ある作品を読んでいる。彼にとって私はうっとうしい以外に何でもないのだろうが、わたしにとって彼とは一個の天才なのである。天才とは、哀れな宿命であろうか。
彼の問題は、20歳中盤に現れる「人生、何をなすべきか」という点に集約されている。革新派の名誉ある死、保守的な幸福の緩慢な持続、どちらにもつくことができない、できないが、人生は残酷にも進んで行くので、妥協に満ちた決断をしていくのだが、それは後悔を生むだけである。いずれにしても、必ず必要となるだろう長い期間にわたる忍耐のやり場を、ここで決めてしまいたい、その焦燥感が、柔らかくも多彩な文章の中に充ちている。
彼のファンタジーは、トルストイが自らの小説に行った類の私小説的問題の提示と解決であった。結末はまだない。