラへ任せた俺が馬鹿だったと反省するばかりだが、どうにかフィオが戻ってくる前に仕上げて、完成品で懐柔するとしよう。

「無理に力で押そうとすると、身体も武器も痛めてしまいがちです。このかき混ぜる道具も同じで、そっと差し込んで、生地を斬れる分だけ斬るようにすると良いでしょう」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……リリィさんの手つき、なんだかとても綺麗です」
「そ、そうですか? ふふっ、お役に立てたのなら何よりです」
「はい! 切れるだけ切る、無理には押さない、ですねっ」

 マリエッタに尊敬の眼差しで見詰められるリリィは、やや気恥ずかしそうにしながらも案外面倒見良く話を続けている。

 一方で俺は黙々とクリームを作成していた。
 甘い臭いがここからが最も強い。
 時折瞼を開けたティアリーヌが獲物を狙う目で俺を見てくるから、ちょっと油断ならない。

 後でオーブンとして使うつもりだが、まずは余熱の段階でクリーム造りだ。

 牛乳を弱火でじっくり温めて、卵黄と蜂蜜を混ぜておいたものを少量ずつ加えていく。一気になるとダマになるから、ここは根気良く。
 そうしてしっかり混ざったら、次は水で溶いた小麦粉も同じように加えていく。
 トロみが付いて来れば十分。
 なべ底と火の当たる位置が焦げないよう、これも丁寧にこそぎ落としながら、仕上げにバターと裏ごししたかぼちゃを加える。
 通常の生クリームならチーズを加えてもいいが、今回はかぼちゃが基本の味になるからシナモンがいいな。細かく削っておいたものを更に加え、全体に馴染ませる。

 と、最初に使った卵黄と蜂蜜を入れておいた小皿が無い。
 見ればラウラの抱き枕と化したティアリーヌが目敏く手に入れて器を舐めていた。
 ちょっとはしたないけど、フィオも居ないし大丈夫か。

 よし、カボチャクリームは完成だ。

「生地はどうだ」

「今、型に入れた所です」

「よし。オーブンはこっちだ。様子を見つつ焼いていこう」
「はいっ」

「ふふふぅ」
 手早く動く俺とリリィ、二人を見ていたマリエッタが両手を合わせる。視線を向けると、彼女は何の穢れも無い目で楽しそうに笑い、
「お二人共、仲良しですねっ」

 どうやら出会った当初に揉めていたのを気にしていたらしい。
 悪戯を我慢する代わりにパンケーキを貰っただけなのに、リリィってばプンスカ怒っちゃうんだからねっ。

 なんてふざけた事を考えていた俺へ、リリィは心底冷え切った目を向けてきた。

「誤解です」
「あ、あら……そうなんですか?」
「はい。貴女の前でこれ以上の言及は控えますが、私は彼の首を落とすかアレを落とすかと言われたら、アレを落とします」

 言ってるっていうか、マリエッタに対して言っちゃいけないことまで言ってるよねこの騎士様。
 当のマリエッタはアレの正体が分からず首を傾げているが、出来ればもうちょっとそのまま無垢で居て欲しいな。

 なんとも欲望に塗れた女共に囲まれているからな、心に清涼感が欲しくなるんだ。

「…………何か失礼なこと考えてますね」
「いいや。お前も結構ノリノリだったの、知ってるからさ」
「っっっ!? このぉ!!」

「あら、もう出来たの……?」

「まだだ。性欲魔人はそこで寝てろ」

 寝てろって言ったのに、他の皆が疲れて休んでいる間も、オーブン前で見張りをする俺の背中にしがみ付いて、ずっと無駄口を叩いてやがった。

 あぁ、エロいことはしてない。

 ただ普通に、この町で見た面白いこと、新しく発見したことの報告や感想を聞かされてただけだ。
 部屋の中へ引き籠っていては見られなかった、いろんなものをな。
 ラウラは心底面白い発見をしたみたいに、ずっと笑いながらしゃべり続けていた。

「ふふっ。こういうのも、悪くないでしょう?」

    ※   ※   ※

 『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー☆』

「応ともさっ! とびっきりのお菓子を用意してやったぜ!!」

「いやっほおー!!」
「さっすがリーダーっ、かぼちゃケーキだあ!!」

 事を始めた悪戯娘二人も加えて、戻ってきたパーティメンバー達と特製かぼちゃケーキを食べる。

「にゃはははははは!! おいしーっ! にゃっははははは!!」
「あーっ、そこ私が狙ってたトコにゃのにーっ!!」
「にゃはははははは!!」

 賑やかなのも加わって、酒盛りが始まれば吟遊詩人の出番だ。
 リュートの音色に酔いしれながら、招待したバルディと、その相棒一家もまた祭りへ加わる。寡黙で口下手な野郎が、さっきから娘と妻から悪戯しちゃうぞと脅されている。あぁ、頑張って用意してやりな。今日の所は甘んじてな。

 大いに飲んで、大いに笑い、大いに歌う。

 冒険者と、それに寄り添う者達と、別に何でもない友人達と、ただただ日常を謳歌する。
 明日にはどうなるかも知れない身ではあるけどよ。

 たしかに、こういうのがあってもいいさ。

    ※   ※   ※

 因みに、

『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞーっ☆』

 たっぷり悪戯し合った後で、リディアと二人でお互い用意していたお菓子を食べた。

 別にいいじゃん?




2件のコメント

  • あの世とこの世の境を曖昧にしてくれる素敵な日だな
  • 皆で仮装していれば、本物が混じっていても分からない。
    ズルい手法ですが、楽しんでいただければ。
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