「空戦」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888422454 ACT.2では「伝説」をテーマに月光の首都防空戦を描きました。ただこれはアップロード時点で感じていたことなんですが、ACT.1で目指していたはずの淡々とした感じ、リズム感があまりない。重厚な文章の占める割合が大きくなってしまっている。
その要因はいくつもある。まず月光を主役にしたこと。B-29を相手取る重戦で軽快な空戦はできないし、対戦闘機戦闘をメインで描くのも難しい。次に偵察員を語り手に据えたこと。操縦員なら機体の操縦に描写を集中できるのですが、偵察員だとそうもいかない。機上操作そのものの詳細さはACT.1から描写しようと意識しているのですが、偵察員だとエンジンや舵の操作は描けない。その代わりにレーダーの操作を詳しくやったのですが、これも結局のところ空戦の要素ではないのです。
終盤の零戦とF6Fの戦いはいわば自機による直接戦闘の代替として描いています。ドッグファイトを客観する面白さ、夜間、近距離による敵機の見失いやすさも意識しています。観戦している爆撃機、攻撃機の偵察員からの電話による警告や助言で戦闘機が難を逃れるという状況は実際にもあったようです。
かくしてACT.2は「重い」一節として完成してしまったわけですが、この仕上がりに納得いかなかったがゆえに続けて取り組んだのがACT.3です。反動です。とにかく軽い書き味で仕上げようと企んでいました。
ACT.2の反省を活かすなら主役とライバルは戦闘機でなければならない。できるだけ機材の説明は省きたい。機材解説を省くならできるだけ古い機体の方がよかろうということで、多少アイデアのある中でちゃちゃっと書けそうなのが九六艦戦でした。地上(艦内)描写も少なくしたい。無線機について調べたくなかったというのはちょっと別の理由ですが、登場人物とセリフをオミットしたのもその関係です。
とにかくドッグファイトの分量を多くとることができたので満足です。やや弛みとなる不時着シーンもあえて空戦後に持ってきました。
描写に関して言えば、機上操作の細部は残しつつ、開放風防ならではの空の空間条件も意識しています。寒さ、横風、霧などなど。それに絡んで戦闘にかかわらない、ただ飛ぶだけの難しさも燃料漏れとエンジントラブルで描いているつもりです。強風で無動力の着艦なんて実際地獄のような難しさなのでは。
あとはACT.2と対照的なモチーフを使っています。ACT.2では光に注目していました。航法灯の光であり、探照灯であり、レーダースコープであり、敵機の排気炎であり、チャフの反射光です。対してACT.3は音です。題名の通り? 霧の中のエンジン音であり、逆にエンジン停止時の無音であり、空襲警報のサイレンです。
単に九六艦戦とホークの系譜をぶつけるだけなら舞台設定をフィリピンかマレーにしてP-36を相手取ってもよかったのですが、寒冷地の「静」のイメージを拝借したかったのでAL作戦にした次第です。