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◆お知らせ◆ 改稿作業→夜珠あやかし手帖 のっぺらぼう & おまけSS

こんにちは、こんばんは。
井田いづです🦑

まずは改稿作業のお知らせを。
「夜珠あやかし手帖 のっぺらぼう」ですが、現在(2022/10/16)〜改稿作業に入っております。
基本的な内容や流れは変わらない予定ですが、そこそこガッツリやろうとも思っています。
掲載中にころころ変わってすみませんが、改稿後も改めてよろしくお願いいたします🙏


さて、蛇足🐍🦵SSですが……
こちら蛇足SSといいますか、初稿推敲中(掲載前)にガッツリ削った箇所の一つになります。
のっぺらぼう騒動後、夜四郎と美成が言葉を交わすだけのお話ですので、こちら未読でも次回作以降に影響はでません。(そもそも削った部分ですしね)
美成、私個人としてとても気に入っているので、締めの会話を書きたいな、消しても痕跡を残そうかなと、載せさせていただきます。

文中、(前後消したので)ほぼ唐突に夜四郎が所属する家についてちらと出てますが、そちらについては次作以降にちゃんと書く予定です。

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⚠️以下、本編のネタバレを含みます。【夜珠あやかし手帖 のっぺらぼう】を未読の方はご注意ください。
⚠️こちらは推敲前に消したため、初稿そのままなので誤字脱字があるかと思います。読みづらくて申し訳ございません。


さて、長々書きましたが今回はここまで。
風邪にはお気をつけくださいませ。
それでは、また🦑


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 夜四郎は割と結構、暇な男だ。

 たまと妖退治に駆け回っている時はよいのだが、それも終わると暇になる。いかんせん、見える人が限られているというのが厄介で、内職しようにも何をしようにも中々苦戦するばかりなのだ。そうなると、やれることが少なくなってくる。どうにかせねばなあ、とはいつも思うところではある。

 ──たまが来るまで、時間があるな。

 ならば昼寝でもしようか横になった頃。
 佐伯美成が破れ寺へとやって来た。ここのところ眠れていなかったか、顔色が悪い。暑さのせいもあるだろうか。
 夜四郎は慌てて身を起こした。
「あんた、本当に暇なお侍なんだねぇ……」
じとりとした視線に苦笑を返す。
「これはこれは、まさかお越しになるとは」
「ちょいとお邪魔させてもらうよ」
「生憎と粗茶しか出せませんが……」

 夜四郎もまさか一対一でこの絵師と向き合うことなんて想定すらしていなかった。かろうじてあるお茶道具──欠けた茶道具一式は陶器問屋からたまが買って来てはくれていたが、流石に人に出す物でもなく、笑顔の裏で冷や汗をかく。
「いや、いいよ。長居をするわけでもないから」
それをにべもなく断る美成の言葉に、内心ほっと息を吐き出していた。この破れ寺、来客に備えてもう少しは整備しておくべきかもしれない。
「そうですか、それでは」
夜四郎は軒先に煎餅座布団を二つ並べた。

 美成は腰を下ろすなり、徐に風呂敷に包まれた小ぶりの紙を取り出した。それを何も言わずに夜四郎の方へ押しやる。夜四郎は黙ってそれを手に取ると、視線を落とした。
 絵の中には楽しそうに絵草紙屋の店先で声を掛け合う男女が映る。一人は町娘、一人は侍──紛れもなく、たまと夜四郎の絵だ。
 夜四郎は少しばかり驚いて美成を見た。美成も視線を返した。
「夜四郎さん、前に姿絵が欲しいと言ってたろ」
「それは……」
「知ってるよ。私と話をする為の、ただの建前だったんだろう。……なんてこたぁないよ、私が単に暇でさ、描きたくなって勝手に描いてたんだ。だから礼を言われることじゃないし、お代もいらないし、大したことじゃないんだよ」
美成はつんと澄まして呟いた。これがこの男の本音ではないことは、夜四郎でも分かる。
「有り難く頂戴いたします」
「そう有り難がるようなもんでもないよ」
「いいえ。良い絵だ──妹も喜ぶでしょう」
「だといいけど」
「絶対に喜びますよ」
夜四郎は慎重に絵を包みなおした。

 美成はどこか遠くを眺めていたが、不意にぽつりと呟いた。視えない何かを探しているように、視線は景色を滑っていく。
「……この前のこと、礼は言えないよ、兄さん」
「そうでしょうね」
夜四郎も静かに続ける。
「元より、私は私の為だけにやったことですから」
「まあ、少なくても、私の為ではなかったね。太兵衛の為じゃないのかい?」
「太兵衛殿の為、というのもまた違いますよ。それこそ、あなたがたまに語ったような正義の某でもなく」
「ふぅん」
「基本的に、私欲の為にしか動かないんですよ、私は」
「そんなものなのかい。あんたが、妖を斬る理由は」
「世の中そんなもんでしょう」
「ふうん、そんなもんか」
「ええ、そうでしょう」
からりと夜四郎は笑った。

 美成はそこでようやく、息を吐くように笑った。
「無貌は、もう何処にもいないんだろ」
「……さあて、私に彼方のことは視えませんから、なんとも言えませんが」
何処かにいるかもしれないし、いないかもしれない。そう言うと、ため息をつかれた。
「私は最初あんたのことをおっかないと思っていたけど、やっぱりおっかなかった」
「私が?」
「おっかないよ」
「然程、怖がられるような風体でもないでしょうに」
「いいや、あんた、その目が実におっかない。まるでさ、私らのことなんて見えてないみたいでさ、何処をみてるのかわからないんだもの────まあ、友人になれないほどではないけどね」
素直ではない言葉は、相変わらずである。聞こえてきた単語に微笑んだ。
「おや、それは光栄だ。私は友人が少ないもので」
「遠方の友人が一人増えただけさ。お互いにね」
 ここで、夜四郎は目を瞬かせた。
「遠方?」
「ああ、私、今度町を出るんだよ。今日来たのもその挨拶がわりってわけだ」
「……何方へ?」
「決めてないが、上方にでも行こうかねえ。箱根でもいいや。とりあえず、そこらならちょっとした知り合いはいるしさ」
「それは良い。寂しくなりますが」
「どうだかねぇ。ああ、そうだ、荷物も減らしたいからさ、あんた相変わらずの暮らしみたいだろ。お下がりになって悪いけど、いくつかもらってよ」
古着でよかったら私の着物をと美成が言うのを、夜四郎はやんわりと断った。大変有難い申し出なのだが、美成の好む柄はいささか派手なのだ。

 夜四郎は美成を窺い見る。
「すぐに出られるんですか」
「いいや、もう少しは後片付けがある」
「よかった。今日明日の話だと、流石にたまが寂しがりますから」
「なに、まめに手紙くらい出すさ。一応あんたに宛てたいが……あんた本当にこんなところに野宿してんのかい? どう送ればいいのさ」
「……いえ」
言い淀んでから、ややあって言葉を足す。
「柳橋近くの辻家という屋敷に、一応、離れを借りております」
嘘は言っていない。

 辻家の屋敷の離れには、夜四郎の暮らしていた空間はある。今は使っていないだけだ。
「ただ、今は別な仕事があるので帰ってないのですよ。いつそこへ戻るとも約束できませんから、手紙はたま宛にしていただいた方が確実でしょう」
美成はパチリと瞬きをひとつした。
「……辻?」
「……どうか?」
「辻さまの家の夜四郎って言やさ、あのお家騒動を起こした浅葱夜四郎じゃないか」
ふむ、とここで一つ唸る。

「……いえ、私はたまの兄ですよ」
「……」
「そういえば、そんなこともありましたねえ」
夜四郎はふっとつぶやいた。

 あの家であった騒動は思いの外、世間に漏れていたらしい。しかも、かなり捻じ曲がった形で。
「──残念ながら、今の俺はうだつの上がらない侍の端くれでしかありません。ご覧の通りのね」
「……はん、そんなら馬鹿正直に言わずに誤魔化してもよかったろうに」
「まあ」
「……まったく、やれやれだよ。妹さんにやたら似てないとは思ったけどね」
「まあまあ似てますよ」
「まあ、兄さんがそういうならそうなんだろうね。ああ、あんたはただのおたまさんの兄貴、それだけなんだ」
美成はあっさりと折れた。

 美成はよいしょと腰を上げた。
「さて、藪蛇になる前に帰るかな」
「おや、もうお帰りですか……全くおもてなしも出来ずに申し訳ないことです」
「最初から期待しちゃいないよ。まァさ、新居が決まれば連絡するし、近くに来たら遊びに来なよ。おたまさん連れてさ」
「是非。たまは貴方に懐いてましたから」
「物好きな子だよねえ」
「本当に」
「兄を名乗るならちゃんと守っておやりよ。あの子、危なっかしいんだから」
「無論です」
「……今回のことで礼は言えないけど」
「……」
「それでも、この騒動があってさ、あんたらに会えて、それだけはよかったと思う」
手を振った美成は何処かすっきりとした顔をしていた。
 夜四郎に別れを告げると、彼はさっさと歩き始めた。振り返りもせず、まっすぐに明るい道をゆく。夜四郎はその背中を静かに見送った。

2件のコメント

  • SS、めっちゃ良きでした!!!!
  • ユトさん
    ありがとうございます(*´꒳`*)♪
    嬉しいです!
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