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誰も救われない小説を書きたかった

※以下の文章には、先日公開した作品『恋と血潮』に関するネタバレが一部含まれます。ご覧になる際はご注意ください。






こんにちは。小森秋佳です。

今回は、昨日の更新にて無事完結した中篇『恋と血潮』について色々と記していきたいと思います。

実のところ、この小説を書き切ったのは数か月前、構想自体は去年の夏頃からあったもので、私としても大変思い入れのある作品です。

忘れもしません、去年の夏と言えば私が大学の受験勉強に身も心もやつしていた時期です。日々増える問題点、全く計画通りに進まない大量のタスク、SNSの甘い誘惑……。半ば心を狂わせながら必死にペンを走らせていた当時、自身に許していた唯一の息抜きが「小説のネタ集め」でした。この逸話使えるんじゃないかーとか、こういうテーマの内容を書いてみたいなーとか、考えるだけでもそれなりに心は安らぎました。無論、実際に書き始めるとなると勉強どころではなくなってしまうのであくまで「ネタ集め」の段階で留めていましたが(もしあの時少しでも書いていたら自分は第一志望の大学に合格していなかったかもですね……ぞわわ)、その時集めたネタは受験から半年経った今でも大いに役立っています。

そのネタの一つがタイトルにもある「誰も救われない小説」だったんですね。主人公は男、年齢は高校生辺り、ヒロインが悲惨な目にあって主人公が奮闘し、バッドエンド——、この大まかな本筋は去年の夏ごろにはもう出来ていたように思います。がしかし!よくもまあこんな酷いお話を思いついたなと!当時の私は受験勉強で少々気がふれていたのかもしれません。今の私にはこんなお話、絶対に作れないように思います。すごいな、去年の自分。

という訳なので、無事受験も終了しひと段落ついた後でこの小説をいよいよ形にしよう、となった際には大変苦労しました。特に主人公康生の心情推移ですね。当時至極当然だと思っていた結末への流れが、今の自分にさっぱり理解できない。ここで彼は何を思い、どうしてそんな行動に出たのかという部分を、何度も何度も紙に書き起こして具体化しました。その甲斐あって、康生のラストのあの行動にも自分なりに納得は出来たと思います。他人行儀な書き口ですが、本当に難産でしたよ。去年の自分が、冗談抜きで別人にしか思えませんでしたもん。

血の描写、というのも頑張ったポイントです。「血」っていうと日本神道では穢れの象徴であったり、一方のキリスト教では赤ワインとパンをイエスの血肉になぞらえて食すあたり神聖に見られてたりと、宗教的な側面で見ればニュアンスの差はあれど「特別な何か」として見られますよね。考えてみればそれもそうで、人間って血が無ければ生きていけませんから。だからこそ、キリスト教では生命の象徴である(イエスの)血を尊び、神道では死を招く「出血」を禁忌とした。

話が少しずれましたが、私はこの、人が「血」に感じる特別感というのも描きたかったんです。そうは言っても康生君の血に対する特別感は凄まじいですけれども。作中で明記するか迷って結局書かなかったのですが、血液への性的嗜好をヘマトフィリア(血液性愛)と言うそうです……。

また今作では、エンタメ小説の枠でもあるので、少しばかり伏線を張っていたりもします。角川祥太の苗字の謎、皆さんはどのタイミングで気づいたでしょうか。なんだかんだで最後の章近くまで彼の苗字を明記しませんでしたが、そこに疑問を抱いた方もいるかと思います。一番最初に張った伏線は冒頭、定期テストの話ですね。祥太は自分の後ろが紗英の席になっていると言い、康生の独白からもわかる通りテストの際は名前順=苗字の五十音順に席が割り振られるので、「椿木」紗英の一つ前⇒「つ」で始まり、その次の文字は「ば」より前の文字と考えれば、あ、「角川(つのかわ)」か、と見抜けた人もいたんじゃないでしょうか。「角川」という苗字にしたのは、世間では「角川(かどかわ)文庫」の周知が圧倒的なので、そこでミスリーディングを狙ったというのもあります。はじめ角川太輔が出てきた際、「かどかわたいすけ」と多くの人が読み間違えたのではないでしょうか。作戦通り、です。

他にも書きたいこと山ほどありますが、一度このあたりで締めたいと思います。例によって全くまとまりませんが……。全ての章が公開された今、改めて本作を最初から最後まで読み直してみたりするのもいいかもしれません。私としては皆さんに読んでいただけるだけですごい嬉しいので——いよいよ締めの挨拶さえもまとまらなくなってきました。

それでは改めて今回はこの辺りで。近々新たな小説も投稿予定ですのでお楽しみに。

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