小沢さんは新聞を取っていない、しかし一時新聞が勝手に郵便受けに入っていたことがあると言う。それが普通の新聞ではなかったそうでそれを話してもらった。
「私ね、新聞なんて取ってないんですよ、会社に行けば共有出来るようになってますし、最近ならスマホで十分だったりもしますからね」
「しかし新聞が入っていたそうですね」
「ええ、アレが何の新聞だったのかは分からないんですがね……ある朝出社しようとしたときに郵便受けに新聞が入っているのが見えたんです。急いでいたのでそれを無視してあとから配達した会社に文句を入れておこうと思ってそのままにしました」
そうして帰ってきたのだが、やはり新聞は入れっぱなしになっていたそうだ。配達員が気付いて回収した様子も無い。仕方なくどこの新聞か抜き取って目をやった。
「新聞のタイトルなんですがね、『訃報新聞』と書かれていたんです。不気味だなと思ったのと同時にそんな新聞は知らないのでイタズラだろうしゴミ箱に放り込んでおけばいいだろうと思ったんです」
その新聞を引き抜くと、大見出しに『○○さんがお亡くなりになりました』とタイトルになっている記事があったんですよ。名前は会社のいやな上司のものでした、ああ、済みませんが伏せておいてくださいね」
私は頷いて話を続けてもらった。
その新聞らしきものはロクに読まずゴミ箱に放り込んで翌日の燃えるゴミに出しました。その足で出社したのですが、そこで上司が亡くなったということを聞きました。
あの新聞がどうしても頭をよぎるんですよ。タイミングもぴったりじゃないですか? これを偶然とは割り切れなかったんですが、無理して忘れることにしました。その一週間後にまたその新聞が入っていたんです。
表紙に書かれていたのは当時付き合っていた女性の死亡記事でした。イタズラにしても度が過ぎていると思って怒りにまかせてゴミ箱に放り込んでそのままゴミに出しました。
その一ヶ月後に彼女の死亡する事故が起きました。人為的なものではないそうで、当時は結婚も考えていたので健康診断もきちんと受けていました。それでも何かがあって亡くなったんです。
詳しい事情は知らないんです、葬儀に参列しようとしたところ、彼女の両親がものすごい剣幕で怒っていて、私は何も出来ず追い返されました。何があったのかは知りませんが偶然ではないのでしょうね。
それからも身近な人が死ぬ度にその前に訃報新聞が届くようになったんです。結構な人数が死にましたよ、もう諦めて今は素直に望む記事が書かれることを期待して待っています。
「期待……ですか?」
「ええ、できるだけ早く私の訃報が記事になることを祈っていますよ」
そう言って彼は力なく笑った。