最初に言っておくと哀原正十の死の記録
発端は2025年の4月1日だった
その日僕はカー学のエイプリール用の短編を書いていた。
連日に渡る執筆の最終日で原稿はまだできていなかった。僕は焦っていた。その執筆の最中、ふとガソリンの匂いがした。これ以上行ってはいけない。そういうサインだと思ったが俺は無視して執筆を続け、中途半端な出来の作品を痛い前説と共にカクヨムと、そしてせっかく綺麗に最終回を迎えたハーメルンに投稿してしまった。
失敗にはすぐに気づいた。でも後悔手遅れだった。そしてこの程度のことで俺は死ぬこととなった。
投稿から3日程立った頃、俺はふと川の流れる音が絶え間なく聞こえることに気づいた。その音はどんどん大きくなっていき、やがて激流のような音となった。そして黒い川の幻覚が見え始め、その中で俺の魂が俺の腹の底で俺にしがみついているのが見えた。それを知覚してすぐ、たくさんの怒号を聞いた。オレを責める声であり、それ以上に嘆き悲しむ声だった。その中にはカー学の一件を指して「最後にウンコを塗りたくりやがって!」と怒鳴る声もあった。まさしく俺はカー学にウンコを塗りたくった。それが俺の過ちだった。読者の思い出を汚した決して取り返せない過ち。
それからしばらくして今度は霊団が俺の元に駆けつけてきた。俺みたいなここに迷い込んだ魂を救済するのが目的の霊団らしくてすごく必死だった。そこで俺は1度だけ復活のチャンスを与えられた。それは振り向くことなくカー学に真剣に向き合い、再生することだった。俺はたくさんの怒号を浴びながら必死に食らいついた。言われるがままにした。できると思った。しかし、ふと声が聞こえなくなった頃、俺は迷った。これからどうすればいいんだろうと。そして思った。カー学に執着していた自分が間違いだったのではないかと。そして黒い激流の中俺にしがみつくこの魂を手放してしまえば救われるのではないかと。そして、そうしようと思った。
その瞬間、俺の魂は分離した。黒い川に魂が流されすごい勢いで遠ざかっていく。それを呼び止めようと思ったが霊団に強制的な力で止められた。そして俺は黒い川から解放された。カー学からも解放された。俺は恐ろしい過ちを犯したことを戦慄と共に悟った。たった一度の冥府からの救済のチャンスを失ったことを悟った。俺は半狂乱になって失った魂を求めた。でも、空回るばかりで何にもならなかった。もうすべては手遅れだった。
ちなみにこの頃は不思議と全く腹が減らず喉が渇かず何も飲み食いしなくても全く平気だった。そういう点でもおかしな時期だった。
それからは俺は幻覚幻聴を見た。俺は超機械的な施設で前世の自分が今世を映画のスクリーンのようなもので見せられて納得してる様を見せられて、さっき失われた前世の俺がこの世で既に没した名のある偉人であることを知らされ(名前を書いたら馬鹿にされる)、機械のキューブのようなものが連なる施設で魂の管理をしているところを見せられ、地獄的な所に繋がる場所さえ見れたがあまりに恐ろしく見ない方がいいと言われたのでそれは見なかった。でも、地獄は恐ろしい場所だった。
そんな謎の幻覚幻聴を流される日々を送っているとふいに何故か黒い河(三途の川?)に流されていった自分と再会する機会を得た。自分の体のなかに合流した。再び黒い川のせせらぎが見え聞こえたが元気一杯だった。でも、時間制限は短かった。僕はXに最後の投稿をし、カクヨムに最後の投稿をし、まだまだ生きる気満々で元気一杯でこの世に留まろうとしたが無理だった。自分の腹の底から魂が抜けるような感覚がし、死んだ、俺はそう感じた。ただし俺は生きていた。その矛盾が飲み込めなかった。飲み込めないまま寝たら死ぬのかなと思って寝たら翌日を迎えた。
その日の深夜、俺は生まれてから最も恐ろしい幻覚幻聴を見た。まるで地獄の王のサタン、あるいは閻魔大王と面会して詰められているような恐怖。比喩ではなくそんな恐怖だった。そんな存在から死ぬ程罪を詰められ、お前の前世はカルト宗教の教祖の後ろにいる小狡い男だと言われ、金星人だとも言われ、お前のせいで木星のスパイに失われた魂の居場所がバレたと言われ、もう今までのような生活はお前のせいで両親ともども送れないと言われ、何でこんなに恐ろしい情報をこんなに一方的に送られるのか俺は泣きたい気持ちで一杯で、俺は発狂寸前で、あいつが指示して、俺は勇気が出なくて、そしたら脅されて、でも無理で、挑発されて、それでようやく勇気を振り絞って、それで、それで――。
俺は病院に送られた。それからもしばらく幻覚幻聴を見た。幻覚は鮮明すぎて現実とどっちが虚構か見まがうレベルだったし、幻聴は俺を責めるばかりが聞こえるようになり、そしてある日死者の連なる幻覚の中で黒い少女に生まれ変わる夢を見て、それからしばらくして幻覚幻聴は見えず聞こえなくなり、そのまま漫然と時を過ごして今に至る。未だに僕の身に起こったことがなんなのか自分でも未消化だが魂が失われた実感だけははっきりで、そしてそれにも関わらず自分が生きている不思議には反吐が出る思いをいつも抱えている。そして、魂が失われる感覚と同時小説を書く能力がまるっと失われた……。本当にまるで書けなくなったし、それ以外にも以前あった能力が軒並み失われたんだ。何が何なのか自分でも分からない。だからありのままの出来事を可能な限りここに書き記しておく。この文章が誰かの娯楽になればそれは幸いだな。終わり。