キリヤにお小遣いを貰ったローズとアイリスは二人で街中を歩いていた。
角はペアスライムの擬態を利用して隠しており、服装はアリスが似合う物を渡している。
「冷える。ダンジョンの中とは別物だぜ。寒くないか?」
「この程度で寒さを感じるほど弱くない」
「そうかい」
現在12月24日のクリスマスイブである。
周りには聖夜を楽しむカップルが大量に蔓延っている。
周りから見たらアイリス達もカップルに見える事だろう。
「⋯⋯」
「どうした?」
特に何かが欲しい、やりたい訳では無い二人はブラブラと散歩していた。
いきなりローズは立ち止まり、一点を見つめ出した。
視線の先を追って行くと、彼氏が彼女にマフラーに巻いてあげる光景が入って来る。
チラリ、とローズがアイリスの方に目を向けた。
何回か視線を泳がせて過去の発言を後悔しつつ先に進む。
「え、何かあったのか?」
「何も無い」
「そうか。⋯⋯悪いがこの辺でちょっと待っててくれないか? 買い物したい」
「ついてく。一人にするのは怖い」
「失敬な。良いから」
アイリスはそう言い残し去って行く。
イルミネーションによって星のカーテンは無いが、代わりに綺麗な満月は浮かんでいた。
月から少し視線を落とせば巨大なクリスマスツリーが目に入る。
(月を遮るのは気に食わないが⋯⋯これはこれで中々に良いな)
孤独でありながらもどこか満足感を感じている。
「おまたせ」
数分も経たずにアイリスが帰って来て、その手にはマフラーが握られていた。
「なんで?」
「普通は寒いんだ。この方が人間だと思われやすいだろ」
変装のため、アイリスはそれを強調してからローズにマフラーを巻いた。
雪と同じように白いマフラー。
「⋯⋯ありがと」
マフラーを引っ張って口を隠し、頬も覆い隠した。少しだけ紅く染まったのは寒さ故かなんなのか⋯⋯。
アイリスも同様にマフラーを巻こうとするが、ローズが止めた。
「巻いてくれたからね。お返し」
「サンキュ」
不器用な二人は隣を歩いて色々な店を回る事にした。
「クリスマスはサタン様がプレゼントをくれるらしいぞ」
「それは悪魔だバカリス。サンタさんだ」
「なんだよバカリスって⋯⋯リスみたいじゃんか」
(え、そこなの?)
僅かに動揺した視線を送ったがアイリスは気づく事無く、ピアスのアクセサリーを見つめていた。
「何してるの?」
「いや。これとかローズに似合うんじゃないかって」
「ペアスライムを使えば見た目なんて自由自在だ。購入する必要は無い」
とても合理的な言葉にアイリスは言葉を出すのを躊躇った。
一目見て直感で似合う、着けて欲しいと思ってしまった。
その気持ちは止まる事無く溢れて来る。
「俺が買ってプレゼントしたい。そして着けて欲しい⋯⋯ってのが理由じゃだめか?」
照れくさそうに頬を人差し指でカリカリしながら本音を素直にぶつけた。
想いを形として届ける。
ローズは一秒の思考も行わずに答えた。
「そう言う事なら。受け取らないのも失礼だね」
「買ってくる」
普段着けているペアスライムはピアスであり、ユリとは反対の耳に着けている。
今のペアスライムは角を隠しているため、ピアスは着けてない。
「ちょっとしたイメチェンになるんだろうか?」
髪型を少し変えて髪飾りを使う。
ピアスを買い終えたアイリスが戻って来るとすぐに変化に気づいた。
「なんか明るいイメージが出るな」
「前髪を右側に寄せたからね」
ピアスを受け取り、両耳に着ける。
「どう?」
「すげー似合ってる。俺の直感は正しかったな」
「そう。⋯⋯ユリ様や主人も似合ってるって言ってくれるかな?」
「当たり前だろ。自信持て。今のお前は姉御に匹敵するくらいに可愛い」
目を細めるローズに何か不味い事を言ったのかと焦る。
「いつもは可愛くないと」
「ちょ、それは違うぞ! いつもは可愛い系じゃなくてカッコイイとかそっち系だろ?」
「ユリ様もカッコイイ」
「どうすれば良いんだよ!」
本気で焦ってどう言えば良いのか悩んで慌てているアイリスを見て、笑った。
声を出して笑った。
「意地悪が過ぎたな。すまない。そう言ってくれて嬉しい」
「ああ」
「自分もアイリスに何かプレゼントを選んで良いかな?」
「それは超嬉しいな」
ローズもアクセサリーを選ぶ事にした。
宝石の付いたネックレスである。
「これ、ダイヤだろ? かなり高いんじゃないのか?」
「お小遣い以外の収入源をしっかり確保してあるから問題は無い。自分はこれをアイリスに送りたい」
「そっか。ならありがたく受け取るよ。着けてくんね?」
「後ろ向いて」
ネックレスを着けてあげるその二人の姿は長年の恋人と言って過言では無いだろう。
互いに絆を深めて信頼している関係にしか見えない。
プレゼントした物を見せ合い、頬を染めて笑みを浮かべる。
「雪だ⋯⋯」
「そうね」
天より神が二人を祝福するかのように、イルミネーションの光によって照らされた真っ白な雪が降り注いだ。
その白さは二人の心をそのまま表しているようにも見える。
「⋯⋯飯食って帰るか?」
「そうだね」
少しでも長く二人でいよう、言葉には出さないし考えてもいないだろう。
しかし、無意識で二人はそうしている。
クリスマスイブ、聖夜の時間。戦いも忘れて二人だけの時間を楽しめる。
肩を寄せ合う鬼人二人を見守るのは煌めいている月であった。