巻き込まれ異世界召喚記SG及びXは明日、削除します。
同時に次の話のプロローグを更新する予定です。
導入部はこのようになります。
Call my name:プロローグ抜粋
生まれた時から王太子の婚約者になることが定められていた。
権力欲の強い父によって、自由に生きることを許されていなかった。
幼少期から優れた王妃になるため、数多の教育が施された。
自分の時間など、持てるはずもなかった。
それでもまだ家族の愛情があれば……いや、誰か一人でも見てくれるのならそれでよかった。
たったそれだけで、よかったのに。
誰もが一つ下の美しい妹に心奪われていく。
親も、婚約者も、皆が妹の側に集まっていく。
自分の周囲には誰もいない。
近寄ろうとする者も、様子を窺う者もいない。
それが昔は悔しかったが……今は誰にも期待することはない。。
幼い頃からそうだった。
身体が弱かった妹に、親は過剰なほど構った。
自分が政略の道具故か、それとも妹の美しさ故かは分からない。
唯一分かるのは、親の関心も愛情も全ては妹に注がれていた。
代わりに自分には――何も与えられなかった。
欲しいと何かを強請ったことはない。
いや、強請ることを許されなかった。
けれど妹が強請れば、何でも与えられる。
自分の物でさえ、妹が気に入ればすぐに奪われる。
もちろん一緒に観劇に行ったことなく、一緒に誕生日を祝ったこともなく、父の休暇の時は当然、三人だけで別荘へ向かって自分は王妃教育。
自分だけは家族ではないのだと、まざまざと見せつけられた。
そして遠く離れた場所にいる自分を見つけた妹が、勝ち誇った表情をしていることに気付いた。
さらにはいつの間にか、自分が妹を虐めていると両親に詰られるようになった。
正直言って意味が分からない。
そんな暇がないのは父が一番理解しているはずで、そんなこと出来るはずないのは母が一番分かっているはずだ。
けれど否定しても、反論しても、意味はない。
自分は家族ではないのだから、他人の声が届くことはない。
そして王太子とお茶をする時もそうだった。
成長するに従って健常になった妹が、王太子とのお茶に加わってくる。
最初から王太子と仲が良かったわけではないが、それでも婚約者とのお茶に妹が毎度のように加わるなどあり得ない。
だが親は当然のようにそれを許し、王太子も美しい妹に絆されて受け入れた。
気付けば王太子との会話はなく、妹と彼が話しているだけ。
何のために、誰のためにお茶をしているのか分からなくなってくる。
けれど、それでも自分は王太子の婚約者で。
未来の国母となるのだから。
頑張らなければならない、と。
そう思っていた。
だけど。
両親や王太子が妹の名を愛おしそうに呼んでいる時に……ふと気付いてしまった。
自分は誰からも名前を呼ばれないことに。
歴とした名前があるのに、呼ばれた記憶がない。
常に家名と爵位、それに令嬢を付け加えて呼ばれるだけ。
妹のように名前を呼ばれることはない。
それを理解した瞬間……息苦しいと思うようになった。
王妃教育や公務、学院、家にいる時でさえ息が上手く吸えなくなる。
自分がどうしてここにいるのか、自分が何故生きているのか。
分からなくなってくる。
病弱であれば良かったのだろうか。
妹のような美しい容姿を持っていれば良かったのだろうか。
それとも相手を陥れることを、当然のように思えれば良かったのだろうか。
考えたところで分からなくて、だからこそ思考を放棄する。
何をしたところで、どうしたところで無駄だから。
自分は絶対に妹と同じにはなれないし、同じにはなりたくない。
代わりに、胸に手を当てて目を瞑った。
諦めることはしない。
誠実に生きていれば、真っ直ぐに生きていればきっと幸せになれる。
今、自分の支えとなっているのは二つの灯火だけ。
記憶に深く刻み込まれている、令嬢と王女だけが支えになっている。
どちらも一度しか会ったことはないけれど。
相手にとっては、どうでもいいことだろうけれど。
それでも自分にとっては、どうしようもないほど覚えている出来事。
一人は自分に唯一、温かな気持ちを与えてくれた。
もう一人は自分に唯一、間違っていないと道筋を与えてくれた。