※明るい話ではありません。
現状、頓挫している児童文学……だったもの、『おいでませ妖怪郷』について考えていたことを記録も兼ねて書きます。
『おいでませ妖怪郷』は、構想中に児童文学の枠を飛び越え、『子どもたちが純粋に楽しめる話』ではなくなったため、執筆を中断しました。今後書くことがあったとしても……、児童文学カテゴリからは外します。
『おいでませ妖怪郷』は、『妖怪郷』と『現実世界』を行き来する形の物語として発案しました。
楽しく明るく賑やかな『妖怪郷』。
陰惨で救いのない、暗い家庭環境の『現実世界』。
それらを織り交ぜて描いていく予定でした。
そして、『妖怪郷』なんてものは最初から存在していません。
主人公の少年、日比野翔(ヒビノカケル)少年は、『おいでませ妖怪郷』という名前のゲームを遊んでいるだけの、平凡な小学生です。
つまり、陰惨で救いのない『現実世界』こそが、本来彼が生きていた世界だったのです。
この物語は、家庭環境に恵まれず、ゲームで現実逃避をしている幼い子に向けた話でした。
ゲームの世界にしか、安らぎや温かさを見いだせない子供。
そういう子供は現実にいると思ったのです。
少なくとも、そうだった子供を、私はひとり知っています。
最初はそんな子供に届けたいと思って、筆を執りました。
あなたはひとりじゃないよと声をかけたくて。
筆を執った時は、問題なく書き終えられるだろうと思っていたのです。
しかし、あまりに重いテーマの前に、私の心は折れてしまいました。
……物語の結末の構想もありました。
──
ゲームの世界での出来事は架空のものである。
だけれど、没入して楽しんでいる瞬間の思い出は、かけがえのないものであり、現実を生きる力になってくれる。
『おいでませ妖怪郷』というゲームを遊んで得た経験と勇気とともに、大切なものを守るために少年は立ち上がり、精神的に成長して、家庭環境を悪くしている根源に立ち向かい、結果として平穏な家庭環境を手に入れる。
──
そういう、辛いながらも希望を持った終わり方にする予定でした。
しかし、この終わり方はあまりにも無責任な希望に満ちてはいないでしょうか。
現実は都合よくいきません。
子供が一人立ち向かったところで現実は何も変わりませんでした。
この物語は、辛さのほうがあまりにも大きい。
きっと誰の心も救えない。
鎮痛剤にすらなり得ない。
ただいたずらに傷を抉るだけだ。
そう思ってしまって、筆を執れなくなってしまいました。
ゲームで何度世界を救ったって現実世界は何も変わらない。
なけなしの勇気を振り絞って大人に立ち向かったところでかなわない。
子供の力では何も変えられないことのほうが多い。
状況を悪化させてしまうだけで終わるのが関の山。
そんな現実を、子供に突きつけて傷つけるだけ。
ただそれだけの話になってしまうだろうと思いました。
何より、勇気を持って行動せよと背中を押して、その結果、決定的な何かを引き起こしてしまっても、私は責任が取れない。
そんな無責任な話を『児童文学』として世に出していいとは思えない。そう思ったので、書くのを辞めました。
『おいでませ妖怪郷』のゲーム部分……明るく楽しい部分だけを抜き出して物語にすることも考えましたが、それは欺瞞であるような気もして、うまくいきませんでした。
これが、頓挫した理由であり、再始動も難しい理由です。
ずっとこのことが喉の奥底に詰まって、言葉が出せずにいました。ようやく……言葉にすることができました。