◆ヤマモトとサトウのクリスマス。熱い夜(笑)◆
「知っているかサトウ」
「知りたくない」
「キリヤの野郎、妹さんとナグモさんとクジョウさんとクリスマスパーティしているらしいぞ⋯⋯」
「しかも妹ちゃんも可愛いかったな⋯⋯」
「「はぁ」」
野郎二人で何をしているんだろうと、寒い中ベンチでため息を吐く。
夜空と街明かりのせいで星が見えず、月しか見えない。
月もぼっち、とても寂しく見える。
「見ろよ。周りを。カップルだらけだ」
特に目に入るのは初々しいしく、手も繋げてないカップルだ。
お揃いのマフラーを巻いている。
「⋯⋯あれ人間だよな?」
「人間じゃないか。寒さで頭でもヤッタか? まぁたしかに変な感じはするが」
その感覚は間違いでは無い。なぜならアイリスとローズだったから。
そんな事を知らない二人は再びため息を吐いた。
「⋯⋯ママ」
「「ん?」」
微かに聞こえた小さく弱々しい声。
今でも泣き出しそうな声に二人は近づいた。
女の子である。目尻に涙を浮かべ、手袋も何も無く手は真っ赤に冷えている。
「お嬢ちゃん、冷えますぜ」
「迷子かい?」
ヤマモトが自分のコートを脱いで子供に羽織らせる。
サイズ的に地面を擦ってしまうが、寒がる子供の前では些細な事。
「ありがとうお兄さん」
「大丈夫さ。子供が一人で寒がっているのを見過ごせる俺らでは無い」
「迷子⋯⋯かい?」
無視されたサトウは少し凹んでいる。
無視された訳ではなく、ただ返事が追いついてないだけだが。
「うん。ママとはぐれちゃって」
「ふむふむ。この付近に慌てている気配は感じないよな?」
「そうだな。もしかしたら店の中かも」
「相手も子供が迷子だと思っている⋯⋯子供が行きそうな場所を探している可能性は高いか」
「まずは店内に入ろう。その後で放送してもらおうぜ。この極寒は子供には悪影響しかない」
探索者として訓練した二人は多少の防寒具があれば問題ないが、子供はそうでは無い。
まずは暖房の利いた店内へと入る。
「高ーい」
「いずれ俺の可愛い娘にも肩車をするのが夢なんだ」
「お前には無理だな。まずは彼女が必要だ」
「サトウ何を寝ぼけている⋯⋯この世には養子と言う言葉があるんだぞ」
「お前⋯⋯」
そんなくだらない会話をしている二人がとある気配を発見した。
移動の仕方が不規則で落ち着きのない気配。
それは焦りから出てくるモノだと判断した。
「運が良かったな」
「だな」
二人はその気配に近づき、見事に親子の再会を果たした。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。気にする必要は無いですよ」
「はい。俺達は当然な事をしたまでです」
「コート、クリニーングに出して⋯⋯」
「大丈夫ですよ。アナタのお子さんを少しでも寒さから守ったのなら、この汚れは名誉の負傷と一緒ですから。それでは」
ヤマモトとサトウは去る。
心の中で『人妻じゃなきゃ告白してな』とか思いながら。
野郎二人はその後、好みのタイプについて熱く語り合い、聖夜を終えた。
◆部長と副部長のクリスマス◆
「珍しいですね。サオトメさんにダンジョン関連以外で誘っていただけるとは」
「ま、まぁ。せっかくのクリスマスだしな。こんなのも悪くないだろ?」
「はい」
何かしらの理由をつけないとデートに誘えない部長のヘタレっぷりは気づかれているだろうか。
部活を引退する前に部長は告白を終えて、二人は付き合っている。
だが、恋人らしいデートはこれで三回目くらいである。
「それで今日はどちらに御用が?」
「その、なんだ。一緒にご飯とか、行きたくてな」
「つまり、自分と一緒に居たかったと」
「ああ。引いたか?」
「いいえ。嬉しいですよ」
副部長から手を繋いで、二人は歩き出した。
途中、ため息を吐いているヤマモト達を遠目で発見しながらも話しかけずに二人の時間を過ごした。
同じクラン、同じパーティ、高校卒業後はすぐに探索者の本業して活動する。
相性は抜群の二人。
本業なので高校生の時よりもより危険な場所へと足を運ぶ事は間違いない。
その道中で片方、あるいは両方が命を落とすかもしれない。
だが、今はそんな事は一切考えない。
この二人だけの幸せな時間を噛み締めて、ゆっくりと過ごすのだ。
「な、なぁ」
「はい?」
「⋯⋯好きだ」
「安心してください。こちらも好きですよ」
バトルでは強くても、恋愛では弱い。
不器用ながらも二人の恋は進展して行くだろう。
その光景をキリヤが見る事はないだろうが。
◆家族と過ごすクリスマス◆
キリヤ達の先生は毎年、家族でクリスマスを楽しんでいた。
「ほれ、プレゼントだ」
「わーい! やったぁ!」
新作のゲームソフトを自分の子供にプレゼントする。
どこぞの生徒とは違い、子供らしくこのようなゲームに興味を持つ。
やりすぎは身体にも良くないが、その辺はしっかりとしているので基本自由がこの家族の方針である。
「今年ももうすぐ終わりだな」
「そうですね」
「あいつらは元気にしているだろうか」
「していると思うよ。今頃、ダンジョンに行ってたりしてね」
「さ、さすがにクリスマスくらいは友達と過ごして欲しいが⋯⋯うーん」
キリヤの性格を知っている二人だからこそ、断言できない。
実際はきちんと友達や幼馴染と楽しんでいる()が。
こうして、様々な場所でしっかりとクリスマスは過ごされていた。
地球の文化であるクリスマスに合わせて、月でもそれらしい事は行われているが、それはまた別の機会に。
◆魅了ごっこ◆
ナナミの魅了を試す時が来た。
「えっと、本当にそんなんで良いの?」
「うん。私はそれが良いんだ」
それはエロさも何も無い。サキュ兄に頼む内容では無いと言えよう。
だけどキリヤにしか頼めないしできない事でもあった。
キリヤの服装が探索者で活動する時のような格好になる。
ナナミの右手を預かり、手の甲に額を押し当てる。
「俺は君と一緒に戦いたい⋯⋯」
頼まれたセリフだが、段々と本心と混ざって行く。
「この先にどれほどの絶望や困難があろうと、その道がドラゴンすら逃げ出すイバラの道だろうと、君となら一緒に歩めると思うんだ。俺は君の剣となろう、盾となろう。障害があろうとも斬り捨てる。
俺が好きな剣を扱うこの手が血濡れぬ世界を、君が好きだと言ってくれた剣で切り開こう。明るくなくても良い、暗くたって構わない。君の剣が輝くのならば、俺はどれだけ堕ちようとも登って来れる。どれだけ深淵に堕ちようとも、君の光があれば、君の元に戻って来れる。
俺にはその自信がある」
長文を話した。
本当にこれで良かったのかと、アリスとマナのパターンを思い浮かべながら考える。
「ありがとう」
ナナミの率直な感謝。
窓から差し込める光によって表情は見えないが、少しだけ頬が染まっていた気がした。
「私も、君の支えになりたいよ」
「⋯⋯ナナ、ミ?」
ナナミは自分の手でキリヤの前髪を動かして、額に自分の顔を近づける。キリヤの頬に伝わる温もり。
それが何かは語る必要は無いだろう。
「私は君の剣が好きだ」
「それは俺もだ」
「言って」
「え?」
「だから、言って欲しい。言葉として。好きだと」
「俺は君の剣が好きだ」