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カー学3章1話

まだ出来は荒いが書いた。続きは今書いてる。試しに近況ノートに投げてみる。





1話 バエルとCMAのアドバイス


 ある日のこと。

「それでさ、ストラテジーウォーは本当大変で――」

「……」

 666号室。
 自室のベッドの片隅にて。
 玄咲はいつも通りの体操座りでバエルにクラス対抗ストラテジーウォーの事後説明を行っていた。

「シャルナがいなかったら本当どうなっていたか……どうした? バエル。難しい表情をして」

「いえ……そうね。やっぱり私が言うべきよね」

 バエルは真剣な面持ちで玄咲と目を合わせた。

「シャルナちゃんにあまり甘えない方がいいと思うわ」

「――」

 全く思いもよらぬ角度の忠言に玄咲は絶句する。

 バエルは心を痛めているかのような表情を作って言った。

「私だってこんなこと言いたくないわ……でも、誰かが言わなきゃいけないことなのよ」

「えっと、どういう意味なんだバエル。俺がシャルナに甘えてるって――」

「シャルナちゃんは天使のように優しいわね? きっと、二人きりならその優しさに浸って、シャルナちゃんに浄化されて、甘やかな日々を送ってもいいのだと思うわ。でもね――?」

 バエルはその少女のあどけなさに蠱惑的な色気が乗った悪魔的なまでの美貌を数センチの距離まで近づけた。

「世界は残酷なのよ? 知ってるでしょ? そんな浮ついた態度のままじゃきっといつか大切なものを取り零す。世界に裏切られる。些細な心の緩みを容赦なく世界は咎めにくる。不相応なまでに巨大な代償を押し付けてくる――いつかあなたが拷問された時も、そうだったわよねぇ?」

「ッ!?」

 バエルの言うとおりだった。玄咲が敵に捕まった時も、人の情に絆され、玄咲が正気を取り戻しかけたその時の惨事だった。

 ダン――軍隊生活中にできた唯一の友達。その友達を庇ったばかりに、玄咲は痛手を受けて、敵に捕まった。それから後のことは思い出したくもない――玄咲は身震いした。あの時と同じような精神状態だと言われてみればその通りだ。俯き鎮静化した玄咲にバエルは優しく語り掛ける。

「脅すようなことをいってごめんなさい。でも玄咲のためを思って言ってるの。それは分かるわよね?」

「ああ。俺のためになることを言っている。まさに君の言うとおりだった――世界はいつも俺を裏切ってくる。最悪のタイミングで。希望を抱いたときに限って――ッ! 糞ッ! きっとまた恐ろしい裏切りが俺を襲うはずだ。今のまま、腑抜けていたらッ――! バエル、君はそう伝えたかったんだな?」

「そうよ。その通りよ。ダンとかいう人間を救って、その代わりあなたは酷い目にあった。あなたの本質を忘れたからよ。あなたはどうしようもなく地獄を引き寄せ、だからこそ悪魔のように振舞わなければ生きていけない。そういう人間なのよ。だからこそ――ぐっ――ぐ、グッド」

「え?」

「間違えた。ぐっと堪えて、自分で自分を見失わないように、常に意識しなさい。……あなたは昔の自分が嫌いかもしれない。でも私はね」

 バエルが玄咲の胸に手を重ねる。

「昔のあなたも大好きよ。だからもっと自信を持って」

 バエルの言葉が玄咲の心臓の真芯を打ち貫いた。

 玄咲は壊れた玩具のようにコクリと首を振った。

「OK。それでいいのよ。シャルナちゃんの優しさに甘えちゃ駄目よ。イチャイチャし合う爛れた関係になっちゃ駄目よ……」

「……」

 忠告が痛み入る最近の現状だった。友達の垣根を越えたり越えなかったりの謎の関係性に今玄咲とシャルナの二人は陥っていた。何となく良くない――2人ともそう感じていた。

 バエルの言葉はその関係性に釘を刺す意味もあったのだろう。玄咲はバエルの優しさに感じ入った。

「ありがとう。気を付ける。そうだな。今度の試験もあるし、これからは2人で別行動する時間も設けた方がいいか。シャルナも前回のイベントで学年中に強さをしらしめてもう舐められる立場じゃなくなったしな」

「素晴らしい! ファニーグッドな考え方よ! 成長したわね玄咲! レベルも上がったんじゃない?」

「はは、そんな訳……」

 天之玄咲 魂格62

 あった。

 昨日より1レベル上がっていた。

「……」

「……」

「玄咲。あなたの魂って本当女の子が全ての中心にいるのね」

「……冤罪だ」

「口では何とでもいえるわ。でも魂は正直ね」

「……」

「出たわね必殺黙秘権」

「……人並みだよ。はは。どうして魂格が上がったのか皆目見当がつかないな」

「黙ってた方がマシね。うざい」

「……」

 玄咲は落ち込んだ。バエルはため息をついて話を進行した。

「とにかく、シャルナちゃんとあまりイチャついちゃ駄目よ? レベルが証明してる。今はそんな時期じゃないの。もっとストイックに生きなさい。2人離れて行動しなさい……!」

「……うん。それが今は最善らしいな。今後の行動方針に加えておこう。ありがとうバエル。俺の間違いに気づかせてくれた」

「当然のことをしたまでよ。私とあなたの仲じゃない」

「……ああ!」

 バエルとも玄咲は毎日会話している。それだけ関係性も深まった。今の一言に、2人の関係性がよく表れていた。とても歪な関係性だ。

「あとは……寝るか。もう11時だ。明日に備えよう」

「そうね。お休み」

「その前にシーマと話さないとな」

「……うん。約束だものね。仕方ない、わよね……」

「え? なんだって?」

「ううん。なんでもない。それじゃ、変わるわね」

 バエルの首がガックンする。

「お待たせ玄咲! いつもいつでもあなたの最高の友達! 過激で素敵な新世紀を切り開く未来のRPG! CMAの精霊シーマだよ!」

 CMAのCMキャッチコピーを唱えながらシーマが現れる。右目に添えたピースサインが玄咲の脳髄を蕩けさせた。

 それからしばらく玄咲はシーマと楽しく会話した。他愛のない会話が中心。ただ、今日のシーマはどこか様子がおかしかった。何かいい淀んでいる気配が常にあった。

 そして、玄咲が寝る直前、

「あのね、玄咲」

「……なんだ、シーマ」

「バエルちゃんの言うこともね一面的には正しいと思うの。シャルナちゃんも。どっちも正しいと思うの。だからね、だからこそね、私はね」

 シーマはいつものように実体のない手を玄咲の手に重ね合わせながら言った。

「玄咲自身の心に従って欲しいな。大事なことはね、最後は自分で決断するんだよ。それが一番いいって私は思う」

「……シーマ」

 玄咲もまた確かな熱の伝わるその手をギュッと握り返した。玄咲にとってどこまでも特別で愛おしい精霊の手を。

「ああ。そうだな。その時がきたら、きっと」

「うん。きっと――」

 シーマの言葉に玄咲は夢うつつで頷く。

 受け取ったシーマの暖かな心が、胸の深奥に染み入り、それは確たる決意へと変わった。

(俺は、きっと――自分の心に――)

 そのまま安らかな眠りの世界に玄咲は旅立った。

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