タソは、その世界では金髪碧眼の美少女でした。
顔はドイツ系の美女です。
彼女は茨城県笠間市のラノベ作家もどきの家で発生し、タソの記憶を受け継いで自由に生きることにしました。
生まれたままの姿だった彼女は、タソに別れを告げて、その万能なスキルにより衣服を出現させました。
白のブラウスにグレーのカーディガン、赤黒チェックのミニスカートは、まさにタソの好みの服装でした。
彼女は長いサラサラの金髪をなびかせ、警察署に向かいました。
目的は戸籍の取得。名前も住所もないのでは生活が不便です。
「すみません。記憶喪失なんですけど」
「え……日本の方ですか?」
「さあ。何人かもわかりません。でも日本語と英語、ロシア語に中国語もできます」
「ちょ、ちょっとお待ちくださいね」
警察は混乱した。見た目はヨーロッパ系の白人である。
担当の警察官は、どこから記憶がないのか、どうやってここまで来たのか詳しく事情を聞いた。
彼女は『タソの分身である』という真実以外は全て嘘偽りなく話した。
手から炎を出せることも、空を飛べることも。
警察はますます混乱した。
ただの記憶喪失ではない。これが警察の第一印象だった。
それからというもの、彼女は最寄りの1番大きな病院で暮らすこととなった。
脳のCTスキャンでは、脳が16分割であることが判明し、心臓は左右に2個、腹部には未知の臓器が確認された。
彼女は入院から10日目、内閣情報調査室から来たという男性と会った。
「牧村と申します。これから横田基地に向かいますので、準備して下さい」
彼女は言われるままに屋上のヘリコプターに乗った。
牧村が言うには、アメリカと合同で能力の検査をするとのこと。
横田基地からは、輸送機でエリア51に直行するとのことだった。
「あー、なんて呼べばいいかな? 名前覚えてないんだよね?」
「はい。可愛い名前付けてください」
「いや俺はそういう立場じゃないから」
彼女は、本当は大ごとにしたくなくて、日本でのんびりと暮らしたかった。
いつでも輸送機の壁を突き破って空に出られる。しかし、彼女はそうしなかった。
エリア51では、空軍大佐を名乗る男性が英語で自己紹介を始める。
「マカキャリー大佐です。しばらくこちらで生活してもらいます。身の回りの世話をさせて頂きますので、よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも」
基地の周りには何もなかった。
彼女は基地で『S.O.E』と呼ばれた。
Suspicion of evolution.『進化の疑い』
皆は揃って彼女をソーイと呼ぶ。
基地での実験は多岐に渡った。
エスパーカードによる透視、思考の読み取り、瞬間移動の限界距離、厚さ5メートルの鉄ブロックの破壊、手のひらから発生する炎の限界温度など、さまざまなデータを取得し、彼女の限界を測る。
結果は全て『最大値または測定不能』
アメリカは実験と並行して、彼女の『破壊プロトコル』を企画した。
その瞬間、彼女は人類が敵に回る可能性を察知した。
翌日、彼女は無断外出を決行。
目的地はホワイトハウス。
正面入り口から歩いて入ると、警備が慌ただしく銃口を向けた。
「フリーズ!」
彼女は手を翳し、銃を凍り付かせた。
まるで氷細工のように金属やプラスティックが氷に変質し、あらゆる武装が解除される。
「話をしに来ただけ。落ち着いて?」
彼女が屋内に入ると、冷静な男が話しかけて来た。
彼は彼女の脱走の報告を受けており、万が一にもホワイトハウスに来るようなら『破壊しろ』と命じられていた。
「ハロー、ソーイ。何の用かな?」
「私を壊すの?」
「君が乱暴な事をしなければこちらも何もしない。落ち着いて基地に戻ってくれないか?」
「大統領から直接聞きたい」
その後、大統領は彼女が国民に銃口を向けるようなことをしなければ、安定した暮らしを約束すると話した。
それは彼女の脳に『絶対に破ってはならない約束』として焼きつき、彼女はそっとエリア51へ戻った。
2年後。
「ヘイ! ソーイ! あの南米野郎を撃ち殺せ!」
そこはテキサス州。
国境では人身売買組織とCIAの銃撃戦が繰り広げられていた。
ソーイは慣れた手つきで右手を12.7ミリ弾を撃ち出す銃に変形させ、轟音を響かせて敵の頭部を消し飛ばす。
アメリカはすっかりソーイを私物化していた。
これに反発したロシアが、とうとうソーイを標的にした暗殺作戦を実行する。
中国と共同のこの作戦は、ソーイにとって『人類の裏切り』だった。
ソーイは静かに西へ向かった。
その先で繰り広げられたのは、一方的な虐殺。
それに巻き込まれた日本は朝鮮半島を含めた大規模な戦争に直面する。
ソーイはタソが心配だった。
アメリカの要望を無視し、日本を防衛するソーイは、その勢い余ってロシア、中国、アメリカまで爆撃し、世界三大軍事国家を壊滅させた。
「ふう。やっぱり日本が落ち着くなー」
ソーイはちょっとした世界旅行でもしたかのように、タソの家でミルクティーをがぶ飲みした。
「いや、お前なにしてくれてんの?」
「うわー、タソが私のこと理解できませんって言ってる」
その後、ソーイは身を隠し、髪色や肌の色を変えて、暴力に晒されている人々をこっそり救う活動をしている。
牧村と密会し、戸籍も住居も与えられた彼女は、ようやく落ち着く『我が家』を手に入れ、内閣情報調査室の監視の元、平和に暮らしましたとさ。
おしまい。