<第二章>
キイロ、ファロ、ドンゲ、そしてシドの一行は、城砦都市を出て〝朽ちた神殿〟のある〝ウガミ山〟へ向かう。
都市を囲む樹海を抜けるとその先には草原が広がっており、シド曰くそこから先は魔物除けの〝鳴実《なりざね》〟が効かないらしい。キイロが不安を訴えると、シドは「足手まといになるようなら殺す」と冷たい言葉を返す。
草原を進むとさっそく魔物と遭遇。戦闘体制に。夜なので視界を良くするためファロが〝知覚強化《エンパーセプティオ》〟を唱える。しかし、相手は臭気を発して獲物に幻覚を見せる魔物〝百合頭狼《ガドルフ》〟の群れであると判明。嗅覚が敏感になったことが裏目に出て一行は幻覚状態に陥ってしまう。
〝曖昧な犬〟とも呼ばれるガドルフは自己と全く同じ姿の幻覚を相手に見せることができるため、一行はそこにいるのが本物か幻覚なのか判別できず、攻めあぐねいているうちに包囲されてしまった。
ファロに何か攻撃できるような魔法はないのかと尋ねるが、彼女の属性は環境魔法を主とする〝悲嘆〟であるため、使えそうなものは思い当たらないと謝られる。
だが窮地に際しキイロは観察と思考を実践。ファロが客室でガーゴイルと戦った時に使用した〝凍結せよ《ジェリド》〟の魔法によって雪を降らせることにより、幻覚と本物を見分ける作戦を思いつく。
キイロの機転によって本物のガドルフを見分けられるようになったドンゲとシドは一気にガドルフの群れを片付ける。
戦闘時に怪我をしたドンゲをシドが回復魔法〝癒やせ《サーナ》〟で治癒。プライドが高く冷酷な人物だと思っていたが、なんと属性が〝慈愛〟であると判明。キイロは唖然とする。
いくつかの戦闘を経てウガミ山の麓に到着し、休息を取る一行。キイロはそれまでの行程で自らの非力さを痛感。ファロに魔法を教えてほしいとお願いする。
魔法を教えてもらうにあたって、まずは適性を調べることに。属性は四種類。慈愛……他者を治癒したり守ったりする魔術を得意とする。憤怒……近接攻撃魔法やエンチャントなどを得意とする。悲嘆……範囲攻撃や環境魔術を得意とする。快楽……遠隔攻撃や幻惑魔術を得意とする。いずれも術者の性格を反映して決まるらしい。キイロの属性はそのどれにも当てはまらない〝混濁〟属性で、その時の感情によって使える属性が変化してしまう厄介なものだった。
落胆するキイロだったが、考えようによっては全ての属性を習得できる最強の属性だとシドに励まされ、俄然やる気に。魔法を使用するための依代として思い入れのある物を使った方がよいと言われ、キイロはメルと拾った小石を使うことに。しかし、いざ魔法を発動させようとしたところ、キイロは意識を失ってしまう。
ファロに揺すり起こされて何が起きたのか聞くと、爆発がどうとか叫び出した直後に昏倒したという。すると次の瞬間、その言葉通りに山の中腹の方から爆発音が聞こえてくる。どうやら朽ちた神殿のある付近らしい。一行はメルの身を案じ、崖を登る最短ルートで登山することに。
崖を登る途中、今すぐにでもメルの無事を確認したいという思いから、キイロはファロに「転移魔法は使えないのか?」と尋ねる。ファロ曰く、転移魔法は転移元と転移先に全く同じ術式で描かれた一対の魔法陣がないと発動できないという。
自力で崖を登り、やがて朽ちた神殿と思しき場所に辿り着く。しかしそこは先刻の爆発のせいか巨大なクレーターになっており、神殿の残骸と思しきいくつもの石柱がまるで巨人の墓標のように林立する異様な空間となっていた。
クレーターの中心に制服姿の少女が倒れているのを見つけ駆け出そうとするキイロ。しかし、シドが彼女を物陰に引き寄せる。クレーターの対岸に何者かがいるらしい。会話を聞く限り、敵対者のようだ。〝ロワル〟と〝ティアノト〟と呼び合う二人は石柱を宙に瞬間移動させたり素手で粉々にしたりと、人間離れした強さを見せる。無駄な争いを避けようとするティアノトに対し、ロワルはいわゆる戦闘狂であるらしかった。どうやら快楽目的でこちらと戦いたがっているようだ。
どう見ても現代風の格好をしたティアノトや、ロワルの口から『ブラック企業』というワードが出たことから、キイロは彼らもまた転移者であると確信する。
ドンゲは彼が囮になっている間にシドにメルを救出してもらい、ファロに城砦都市への転移魔法陣を描いてもらう作戦を提案。ロワルに一人で戦いを挑む。
ロワルに圧倒されながらも時間を稼ぐドンゲ。城砦都市への魔法陣を展開しようとするファロをキイロは「やはりドンゲを置いていくことはできない」と止め、事態を打開するアイデアを伝える。
そこで運悪くメルの救出に向かっていたシドがロワルに見つかってしまう。ロワルはシドの太刀を素手で止め、一方的に痛めつけ始める。
もうこれ以上は見ていられないと思い、キイロが物陰から飛び出して制止、「殴りたいなら私を殴りなさい!」と挑発。ロワルはそれに乗ってゆっくりとキイロの元へ歩み寄る。すると雪が降り始めた。それはファロの準備が整った合図だった。キイロは挑発を続けながらロワルをある地点まで誘導。そこでファロが〝果まで飛べ《アド・フラクタム》〟の呪文を唱える。実はロワルの足元の雪の下には誰もいない辺境の土地にある転移魔法陣と同じ術式が描かれていたのだった。
ロワルを撃退することに成功したキイロはティアノトに見逃してくれと頼む。彼女は何の迷いもなくそれを承諾し、戦闘が終了。キイロは心労からかその場で気を失ってしまうのだった。