朝の7:00、人もまばらな郊外のバス停で事件は起きた。夜、酒を飲む予定があったので、珍しくバスで街へ向かおうと近所のバス停のベンチに腰掛けて待ち時間にスマホを弄っていた。すると、道の向こうから上下スエットにサンダルを履いた大きなお友達が一人でやって来るのが視界の端に映った。彼はワイの正面まで来ると唐突に「とっただろ!」と叫んだ。反射的に疑問符が浮かぶ。とっただろとはどういう意味だろうか? と。撮った、取った、盗った、いずれにせよあまり良い意味ではなさそうだ。しかしその叫びがまさかワイに向けられているとは露ほどにも思わず、ワイは聞こえないふりをしてスマホを弄り続けた。うわやべえ奴きた、多分発作的な叫びやろな、こんな時は知らんふりや。などと心で呟いていると、
「とっただろ!」
お友達は手を広げてこちらに突き出してきた。どうでもいいが言葉がだいぶ舌足らずで聞き取りづらい。
「は?」
ワイが顔を上げた瞬間、
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
お友達が奇声を上げたと同時にワイの大事なアイホーンが手元から消えた。しまった! と思った時にはもう遅かった。お友達はワイのアイホーンを何故か高らかに掲げてスワイプしまくり弄り始めた。が、早々に何かを諦め、
「きょええええ!!!」
奇声を上げながらワイのアイホーンを腕力で折ろうとし始めた。
「何をするだー!」
ワイはアイホーンを取り返そうと手を伸ばしながら立ち上がった。お友達が両手で握っているアイホーンにワイの両手が届いた。四つに組んだ状態で我々は束の間静止した。ちなみにバス停は過疎駅すぎてワイとお友達の他、人が居ない。誰かー! と叫ぶが辺りには人っこ一人歩いちゃいねえ。車はバカみたいに通り過ぎるが、さすがの通勤時間帯とあって、誰一人バス停で取っ組み合っている野郎二人を気に留めない。
「誰かー! タスケテー!」
「きょええええ!!!!」
心不全vsパワー系池◯のくんずほぐれつの取り組みが始まった。ただ、相手方のみ何でもありバーリトゥード相撲である。引っかかれ、噛みつかれ、肘鉄を喰らう。あらゆる所から血が出てきた。ワイの心臓は早鐘を打ち、手足がガタガタ震えてきた。ワ、ワイのアイホーン! 死んでも離さぬっ!! 、、、ん? あれ? 息ができぬ。視界がなんか白ーい。もやもやぁ。あ、死ィ。。。
寸での所で、スマホを奪い返し、転がりながら119番。ワイが倒れたのを見て怖くなったのか大きなお友達はその場でウロウロし始めた。ああ、思い出したわ。こいつ同じ町内のあそこの家(バス停から見える家)のお兄ちゃんだわ。。。どうしよう、110番にも通報した方がええんやろか。。。
救急車到着、直後に大きなお友達のお母さん(ほぼおばあちゃん)が騒ぎを聞いて家から飛び出してきて到着、泣いて平謝り。
「しゃあない、許す!!」
で、救急車の中で何があったか事情を説明、血圧とか諸々測ってもらい、傷が全部軽傷であることを確認、応急処置、警察呼べるけどどうしますか? いえ、結構です。そして、解散。
ちなみにこの間にワイはアイホーンにて朝イチの制作物の納品を済ませていた。偉い。
いや、マジなんだったんだこの時間。手の甲と二の腕の爪で抉られた傷が痛え。。。まあでも鼻毛神拳習ってて良かったわ。じゃなけりゃ死んでいたね、間違いなく。