本日発売「コミックライドアイビーvol.36」にコミカライズ版「比翼は連理を望まない」第7話が掲載されました。加えて各電子書籍サイト様では単話版第6話も配信開始になっております!
昨日、X(Twitter)の公式アカウントで単行本1巻の店舗特典が発表になりました。敬称を省略させていただいて、特典がつく販売店様・サイト様を挙げさせていただきますと……
実店舗:こみらの!/駿河屋/メロンブックス/ゲーマーズ
電子書籍サイト:コミックシーモア/Renta!/ebookJapan(LINEマンガ)/Kindle/ブックライブ/BOOK☆WALKER
以上の店舗に加えまして、一部書店では描き下ろしイラストカードがもらえるフェアも開催予定(対象店舗はコミックライドアイビー様公式アカウントに掲載されているリストを参照)
とのことです。
……いや待って!? 多いなっ!? 安崎が把握していたよりも3倍以上多いなっ!? 見た瞬間安崎、ビックリしたよっ!? いや、大変嬉しいけども! 梁世先生、大変だっただろうな……(しみじみ)
特典詳細につきましては、コミックライドアイビー様公式アカウントをご確認くださいませ! 皆様、無理のない範囲でゲットしてください。
え? 安崎?
安崎はもちろんフルコンプを狙っております。そのために希望休出したんだもの。厄介オタクの名に恥じぬ暗躍をお見せいたしますともっ!!
というわけで(どういうわけで?)今回の記念SSはこちら!
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【六花と七草】
その日、涼麗は、黄季の料理を前にして固まるという体験を初めてした。
朝食……いや、今朝の涼麗は思いっきり寝過ごしたので、時刻はもはや昼に近い。そんな中途半端な時間帯の、鷭家の厨房でのことである。
──草、粥……?
明らかにその辺りの雑草を入れて煮込んだような粥が、椀に一杯。
それだけを目の前に置かれた涼麗は、思わず固まった後、ソロリと黄季を見上げたのだった。
※ ※ ※
寝坊の言い訳をさせてもらうならば、涼麗は昨日まで連日怒涛の任務に揉まれて疲れていたのだ。夜のうちに積もった雪が全ての音を吸い込んでいたせいで、いつになくよく眠れたというのもある。気を利かせた黄季が温石やら火鉢やらを涼麗の寝室に持ち込んでくれたおかげで、ぬくぬくと火鉢に懐く猫のごとく惰眠を貪ってしまった。
とにかく、涼麗がいつになくまぶしい光に目を覚ましたところ、日はすでに高く昇っており、窓を開けてみれば庭先はかつて見たことがないほどの雪に埋もれていた。
沙那の都では、薄っすらと積もる程度に雪が舞うことはあれども、しっかり積もるほど降るというのは稀なことだ。脛の半ばまで埋もれるほどに雪が積もった光景を、涼麗は人生で初めて見る。
──市に買い物に行かなければ食材がないと、黄季が昨日ぼやいていたような気がするのだが。
何せ自分が連勤に揉まれていたということは、相方である黄季も同じように揉まれていたということだ。昨日の夕方から降り始めた雪を眺めながら『マズい、明日の休みは絶対に買い物に行かないと食材が何もないのに……!』と黄季が顔色を失っていたのは、涼麗の記憶にも新しい。
『これは市も開いていないのでは』と頭の片隅で考えながら、ひとまずいつもよりも一枚多めに着込み、涼麗は寝室を出て厨房へやってきた。別に何か食べ物をねだるために厨房へ向かったというわけではない。『起きたらひとまず厨房に向かう』というのは、もはや涼麗に刷り込まれた習慣である。
朝食には遅く、昼食には早い中途半端な時間ではあったが、黄季は厨房で何やらせっせと作業をしていた。『おはようございます、氷柳さん。朝ご飯残してありますけど、食べますか?』というありがたい言葉に甘えて着席したところ、出された料理が今目の前にしている粥である。
どこからどう見ても、そこら辺から引っこ抜いてきた雑草を混ぜて煮た粥。ちなみに具材は、その雑草のみだ。
「……」
起きてくるかも、食事を取るかどうかも分からない自分のために、食事を取り分けておいてくれた。嫌な顔ひとつせず、温かい食事を出してくれた。
そのことに感謝こそすれ、文句を言える立場になど自分はない。
そのこと自体は分かっている。……分かっては、いるのだが。
「あ! えっと、大丈夫です! 見た目は草ですけど、全部食べられる草ですからっ!」
粥を見つめたまま固まった涼麗の姿を見ただけで、黄季は涼麗が何に戸惑っているのか察したのだろう。涼麗の様子を伺っていた黄季が慌てて口を開く。
「食材が本当になくてですね! 中庭の畑と道場裏の薬草園からちょっと食材を調達してきまして!」
「薬草園?」
『昼には乾し肉を何とかしてもうちょっとまともな物を用意します!』と黄季の言葉は続いていたが、それ以上に気になる言葉があった。『初耳なのだが、そんなものがあったのか?』と疑問を込めて黄季を見上げれば、問いを察した黄季が説明を口にする。
「実は道場の裏手に、ちょっとした薬草園があるんです。俺は詳しくないので、あんまりしっかり手入れはできてないんですけども」
何でも、元々は黄季の祖母が作ったもので、主に母と五兄が世話をしていたらしい。町道場という怪我が絶えない環境だったため、手当てに使える薬草を自前で育て始めたのがそもそもの始まりだという。
「薬になるものだけじゃなくて、多分毒になるものも植わってると思うんですよね。母や祖母が持っていた『表には出せない技術』っていうのを、五番目の兄は学んでいたみたいなので」
『煌先生になら判別できるのかもしれません』と、黄季は昔を懐かしむように笑った。
その表情のまま、黄季はスイッとどこかへ視線を流す。
「中庭を畑に改造しようって最初に言ったのも、五番目の兄なんです」
黄季の視線の先にあるのは厨房の壁だ。だがその壁を越えた向こうに中庭があり、その一角が畑に改造されていることを、涼麗は知っている。
「きっと食べる物にも困るようになるから、備えられるなら備えた方がいいって」
大乱の時に、という話だろう。そんな涼麗の予測を裏付けるかのように『結局その兄も、自分が整備した畑から実りが得られるようになった時には、ここにはいなかったんですけども』とサラリと言葉を続ける。
「でもその『備え』のおかげで、俺は選り好みしなければ、飢えで死ぬことはありませんでした」
その上で黄季は、涼麗に視線を引き戻すとニコリと笑った。その笑みの中にはどこか、亡き兄を誇るような色が見え隠れしている。
「現に今もこうして、助けられてますしね」
その表情に、涼麗はハタハタと目を瞬かせてから、粥に視線を落とした。
──この屋敷にいると、黄季の思い出によく出会う。
亡き黄季の家族達の気配と、涼麗が知らない時代の黄季の話。
それらに囲まれて生活することが、涼麗は存外、嫌ではない。
──この屋敷は、温かい。
かつての涼麗にとって、雪は死の象徴だった。
郭家に拾われるよりも前。誰ともつかないあやふやな存在のまま、冷たい路地裏で暮らしていた頃。
寒さは、周囲にいる人間を、よく殺していた。寒さに一際強く、気を吸うことで生きることができた涼麗自身は死ぬことがなくても、周囲はそうではない。
奪い合って食べる雑草すら姿を消す厳寒期。飢えと寒さから死に絶えた者の体の上に薄っすらと雪が積もる光景を、かつての涼麗は幾度となく目にしてきた。六花も雑草も、涼麗にとっては、ひたひたと迫る死の象徴でしかなかった。
だけど、今は。
「薺《ナズナ》と御形《ゴギョウ》、繁縷《ハコベ》、稲槎菜《タビラコ》。あとは畑から抜いてきた蕪《カブ》、大根が入っています」
黄季の説明を聞きながら、涼麗は匙を手にした。丁寧に手を合わせて『いただきます』と頭を下げてから匙を差し入れ、そっと口元に粥を運ぶ。
「確かに草ばかりの粥になっちゃったんですけども。逆にお腹には優しい出来映えと言いますか、何と言いますか」
程よい熱を感じながら粥を啜ると、まずはほんのりとした塩気が口の中に広がった。ゆっくりと粥を噛みしめると米の甘みが広がり、シャキシャキとした菜の食感が最後に伝わってくる。そのまま噛みしめるていると、七草達が持つ微かな辛味やら苦味やらがじんわりと口の中には広がった。
質素な一杯ではある。だが丁寧に作られていることが涼麗の舌でも分かる一杯だった。
かつて路上で食んだことがある雑草とは、似ても似つかぬ優しい食事だった。
「美味い」
モグモグ、ムグムグと無心で数口食べてから、思い出したように黄季に告げる。涼麗が口を開く前からこちらの心の内が伝わっていたのか、黄季は安堵と嬉しさを当分に混ぜたような笑みを浮かべていた。
「後で西院大路の市まで行ってきます。あそこなら、もしかしたらこの天気でも、何か売ってるかもしれないので」
「付き合おう」
「助かります」
涼麗の申し出に笑みを深めた黄季は『ごゆっくりどうぞ』と言い置くと作業に戻っていく。
そんな黄季の後ろ姿を眺めながら、涼麗はゆっくりと粥を味わうのだった。
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・単行本詳細
https://release.comicride.jp/comics/book/2041・コミカライズ公式HP
https://www.ivy.comicride.jp/detail/hiyoku/・角川ビーンズ文庫特設ページ(第1話の冒頭が試し読みできます)
https://beans.kadokawa.co.jp/blog/infomation/entry-5854.html・ライコミ様作品ページ(現在は第5話①まで無料!)
https://comicride.jp/series/de1f0152b002d