拙作悪食は、読者選考を通過できましたものの、最終選考を通ることは出来ませんでした。無念ではありますが、とりあえず登場人物設定やそれに伴う裏話についてつらつらと書くことにします。ネタバレもありますのでお気をつけて。
☆辻崎灯耶
メイン主人公。25歳。
メインなのに、振り返ってみるとどちらかというと弐貴の方が内面描写が多かったなと思う今日このごろ。
元々、悪食という作品は大学で就職活動も上手くいかず、うだつの上がらない大学四年の灯耶青年が、先に警察に就職を果たしていた狗藤朱音と再会し惹かれ合い、そして死別するという話として組み上げておりました。
本作はそれを完全に終わらせた後、朱音との別れを引きずったまま、何となく目標もなく生き続けている灯耶を描いています。
つまり「本編が終わったあと、最強のまま生きている主人公」ポジというわけですね。
作中最強のため、成長らしい成長がないのが大きな難点。
なお、今作では各キャラクターにポジティブな点とネガティブな点を設定しています。
ポジティブ:強い。面倒見が良い。
ネガティブ:本質的に余生という意識のため、人間関係がほぼフラット。人との距離の置き方がほぼ一定。
灯耶の性格設定として、人にあまり興味を持たないという点を強めにしたかったというのがあります。
ただし、悪食使いの素養がある=自分を覚えている人に対してはある程度の情を持ってしまう部分は残っています。これは悪食使い全体に言えることですが、記憶を共有できる相手に強い依存心を持ちやすくなるためです。
メインキャラ三名を比べていただくと分かっていただけると思いますが(むしろ分かっていただけないとキャラメイクに失敗していることになるのですが)、灯耶は他の二人と比べて、自分の心情を彼らに示しません。
最終的に香澄にはちょっと心を開いているかな? といったところ。
現代伝奇として描いたので、特撮要素っぽいものを入れようかどうしようかという点は最後までかなり悩みました。最後の方まで演出しなかったのは、どちらかというとそのためです。
結局最終的には入れたんですが、今でも蛇足だったかな、どうかなってちょっと心配になってます。
☆灯耶の悪食(ネタバレになるため本名は書かず)
黒い悪食。狼がベース。
悪食界隈ではかなりの変わり者で、人間に対してそれなりに情を抱いています。
ですが悪食全体のルールとして、自分なりの『悪の基準』に従っている人間以外には話しかけないというものがあったので、先代の持ち主である朱音には話しかけなかったという裏設定があります。
朱音に対しては、その繊細な心を美しいと感じ、守りたいと思っていました。ある意味で灯耶以上に朱音を愛していた存在です。
朱音がある事件をきっかけに、自分自身を悪と断じてしまったため、朱音の命令で朱音を食らうことになってしまいました。
その後、唯一朱音を覚えていた灯耶が現場に現れた時に彼に話しかけ、自分を焼き捨てて欲しいと願っています。
灯耶はそれを拒否し、朱音の心を追い詰めた元凶をことごとく殺すために協力を願いました。
その時から二人は共犯かつ、朱音という記憶を共有する相棒になりました。
灯耶が「自分自身を悪だと自覚してい」るのに自分の悪食に食われていないのは、互いに共犯関係であるという仲間意識からです。
互いに互いを失えば朱音の記憶を共有している唯一の相手を失うことになる、という極めてネガティブな理由。
なお、性格上の設定はこちら。
ポジティブ:従順。群れの主である灯耶に対しては基本的に異を唱えない。
ネガティブ:朱音と灯耶以外のあらゆる存在に興味がない。同族である悪食さえ。
☆路行香澄
メインヒロイン。17歳。
父親が悪食に食われたことで、辻褄合わせが発生してしまった被害者。悪食使いの適性を持っていたため、辻褄合わせの起きる前の記憶を保持していたことで自分の記憶と現実の食い違いに混乱する、という立ち位置。
性格設定はこちら。
ポジティブ:前向き。折れない心。
ネガティブ:考え無し。勢いに任せて行動する。
力はないけど強いヒロイン、というキャラクター設定は後付けで発生したもの(当初は現実の食い違いに心身の平衡を失う方向で考えていた)でした。
と言うより、ほぼ登場した瞬間から暴走したキャラクターでもあります。
もう少し常識的な動きをする予定だったんですよ? ですが、何だか灯耶との会話でブチ切れるところとか、本当に当初の想定にない動きでした。
書 い て て め っ ち ゃ 楽 し か っ た !
灯耶に対しては憧れとか感謝とかが積み重なった結果、好感度はほぼMAX。本編が続く場合、たぶん灯耶はどこかで根負けして付き合うんじゃないかな。
世捨て人みたいな灯耶がもう一度自分の人生を歩むには、これくらいポジティブの強いヒロインが一緒じゃないと駄目だろうなっていう作者の深層意識が投影されたのかもしれません。
なお、超最初期の白担当は彼女の予定でした(重大なネタバレ)。
☆弌藤弐貴
サブ主人公。28歳。
ラストシーンの為だけに創作されたと言っても過言ではないキャラ。実は書き始める三日前まで作者の脳内に存在すらしていなかったという。
だからなのか、彼の内面の変化が作中で最も大きなウェイトを占めてしまったような。
ポジティブ:正義感。仲間意識が強い。
ネガティブ:嘘を許せない。敵と味方をはっきり分けてしまう。
ある意味で最も悪食使いに向いていない性格。
悪食は人間社会のルールに疎いので、遵法精神は「誰かの悪」と判断されてしまうために悪食がしゃべると知らなかったという設定は彼と灯耶のレベル差を演出するために発生したものでした。
人としてはすごく素敵な性格のはずなのに、ものすごく敵意を集めてしまう損な星回り。多分作品が進んでも、彼が仲良くできるのは灯耶とすぷりんぐのマスターだけだと思います(ふしぎ)。
香澄とは犬猿の仲ですが、これは作品が進んでも絶対に直りません(断言)。互いの好感度はマイナス方向にMAX。ひっくり返って二人が付き合う展開もないです。
朱音が警察官という当初設定に引きずられた結果、検事という立場にしましたが、今でも警察官にした方が良かったかな(分かりやすかったかな)とちょっと後悔。
☆弐貴の悪食
白い悪食。犲(やまいぬ)がベース。
野太い声で女性口調。声のイメージは日本で最も有名であろう「口の前で手を組むサングラス親父」のひと。私の中ではあの方の一番のイメージは「カルナバル・バベル」と「ぺ・ぺ・ぺのぺ」だったりする(余談)。
人を食ったような性格で、悪食らしく人間を本質的に餌として見下している。
弐貴に本性を見せたタイミングは、彼が元の所属先を精神的に切り捨てた時点。なので、覚醒シーンが何事もない所だったのは「あの時点で弐貴は本質的に灯耶の側に立ったんだな」と思っていただけたなら演出的には成功かなと。
なお、自分と弐貴では灯耶に絶対に勝てないと自覚しているので、最終話の群れの序列としては自分を四位か五位に置いている。
☆喫茶店「すぷりんぐ」のマスター
45歳。作中の癒し。
紅ヒーのくだりを書きたくて作られたキャラ。「うめ〇しの謎」ネタをご存知の方がいてとても嬉しかった。とても嬉しかった(大事なことなのでry)。
灯耶と弐貴の因縁は彼の処遇から始まったので、ある意味ではこの作品の本当のヒロインは彼かもしれない。
ポジティブ:あまり物事にこだわらない。
ネガティブ:思い込みが激しい。
なお、店名の「すぷりんぐ」は「春」や「バネ」ではなく「泉」。
娘の名前がいずみちゃんらしい。
作品が進んでも決して悪食使いにはならないし、悪食の餌食にもならない。最も平和な立ち位置。
☆大嶽
43歳。課長。
存在そのものを忘れられやすい課の存続やら何やらのために、色々と奔走していた苦労人。ただし、ついでに余禄を求めるような性格が災いして弐貴や香澄を敵に回した。
これまでに挫折らしい挫折がなかったので、内面的には高慢。
ポジティブ:冷静沈着。
ネガティブ:小物感。自分への過剰な自信。
☆大嶽の悪食
大食らい。
大嶽との間にまったく信頼関係がなかったこと、大嶽が自分の都合で悪食を隠していたためにほとんど食事が出来ていなかったことから、フラストレーションが溜まっていた。
つまり、諸々自業自得かつ巡り合わせが悪かった。
☆社
32歳。
明るくて人当たりが良く、敵を作らない性格。だが、その本質は自分を守るためなら何でもするタイプ。
悪食使いとなって自分の安全が確保されていると思ったら、そうでもなかったことを知って思い悩むなど、自分の安全が担保出来ていないとメンタルが脆くなる。
ポジティブ:人当たりが良い。明るい。
ネガティブ:自己保身に全振りした性格。
結果として、自分の安全のためには他人も売るような性格に。
弐貴の裏切りを招いた直接の原因でもある。最大の弱点は弐貴の性格を読み切れず大嶽につくような「人を見る目の無さ」かもしれない。
☆社の悪食
ほぼ空気。作中では名前も出なかったし、悪食らしい仕事もほぼしなかった。
とはいえ香澄の父を食らった悪食なので、最終的な立ち位置を考えると納まりは良かったのかもしれない。
☆鴻田
45歳。古株。
悪食使いとしてはベテランで、そのせいか課内の仲間達への愛着や執着は人一倍強い。彼らに迷惑をかけないようにしようと心に決めているが、一方で自分たちが絶対的に正しいと思い込んでもいる。
ポジティブ:強い仲間意識。明るい。
ネガティブ:独善。
悪食使いとしての適性は作中で最も高い。もう少しめぐり合わせが良ければ、灯耶以上に強力な悪食使いにもなり得た人物。
だが、組織の中に自分の居場所を見出していたことでそのめぐり合わせにたどり着かなかった。
☆鴻田の悪食
空気。とはいえ、作中では最も人を食らった悪食かもしれない。
鴻田の異常性の恩恵に与っていたため、灯耶の怒りを買う。悪食らしい性格で鴻田のことも見下していた。
鴻田の独善性からすると鴻田に語りかけてもおかしくはなかったのだが、彼の仲間意識から発生する「課内のルールには従う」という部分がアウト判定だった模様。
☆加倉
40歳。
悪食使いではないものの、悪食の存在を知る存在として用意された人物。
権力の側が悪食を持つとどういう問題が起きるか、を体現しているうちの一人。
ポジティブ:強い仲間意識
ネガティブ:特権意識
悪食を「法を越えて世の中の悪を消し去れるツール」のように捉えていた。これは抹消課の職員は大なり小なり備えている考え方なので、加倉だけが特別というわけではない。
鴻田と一緒にいたせいで早い退場となった。
☆相模
52歳。
年齢以外は加倉とほぼ同じキャラクター付け。
☆狗藤 朱音
故人。
灯耶の大学時代の先輩。後に恋人。
在学中は彼氏がおり、就職後に悪食を宿したことでほぼ自然消滅(朱音が別れを切り出したが、彼氏はその後すぐに朱音の存在ごと忘れた)。
とある事件をきっかけに灯耶と再会し、悪食の影響を受けない彼に依存する。
しばらくは灯耶を心の支えにしていたが、最終的には心の平衡を失った。
ポジティブ:優しい。使命感。
ネガティブ:心が弱い。
彼女の死は灯耶の心に強い傷を残している。
ある意味ですべての元凶。
以上です。
お読みいただきましてありがとうございました。