とりあえず期間限定シーン集を二つ、近いうちに再掲しておこうと思います。
・巻き込まれ異世界召喚記SG
・巻き込まれ異世界召喚記X
一つ目は宮川優斗の息子、結人の物語。
二つ目は二人の大魔法士が邂逅する物語。
こんな感じのシーン集です。
~~巻き込まれ異世界召喚記X~~
弾む息と痛む身体に苛立ちながら、まさしく反則だとマティスは感じていた。
相対している敵。蹂躙し、打倒すべき敵。
だというのに大魔法士は勝ち目が一つもなかった。
「さあ、どうした。どうやって我を倒すつもりだ? 始まりの勇者がいたところで貴様は我を殺すこと叶わぬ」
絶対の優位を持つ敵から投げかけられた言葉に、マティスは唇を噛み締める。
自分だけでは舞台に立つことが出来ない。
どうしても一人だけでは敵が持つ“理”に、乗り込むことが出来ない。
強さの上下ではなく、技術の上下ではなく、意思の上下ではない。
ただ単純に“同じ舞台”に立っていない。
それだけで勝負の範囲外に追いやられている。
だからマティスが勝つ可能性を見出すことは皆無だと、そのように考えるのが普通だろう。
しかし百戦錬磨の怪物は、勝機に繋がる魔法を考え付いていないわけではなかった。
――とはいっても、この魔法は……。
始まりの勇者がいたところで勝てない敵。
けれど、だからこそ見出した可能性がある。
――私にもう一度、使う覚悟はある?
かつて幸せと後悔を得た魔法。
一生、後世にまで残ってしまうであろう魔法を使った。
本来は似通ったことすらやるべきではない。
断じて使ってはいけないと自らを戒める必要がある。
――だけど“君”であれば……と、甘えてしまう私がいるんだよ。
戻せない可能性が生まれるとしても、戻れないわけがないと思ってしまうから。
不幸に繋がるとしても、それすら打ち砕くことが出来ると分かっているから。
「さあ! 貴様が勝てないのであれば、この世界がどのようになるかも分かっているはずだ!」
響いた声にマティスは反応し、強く強く敵意を向ける。
このままでは世界が塗り替えられる可能性があることも分かっている。
だから舌打ちし、拳も握りしめた。
それは目の前にいる敵に……ではなく、自分自身に対して。
「……ごめん」
どれほどの魔法を放とうとも、精霊を使役しようとも一人では通用しない。
自分一人だけでは勝つことが出来ない。
「だけど私は“君”だからこそ……ううん、私が識っている中で“君”だけは例外だと思ってる」
会ったことはないけれど信じられる。
見たことはないけれど分かっている。
――同じだからこそ、それが出来ると識っているから。
だからマティスは大きく息を吸った。
唯一の可能性を求めるために。
『私は望む。過去、現在、未来、延々と続く軸に“私”がいることを』
敵を倒すために必要なことを望み、マティスは言霊を詠み上げる。
それがあまりに理不尽で、あまりに自分勝手な詠唱であることを理解しているけれど。
それでも今の自分が勝つために見出せるのは、これしかないから。
『違うとしても同じで在る。同じだとしても違う存在』
きっと理解してくれるはずだ。
身に起きたことを察して、共に戦ってくれるはずだ。
「……大魔法士? 貴様、まさか……」
瞬間、自分が何をしようとしているのか気付き、飛び込んできた。
いるはずがないとせせら笑っていたのに、それでも那由多の危険性に気付き排除しようとしてきた。
『きっとどこかにいるのだと、誰よりも私は切望している』
けれどマティスは手に持つ九曜を用いて、敵の攻撃を捌く。
次いで受け止め、吹き飛ばされても尚、詠むことだけは止めない。
『だから――来て欲しいんだ』
さらなる追撃をしようとする敵に対し、マティスは内心で『お願い』と呟いた。
次なる言霊で神話魔法は完成する。
どの世界ではなく、どこの世界でもなく、この世界にいるはずだと信じた。
何年、何十年、何百年、何千年。
過去と未来のどこかにきっといる。
『“もう一人の私”』
自分と同じように最強の意を持つ、大魔法士が。
こんな感じのシーン集です。
思い付いたのはいいのですが、どちらも本編関係ないので期間限定にします。
また本編に関して、次章は優斗とクリスが動く物語です。
レンフィ王国魔法学院と二泊三日の短期交流を行うため、リライト魔法学院の生徒として向かった優斗とクリス、そして生徒会の後輩達。
そこで彼らは、王太子の婚約者として出迎えてくれた一人の侯爵令嬢に出会う。
というわけで、次は『悪役令嬢』ものです。