⚠︎キスをしているだけなので私は健全だと信じて疑いません()が、校正の際「不健全だ」という声をいただいたので一応この先注意して読んでいただけると幸いです。R-15くらいです。
「む〜〜っ」
つむぎはじっと私を見て、ほっぺたをぷっくり膨らませている。あまりにも可愛すぎて、太陽みたいに直視ができない。
そんなつむぎを思いきりぎゅっと抱きしめたいけれど、同時に困惑もしていた。
つむぎはやきもちをやいている。
つむぎがこの顔で「むーっ」しているときはそういうことで間違いない。けれど、私は今日どころかここ最近でつむぎにやきもちをやかせてしまうようなことをした覚えがまるでない。
私はつむぎのやわらかい両頬を押して、溜めていた空気を抜いた。
「つむぎ。ごめん、何にやきもちやいてるか分からないから教えてほしいな」
「教えない!」
「なんっ」
「で」を言う前につむぎは私を抱きしめた。
抱きしめる力が強くて、つむぎの体温をいつもより感じるし、金木犀のにおいもいつもより強くする。
「せりか」
「なに? つむぎ」
「キス、したい」
「え、んむっ」
**
私はせりかの返事を待たずにキスをした。せりかの両頬を私の両手で押さえて、せりかの唇を少し吸う。
心臓がどく、どくと、酷い音を立てている。
妬み、嫉み、せりかを好きという気持ち、独占欲、支配欲、そして、××。そんな感情たちが私の思考をどろっとしたものに変えていく。
「はっ、はっ……つむぎ、急にどうしたの」
せりかは耳まで真っ赤にして、ふいと私から顔を背けた。せりかの吐息が少し荒くて、私が加減できていなかったことを知った。
「せりかととにかくキスしたい」
「ちょっと、つむぎっ」
私はせりかの髪を撫でて、少しだけ背伸びをした。
いつもの私なら我慢できる。
ハグも、キスも、ベタベタすることも、その、先のことも。
それなのに今の私は壊れたみたいに我慢ができなくて、せりかのことをもっともっと求めたくて、止められない。
きっと、やきもちをやいているからだ。
「せりか、くちあけて?」
「え……?」
「大人の、キスする」
「っ……」
私はせりかの答えを待たずにキスをした。けれど、せりかの口が少し開いたのが、答えだった。
私の舌がせりかの舌に触れる。唇は触れ合ったまま。
夜のリビングは静かで、音がよく響く。
せりかと私の息づかい、衣擦れ、唇が重なったり、離れたりするときの水音。
せりかとキスしていることが音でも分かるのが、なんだか嬉しい。
私はせりかが足りなくて、せりかをぐいっと引き寄せて、せりかのやわらかい舌に私の舌をもっと深く絡める。せりかのと私のがぐちゃぐちゃに混じっていくのが分かる。
舌を絡めるのをやめたり、唇を食んだり、また絡めたり、舐めたり。
舌を絡めるキスは初めてするから、正しいやりかたは全く知らないし、せりかも知らないと思う。けれど、なんだか、とてもだめなことをしている気持ちになる。
「せりか」
「つむ、ぎ」
頭がふやけて、とろけてしまいそう。
それほどせりかとする大人のキスが、せりかが、甘い。
このまま冬の空みたいに、やきもちをどろどろの雲で塗り潰したい。
もっと、せりかがほしい。
「んっ……」
「!」
「んぅ、」
心臓がこれまでにないくらい強く跳ねた。せりかは私の袖を強く掴む。
はじめて聞く、せりかの甘くて、とろけるような声。
舌を絡めるたびにそんな可愛い声が出て、私の唇を震わせる。
可愛い。
「せりか、すき、すき。かわいい」
「ちょ、ちょっとつむぎっ」
私がキスをしながら無理に言葉にすると、せりかは私を引き剥がした。私のかかとがすとんと落ちる。
「つむぎ、落ち着いて。つむぎ変だよ」
「変なのは分かってる。でも、抑えきれない、かも」
「う、うう……。で、でも私も変だから、待って」
「せりかも?」
せりかは小刻みに呼吸をしながら、すわった瞳で私を見た。
「つむぎとだめなキスすると、お風呂の中みたいにふわふわして、おなかのあたりがじわってしたり、胸がぶわあってなる。勝手に変な声出るし」
いつものせりかでは考えられないくらい語彙力が下がっている気がする。本当にのぼせているのかな。
私のキスで、せりかがおかしくなっているのが、嬉しい。
せりかは「水飲む」といって私から離れようとした。私はそれを遮るように抱きしめて、せりかにキスをする。
「つむぎっ」
「せりか。私まだ満足してない」
「で、でも私たちなんか変だから、いったん休憩にしようよ」
「だめ」
私はまた強引にせりかの唇を奪う。
「私のせりかを求める気持ちも、せりかの体がいつもと違う反応をするのも。好きって気持ちがちょっぴり形を変えてるだけだから、伝えかたはいつもと違うけど、伝わる気持ちは変わらないよ」
「!」
「せりかは好きって気持ち、感じる?」
今度はせりかに唇を奪われる。
「……すごく、感じる」
「私も、すごく感じる」
「ねえ、せりか。だからもっと伝えてもいい? それに、せりかからも伝えてほしい」
せりかに聞くと、せりかは両手を腰に回して瞳を閉じた。それはきっと拒絶を意味していなかったから、私はせりかの舌に、私の舌をゆるりと絡める。
さっきは少しやりすぎたと思う。
やきもちが強くて、せりかに半ば強引にキスをしてしまっていた。けれど、私がさっきせりかに伝えた自分の言葉に、やけにしっくりする感覚があった。
当たり前だけれど、キスは好きって伝える行為だ。だから、今度は丁寧に、優しく、せりかとキスをしたい。
この気持ちが、心臓を痛める正体が、もっともっとせりかに伝わるように。
「んっ、ふ……」
「はぁ、せりか、せりか」
「つむぎっ、つむ、ぎ」
舌が絡み合う音、せりかのいつもと違う声、私を呼ぶ、熱っぽい声、心音。
全部、私だけが知っているせりかだ。
「せりか」
「つ、むぎ」
「すき、すき」
「わたしも、すき」
「あっ、だめ。だめ、つむぎ、なんか……へん」
「変だね。変でも、いいよ」
私は、止めない。止められない。止めたくない。
おかしくなりそうなほど、体が熱い。
「せりか、」
「つむぎ、あっ、んん、」
「えっ……?」
「っ〜〜〜〜、」
せりかは声にならない声を出した。私をぎゅーっと強く抱いてから、体がぴく、ぴくと何回か跳ねて、その度に瀬梨香の口から声が漏れる。
せりか、今もしかして――。
「はっ、はっ、はぁ…………?」
「、?」
せりかは何が起こったのか分からないみたいで、フローリングにへたり込んだ。
「せ、せりか?」
「なに、いまの……? なんか、一瞬、こうふん? しすぎてぱちぱちして、まっしろになって、ぶわーって、なった」
せりかの汗がぽたぽたと垂れている。せりかの語彙力は下がりきっている。けれど、もしかしたら、せりかは。いや、そうだとしたら。
私は可愛いと好きという気持ちよりもわずかに、驚きの方が勝ってしまった。
「せりか、それって――」
**
最近、つむぎとたくさんキスをした日から、つむぎは熱心に調べものをするようになった。けれど、何を調べているのか教えてくれない。正直気にはなるけれど、誰にでも言えないことや知られたくないことはあるから、特に深く詮索はしていなかった。
それにしても。
つむぎは大人のキスと言っていたそれは、すごかった。普通のキスとは違って、私が私でなくなるような、それでもつむぎの気持ちを、つむぎを近くに感じられるような、不思議な感覚だった。
私の知らない私の声、つむぎの余裕のない表情、浮遊感。
大人になって数ヶ月経過した今も大人が何かは分かっていない。けれど、確かに未成年にはあまりに刺激が強すぎる、と思った。
もう一度つむぎとしたい。でも、恥ずかしすぎてもうしたくない。
私はトイレから出ると、ソファでつむぎがうたたねしているのが見えた。さっきまで調べものをしていたから、きっと疲れて寝てしまったのだと思う。可愛い。
「お疲れ様だね、つむぎ」
つむぎのつむじあたりを撫でて、私は部屋から毛布を持ってこようとした、そのとき。
つむぎの携帯が目に入った。検索欄には文字が入力されたままだ。
「……どれどれ」
私はつむぎの携帯を覗く。寝ているつむぎが悪いので、私は悪くない。
〈キス きもちいい〉
「えっ?」
〈キス いく〉
「ゔえっっっっ」