星海社の座談会でもレビューでも散々指摘されてますが、僕はオマージュやらパロディやら好きあらばねじ込みたくて仕方ありません。むしろオマージュをするために小説を書いていると言っても過言ではないでしょう。もはや自分でもどこに入れたか把握しきれない量のネタを仕込んでいます。将来的には作品の考察サイトが出来るところまで妄想してたりします。そういうわけで、読む人にはどれが何のネタか探してほしかったりします。とはいえこんなの自分しか気づけないだろという仕込み方ばかりしているので、気づいてもらうためにいくらかヒントを提示してみることにしました。とりあえず『呪われた黄金の飢餓』を例にします。
まずネタの仕込み方にはいくつか種類があります。一番単純なのはキャラの名前ですね。名前のあるキャラは4人しかいませんが、全員元ネタがあるというかそのまんまです。作者的には一応主人公という位置づけのフランク・モリスは、映画『アルカトラズからの脱出』でクリント・イーストウッドが演じる役名です。また、『吸血鬼ドラキュラ』のキンシー・モリスにもかけています。ちなみにどうして吸血鬼物でイーストウッドイメージのキャラを主役に据えたのかといえば、もともと当初本作の舞台は日本で、主人公の名は金太郎でした。wikipediaにも載っていますが金太郎は赤竜の子供という伝承があります。そして金太郎から『続夕陽のガンマン』の金髪《ブロンディ》にイメージを重ねたわけです。ちなみに作中でゴリラズ「クリント・イーストウッド」が出てきますが、このシングルのカップリング曲はなんと「ドラキュラ」です。すごい偶然ですね。僕自身気づいたときには鳥肌ものでした。あと、ジョジョ3部の主人公である承太郎のモデルがイーストウッドというのは有名な話ですが、ジョジョは吸血鬼物でもありますね。ああ、そうそう、ほかのキャラ3人は、吸血鬼とイーストウッド、その両方に関連する名前をつけています。それにこだわったせいで名付けには一番苦労しました。
次に単純なネタの仕込み方は、他作品の引用ですね。そのまま引っぱって来たものもあれば多少もじったものもあります。その次はアイテムの引用、『ダーティハリー』から持ち出した44マグナムと44オートマグがこれにあたります。この辺を見つけるのはそう難しくないでしょう。
ここから難易度が上がります。まずストーリーに仕込んだネタです。本作は大筋で二つの物語を下敷きにしています。ひとつは『続夕陽のガンマン』お宝を巡る三つ巴の旅という部分がそうです。そしてもうひとつは『ニーベルンゲンの歌』です。もともと本作を思いついたのはジークフリートがきっかけなのです。ジークフリートは竜の血を浴びただけで不死身を手に入れた、なら竜の血を直接受け継ぐ竜の息子《ドラキュラ》だったら? 紆余曲折のうちにそもそもの要素はだいぶ薄くなりましたが。
そしてこれが最後です。ネタを見つけるのに最も難しいと思われるのは、シチュエーションのオマージュです。ストーリーのオマージュを細分化したものと言えるかもしれません。例えば冒頭のひげそりのシーンは、『星空の用心棒』『ミスター・ノーボディ』そして茨木童子の伝承をオマージュしたものです。もっと細かいものになると、モリスがキンスキーを酒場で挑発するところは『夕陽のガンマン』『殺しが静かにやって来る』、酔ったモリスが酒場で人のポテトを横取りしてケンカに発展する場面は『ダーティファイター』です。こういうネタをこれでもかと仕込んでいます。むしろ本作はオマージュのツギハギに過ぎないと言ってもいいでしょう。吸血鬼物の皮を被っていますが、実際にはフランケンシュタインなのでした。黄金だけではなく、花嫁を求める物語でもありますしね。
以上、ここまで読んでくださって興味を持ったかたは、ネタがどこに仕込まれているかぜひ探してみてください。見つけた数を数えているうちにきっとうんざりすること請け合いです。