• 現代ファンタジー

『神話』解説

幕間:『神話』ですが、全体を通して言い回しや言葉選びがやや独特で、特に前半は読み辛いのではないかと思い、解説を入れることにしました。
もちろん解説なんて必要ないぜ!という方もいらっしゃると思いますが、映画とかの巻末特典みたいな物だと思って読んでいただければ~と思います。
当然ネタバレを多く含みますので、まだ最後まで読み進めてない方はご注意ください。

【以下ネタバレ注意】













最初の段落から「……詩ですか?」みたいな感じだと思いますので、そこから解説します。
『長く長く、悠久とも思える時間』
もしこのワードで宇宙を想像できた方は、かなり勘の鋭いお方かと思います、そして『揺り籠』ですが、これもやはり乗り物・何かを運ぶ物のメタファーです。
『私』(以下、ニヒリス)を含有した何かが宇宙を漂っていた、というイメージで書きました。
そして『第8・9話』辺りでニヒリスは未知の元素・魔素で出来た何かだということが分かっています。
つまり宇宙を漂っていた何かは魔素の結晶とか巨大な魔素化合物の隕石とか彗星をイメージしてあんな文章になりました。
そして眠っていたニヒリスは何かの衝撃によって起こされる訳なんですが、ここでニヒリスの認識と実際に起きた出来事に齟齬があります。

ニヒリスの認識では
「自分はあくまでもあの世界のどこかで眠っていたのであって、突然何かの衝撃で無理やり起こされた。そしてその衝撃のせいで世界中の生き物がほとんど消滅した!酷い!」
なのですが、実際は魔素を大量に含んだ隕石が地球に衝突して地球上の生物のほとんどが死滅した。が正解です。
『第20話:異世界調査記録』では東シナ海辺りの海岸線が抉れているという描写があります、たぶんその辺に落ちたんでしょう。基底世界と世界線が分岐したのもソコです。

ちなみにそれがいつ頃起きた出来事かというと、『第29話』で桐生が1600年前~現在までの間だと推測して実際にニヒリスがその分岐を確認しました。地球の歴史が46億年と言われてますから、わりとピンポイントで当ててます、さすが博士です。
あと『第3話』の時点で、原田が少女の姿をしたアノマリー(ニヒリス)の正体を「宇宙人」だと推測しています、ほぼ正解です。さすが(略)

地球に衝突した魔素隕石は気化して世界中に広がりました。これがニヒリスが言う「魔力に満ちた世界」です、ニヒリスの意識もその時点で発生しました。
隕石衝突で地球がどういう状態だったかは、「イチロー 隕石」とかで検索するとよくわかると思います。

■この作品における『神』について。
キリスト教・ユダヤ教における唯一神をイメージして書きましたが、この作品自体がフィクションですので当然この作品に登場する『神』もフィクションです、同一視しないようご留意下さい。

地球上の生物のほとんどが死滅するレベルの隕石衝突から今のような環境に戻るにはそれこそ数十億年かかりますが、それを瞬時に元通りにしたのが『神』です。
隕石衝突前から地球上には微量ながら魔素が存在していました。ニヒリスは魔素思念体ですが、この作品における『神』も同様の存在です。隕石衝突前の魔素(魔力)量では到底世界を元通りにする力はありませんでしたが、隕石衝突によって世界中に散った魔素(魔力)を用いて瞬時に元通りにすることが出来ました。
『第20話:異世界調査記録』の記載にあるコーカソイド系白人種が異様に多い理由もここにあって、『神』は自身を信仰する民しか救っていません。これは唯一神信仰における「掟」であるので『神』はそうせざるを得ませんでした。
キリスト教を例にとれば有色人種にも信者はいたはずだ!と思うかもしれませんが、隕石の衝突は大航海時代到来前の西暦900年前後を想定して書きましたので、まだその数は少ないです。
ちなみにこの作品においても『神』は一応、万物の創造主だということになっていますが、僕の設定ではまず信仰が先にあり、その信仰(思念)によって生み出されたのが『神』で、『神』は人間が考えた『神』はこうあるべき!という思念を行動原理としています。ですので信者以外を救わなかったのも実際には、「そうあるべき!」と考えた聖職者・神学者のせいです。

実はこの作品というか『神話』のテーマもそこにあって、テーマは「宗教観に基づく道徳的圧力」です。
昨今クレジットカード会社の決済拒否による表現規制が問題になっています、あれも元をたどれば欧米基準(宗教観)の道徳的圧力ですので……まあ私怨です。

話が脱線してしまいましたが、この作品において実のところ『神』は別に悪くないんです、むしろ人類の為に相当尽力しています。悪いのは信仰を過剰に強要する人間です。
神・人類視点から見たニヒリスは悪魔そのものです。ニヒリスは一度気に入ったものへの執着がヒグマ並みに尋常ではありません、ニヒリスはフローラを救うために世界を改変しましたが、それは本当にフローラが望むことだったのかは分かりません、少なくとも人類にとっては望まない結果だと思います。『神』は魔法の使用を『信仰』によって厳しく管理していましたが、本来その方が平和なんじゃないかなと思います、中世レベルの倫理観しか持っていない人類がいきなり大量破壊兵器を手にするようなものですから……。

一応、財団視点の物語はこれで完結しますが、次回作として予定している作品はこのニヒリスが改変した世界が舞台となります。魔法が当たり前に使えて、妖精を使役する異世界人や謎の天狗(比良山)がいる世界の現地目線の物語を予定しています、調査団救出計画プランBなんかも関係してきます。

■フローラについて。
大体10歳~11歳くらいの女の子を想定しています、後のSCP-X1751-JP-Aとなったニヒリスも容姿だけは髪の色以外同じです。ちなみに髪の色は本編で描写していませんが、フローラが亜麻色、ニヒリスが青みがかった白色をイメージしています。
フローラはやはりあの世界において、かなりイレギュラーな存在で、生まれつき魔力を人より多く保持していた為、ニヒリスと邂逅する前から魔法を行使することが出来ましたが、両親によって決して行使しないよう厳しくしつけられました。魔法を使えることがばれたら即、魔女扱いされる中世社会だからです。
ただそれでも、人には知覚できない何かを知覚したりしていたので、村の人たちからは気味悪がられていました。過剰な叱責を受けた描写や、友達がいる描写をしないことでそこら辺は匂わせときました。
後々の描写で、ニヒリスとフローラが大分仲良しになった頃、ニヒリスがフローラの為に魔法で花畑を作った場面がありますが、そこでフローラはニヒリスに「頭がないから花冠をかぶせられない」と言っています、つまり初めて会った時からニヒリスには頭部が無かったんですけど、フローラはそんな異常存在に普通に話しかけているので相当変わった子なのです。

あまり本編とは直接関係ないんですけど、フローラの名前にはいろいろ仕掛けがしてあります。
フローラのフルネーム、『フローラ・フェブルウス』
この作品を熱心に読んでくださった方はお気付きかと思いますが、『第20話:異世界調査記録』に記載されている、原田が地上世界に到達して駐留中の国の王家がフェブルウス家となっていて、代々魔導神道の宮司長を務めている、とあります。
ニヒリスはあの村でフローラの両親だけは殺しませんでした、フローラの両親はニヒリスを視認出来てませんから、両親から見たあの惨劇はフローラが自力で磔から抜け出し、自力で怪我を修復し、そして自分を虐げていた人々を瞬殺した出来事として映ったはずです。おまけに髪の色と口調まで変わっていましたので、自分の娘が『神』のような何かに変化したと認識してもおかしくないんじゃないかな、と。
それでフローラの両親はそれまでの信仰を捨て、自分の娘を『魔導の祖神』として崇め広めた結果、出来上がったのがアストリア魔導国です。
アストリア魔導国及びフェブルウス家は次回作でも登場する予定です。

実はもう一つ仕掛けがあって、ニヒリスに初めて言葉を教えた人間がフローラなわけですが、基底世界に現れたニヒリスに初めて日本語を教えたのが如月 華です。
『フローラ』はラテン語で「花」、『フェブルウス』はラテン語か古代ギリシャ語で二月を象徴する神様の名前だったと思います。
『如月』も日本の古語で「二月」、『華』も「花」と同義で、どちらの名前も意味的には「二月の花」です。
まぁ完全に後付け設定なんですけど、そうした方がエモいかなと思って、そう命名しました。

フローラと如月は名前もそうなんですが、ニヒリスに対してとった行動も非常に似通っているので、ニヒリスは如月とフローラを重ね合わせて見ています。
つまり如月はフローラ並みにニヒリスに気に入られています。逆に言うとニヒリスは如月以外の人間はどうでもいいと思っているので、人類視点だとわりと危険な状態です。
財団はフローラのことなど知る由もありませんが、現状そうなってしまっていることには気付いているので、如月自体をSCPオブジェクトとして監視せざるを得なくなりました。

■結末について。
あの終わり方は正直自分でも説明が足りないなぁとは思ったんですが、この状況はこうで、こうで、こうだと延々と説明を入れるとあまり美しくないなと思ってああなりました。

あの描写だと「ニヒリス死んじゃうん?」みたいな印象を受けると思います、『第8話』においてニヒリスを構成する体組織は「加圧減圧に弱い」という描写がありました、神の雷は質量をもった高圧の雷なので実際、圧し潰されて肉体が崩壊しかけています。
結論を言うとニヒリスは死んではいませんが、数百年単位で意識を失う羽目になっています。『第29話』での「封印された時に一度意識を喪失している」という発言はそのことを指しています。
ニヒリスは神を舐めていたので、『神話2』でのラストシーン時点では自分がまさかそのような状況になるとは微塵も思っていなかった為、普通にフローラに語りかけるという行動をとりました。

そして一番気になるのがフローラは本当に目を覚ますのか?という部分だと思います。
『神話』は全編通してニヒリス視点です、ニヒリスがあくまで「こうだ」と思った描写しかしてません。
ですので「フローラは眠っていてそのうち目を覚ます」というニヒリスの認識自体に疑問符が付きます。
結論を言うと、フローラが目を覚ますことはありません。
かといってフローラは死んだのかというとそうでもありません。
ニヒリスはフローラの怪我を治す方法として、フローラの肉体を自身に取り込み解析・分解・再構築して新たな肉体を作り、そしてフローラの意識が戻り次第それをフローラに与えるという方法を考えましたが、当時のニヒリスはやはり未熟でした。桐生とSCP-X1751-JP-Aの右腕の時のように上手く精神を分離することが出来ずニヒリスとフローラは完全に融合してしまいました。

『神話』におけるニヒリスは完全に悪魔ムーブをかましていましたが、フローラと融合後、ニヒリス自身は気付いていませんが性格がだいぶマイルドになっています。
基底世界に現れたニヒリスは誰も殺してませんし、SCP-X1751-JP-Bの行いにも"なんか知らんけどごめん……”的な感想を述べています。
元々、ニヒリスが物語の収集に執着し始めたのはフローラが物語が好きだったからで、ニヒリス自身は別に物語自体を楽しんでいたわけではありません。
それが基底世界のニヒリスは如月から与えられた娯楽コンテンツを積極的に楽しんでいます、それらへの執着心は相変わらずですが、積極的に楽しんでいるのはフローラ面です。
わらわ口調を真似てみたり、プニキュアのコスプレをしてご機嫌だったり、わりと見た目年齢相応の挙動を見せることが多々ありましたがやはりフローラ面が現れています。その瞬間フローラの意識が蘇ったとかではないんです、元々のニヒリスの性格とフローラの性格を足して二で割った性格が現在のニヒリスの個性となっているわけです。

■その他小ネタ等。

・冒頭に出てくる『私』はSCP-X1751-JP-A(ニヒリス)なんですが、当初そこは物語的には正体不明なので『  』にしようと思ってました。
ただそれだと投稿時に自動字詰めされるかな?と思い『私』にしておきました。

・フローラが拷問された際、本当は目がくり抜かれていた描写をするつもりでしたが、それだとニヒリスがフローラの目を再現できなくなってしまうので、縫われたという描写になりました。コンプライアンスに配慮してそうなったわけではないです。

・ニヒリスは世界の認識を改変し、信仰による魔法への忌避感を排除しました。そしてフローラの両親は今までの信仰を捨て、フローラを祖神とする信仰(魔導神道)を立ち上げ国を作りました。つまりアストリア魔導国はキリスト教に酷似した"神の教え"を信仰する国ではないはずですが、第20話の調査記録では、信仰は基本的に"神の教え"であって"魔導神道"は魔法に対する道徳観だと触れられています。これはどういうことかというと、ニヒリスが改変した認識を神サイドがさらに改変したということになります、しかしニヒリスはその力を神に貸さないと断言しているので、どのような手段を用いたのかというと、1000年近くかけて地道に布教してました。それでもニヒリスの認識改変の力は強くて"道徳観念"としてアストリア魔導国には残り続けている状況ということになります。

・「胎動する世界」とか「新世界秩序」とかグ〇ブル好きなんですか?と問われたら、はい、その通りです。
一応本編にもたくさん他作品のオマージュがちりばめられています、一応それらの作品固有の名詞は使わないように気を付けていますが、「胎動する世界」も「新世界秩序」も別にグラ〇ル固有の名詞・概念というわけではないのでそのまま使いました。なんなら「ニヒリス」もそうです、グ〇ブルに出てくるニヒリスというキャラが大好きなんですけど公式が無かった事のように扱ってるので、自分の作品で大活躍させてやろうと思いました、キャラ設定とかはもう完全に別人ですが。

『神話』以外のエピソードに出てくるオマージュはまた別に機会があれば紹介したいと思います。

その他、全体を通して「ここの設定どうなってるの?」とかあれば大体お答えできるとは思いますのでお気軽にコメントして下さい。

長々とお付き合いいただき誠にありがとうございました。m(__)m

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