こんにちは。
「本が好き」という、現代においてマイノリティである人々が集まるカクヨムにおきまして、さらにマイノリティである「翻訳ものが好き」というすき者です。
ひまなので一人ビブリオバトルします。
では、いっきまーす。
『バーティミアス サマルカンドの秘宝』
ジョナサン・ストラウド
おそらくラノベが好きなお方ならすっと読めるんではないかと。
ちょいとばかり情景描写が多いけれど、主人公のバーティミアスの語りが秀逸すぎて笑い通し。イギリス人のブラックユーモアの集合体。
私の好きな時系列の飛ぶ人称切り替えは、この作品から学ぶところが多かったかな。とにかく超おすすめ。外伝含めると4巻出てます。
児童文学ですが魔法が好きな大人にもおすすめ。
『アグリーガール』
ジョイス・キャロルオーツ
アグリーベティじゃありませんよ。
孤高の女子高生と、お調子者がすぎて犯罪者扱いされてしまった男子高生のお話。銃乱射事件が社会問題となっているアメリカならでは。
高校生におすすめしたい。もちろんそれ以外も可。
『解錠師』
スティーヴ・ハミルトン
ハヤカワミステリから出ていますが、ミステリとして読むと面白くないかも。青春小説としておすすめしたい。
過去のトラウマでひと言も話せなくなった少年の、ボーイミーツガール。といっても、サスペンス要素てんこもり。だって怖い大人に目を付けられて、金庫破りの仕事を引き受けてしまうんだもの……
時系列が交互に展開していく物語構造。片方は、刑務所の中から。片方は、運命の女の子との出会い。
テーマが重なっていく瞬間が最高。
『13の理由』
ジェイ・アッシャー
今、ネットフリックスでドラマ化している。
たしかに本を読んでいるとき「お願いだから映画化して!」と思った。いやはや、あれから十年ちかく経っているなんて……。
自殺したはずのハンナ・ベイカーから、カセットテープが届く。「私が死んだ理由は13ある。あなたもその理由のひとつ」そう言って、ひとつずつ話していくハンナ。少しずつ自分の話が近づいていく、主人公のひやひや感と、やるせなさ。
ラストの希望は本当にひとかけらだけど、これがあるから救われる。
『グローバリズム出づる処の殺人者より』
アラヴィンド・アディカ
ここまで若者向けだったけど、これは大人向け!
インドの内情告発本。しかし物語としても優れた小説。
主人を殺して下克上をはかった自称「ビジネスマン」が、どうやってここまでのし上がったかを、こうでもしないとのし上がれなかったかを、中国の首相に手紙で告白していく、という形式ですすみます。
かなり面白い。
『怪物はささやく』
パトリック・ネス
私の敬愛するパトリック・ネスが、亡くなったシヴォーン・ダウドが遺したメモをもとに書き上げた共作。映画化もしています。まだ観れてない。
病に冒された母親と暮らすコナー少年のもとに、イチイの木の怪物があらわれて言う。
「これからおまえに三つの話をする。四つめの話はおまえが語れ」
人の無意識にあるもの、目をそむけたいもの。そういった『おそろしい真実』を一歩踏み込んで引きずり出してしまう作品は、傑作だと信じています。そしてパトリック・ネスの素晴らしいところは、そこに目を向けつつ、きちんと救いを提示してくれるところ。
『国を救った数学少女』
ヨナス・ヨナソン
元ジャーナリストのスウェーデン作家。
この人の書く作品は、まじで面白い。でも、ある程度の教養と世界史、世界情勢の見識を求められるから、どう考えても大人向け。
南アフリカで下水の汲み取りをしていた天才少女は、核爆弾を持ってスウェーデンへ。そこにいたのは馬鹿すぎる双子の一号と、書類上は存在していない双子の二号。
さらっと人が死んだり、実在の人物が辛辣な扱いをされていても、ジョークと理解して笑い飛ばせる人向け。
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
マーク・ハッドン
自閉症の少年が書いた、という体裁の本。
なので文章はめちゃくちゃ。途中で話が変わるし、急にですます調が入るし。(私の作品『千年王国〜』の中でレプリカントがめちゃくちゃな語りをしていますが、実はこの本の影響)
淡々とすすむのに、いや、淡々としているからこそ、急に「おおい?!」となって、最後まで読んでしまう。
どんなに残酷でも、いや、むしろ残酷だからこそ、物語は面白い。
だけど最後に、きちんと納得のできる希望があるか。
とってつけたような、歯の浮いたセリフじゃない、ちゃんとした「希望」が提示されているかどうか。
海外翻訳ものの良さは、それがある場合が多いこと。
そして論理矛盾がないことだと思っています。
さて、同志はどれほどいることか……。