題名「竜の背に継ぐ物語」
悠然と並び立つ山脈の天、重たさを抱えた灰色の雲が隠す。朝靄が森を包み、緩やかな風に身を任せている。その山並みを小鳥の群が、清廉な鳴き声を響かせながら飛んでいた。
山脈に囲まれた白靄に沈む村、雲隠れの里。段々に区切られた田畑と共に、木造の平屋が並んでいる。その中心には石垣で仕切られた川が流れ、薄い紅色に染められた小さな橋が三つ、その川を跨いでいた。
石垣の階段を下りた川の堀、色彩豊かな一枚布を羽織る十数人の女子供が、食器や衣類、様々な作物を洗っている。その中に並ぶ母子が、山を見上げた。
「霧が晴れてきたんね」
母親が誰とも無しに呟く。
「おっ母、竜様がお休みしてるんさ」
短い髪を頭の天辺あたりで結んでいる幼子の言葉に、その周囲で洗い物をしている女達が、優しげな笑みを浮かべた。
「お休みじゃないかいね、ミヨ。今日は竜様から鱗をお借りする日になんね。おっ父達が長婆連れて竜様の背中上らんといかんね。竜様はそれを見守ってくださるんよ」
母親がゆっくりと伝える。
「おっきいのに優しいんね、竜様は」
ミヨは頭の天辺から少しズレている髪の束を揺らした。
「そうさねぇ、竜様はうんと優しかろうね」
と母親は微笑みを浮かべて、手元の茶碗に目線を移した。
「うんだ、怒ったりしなろうかんね?」
「竜様は怒らんとね、ミヨ。だけどもさ、ミヨが好き嫌いなんちゅ言いてワガママ言いよったら、背の鱗が赤く染まっち怒るかもしれんね」
「好き嫌いなんちミヨ言わんよっ」
ミヨは口を尖らせて母親に丸い目を向けた。
「芋の漬け食べんち今日の朝言いよ、ミヨはね」
母親の言葉に、ミヨの唇が尖ったり埋もれたりする。
「芋の漬けもしっかり食べんといけんね?」
「食べるよ、食べるから、竜様、怒らんとね」
ミヨは握り込んで合わせた両手をオデコに引っ付けて目を瞑った。
「そうさねぇ、竜様、ミヨは良い子ですね。怒らんで下さい。これからも、ミヨを、村を、お守り下さい」
ミヨの隣で母親も、水を払って握り込んだ両手をオデコに付けた。それに習うかの様に、堀に並ぶ女達も水場で遊んでいたミヨと同じ年頃の幼子達も、両手をオデコに付けて祈りを捧げた。
不意に、山が豪快なうなり声を響かせた。大木が切り落とされた様な、その何倍も大きなうなり声が、森を覆う霧を揺らしながら木霊して、白靄に溶けていく。
堀に並ぶ誰もが祈りを解いて、霧で覆われた山脈の天を眺めた。微かな風が、ミヨの束ねた髪を揺らす。
「鱗、お借りしたんね」
誰かの呟きが静寂に響いた。それをきっかけに、女達は洗い物に戻り、水場の幼子達は先ほどの賑やかさを再び音立てる。ミヨだけが、未だ山脈を見つめていた。
再び風が流れる。ミヨの結び髪が揺れた。山脈の天を覆い隠していた灰色の雲が、ゆるりとした風に運ばれている。あっ、とミヨが嬉しそうな声を上げた。
「おっ母、竜様の足が見えよる」
悠然と佇む山脈の天隠す、流れ雲の隙間、巨大な二本の鉤爪が、薄く姿を見せた。雲が流れて、再び灰色が覆い隠す。母親は顔も上げずに、洗い物を続けていた。
「そりゃ良か事が起こるかもしれんね、ミヨ。夜にはおっ父も帰ってくるんさ、子猪の鍋でも作ろうかいね」
「ほんか、おっ母っ? 子猪の鍋ち?」
ミヨの目が嬉々を含んで瞬いた。
「ミヨが良い子にしようならんね、鍋いっぱいに子猪の肉ば入れようよ」
母親が笑った。
「ミヨ良い子にするんさね。いっとうに良い子だっち」
「んじゃあお昼は山草集めに手伝いが欲しいかいね、ミヨ」
「手伝うよ、子猪の鍋食べろうもん」
「そっかいそっかい、んじゃあまた声掛けるね、それまでみんなと遊んできしゃ」
うんっ、と勢いよく頷き、ミヨは笑みを残してその場を離れていった。
ここからは作者の僕が存分に語り出します。あしからず。
この第一話は、おそらく一年前辺りに考えていた宗教戦争を題材にした物語になります。
この竜様を崇める村は、岩亀を崇める国と、そこと対立する大蝙蝠を崇める国の中心にあり、その戦火に巻き込まれていくという設定。
村を守るために、男達は武器を取り、テロを起こして、巨大な国に反発します。たくさん人が死んで、悲しいことだらけ。
その中で、ミヨは竜の巫女的な、的なですが、それに選ばれてしまいます。三つ巴の戦争はさらに戦火を拡大させ、ついには神々も動き始める。
村の人々の心は揺れ動きます。ひれ伏すか、戦いを続けるか。
幼いミヨは、幼いながらにも答えを出しながら、その大きな戦争に、竜様と共に挑む事になります。
とまぁ、こんな感じの物語で、プロットも二万字ぐらい書いてました。これのプロット書くのめっちゃ楽しかった。楽しかった……
んだけどね、ふと、
「あれ、これただのジブリじゃね???」
と思った途端、音速を超えるスピードで意気消沈!!!!!!!グアバジュースっ!!
もののけ姫とか、千と千尋とか、ナウシカとか、諸々パクってる気がしまくって、書けねぇとなりました。ジブリっぽいなら良いんだよ。でも僕の中ではまんなジブリになってしまったのだ。
いや、僕が書いたところであのクオリティーに届くかどうかは置いといて、もう思っちゃったら駄目だよね。そうとしか思えなくなる。
あるあるだと思います。こりゃ面白ぇと思いながら頭の中で物語を作っていく途中で、既存の何かと似てると気づく。あああああっっ!!ってなるよね。いや本当に、何も知らない方が良いんじゃないかと思ってくる。海賊王ってなんですか?
でもね、そりゃたくさんの物語が埋もれていくし、日の目を見ない名作だってあるだろうし、この近況の僕みたいに、物語そのものを作り出せない事もあるけど、何かを生み出そうと悩む事はきっと無駄じゃ無いはずだっ。
だってこの物語を少しでも書いてなければ、僕史上一番可愛いキャラクター、ミヨは生まれなかった訳だから。物語は無くなってしまったけれど、可愛い可愛いキャラクターは生まれてくれた。それは絶対、いつか僕の執筆生活に於いて糧となるはず。はずじゃない。糧となる。
つまり何が言いたいかというと、何が言いたいんだろうね。。。分かりません。
ただいつかこのミヨって子を小説に登場させたいと思いながらも出来なかったので、我慢できずに近況でお披露目したら、なんだか色々考えて文字数が増えた次第であります。
なんだか最近余計な事ばかりを書いている気がする。
いや、何かを書くことに、悩む事に、余計な事なんて無いはずだっ!!!!
世界中の全てを、僕の執筆の糧となれっ!!!
じゃあ、書きまーす!!
ちなみに、不定期でこういうのやっていこうと思ってます。多分。創作論で作品にしようかな。まぁそれは追々。
そしてここまで読んでくれたお方々、ありがとうございます。そしてなんか、すみません。本当にありがとう。