遅ればせながら、「ぼっち・ざ・ろっく!」(以下、ぼざろ)のテレビアニメシリーズを完走した。視聴する前、インターネットで「ぼっちちゃんの奇行が面白い」「良質な百合」「アルコール依存症の描写が洒落にならない」といったきらら系にしては異質な感想を見ていたため、一体どんな作品なのかと思っていたのだが、実際に見てみると、全部“そんなことなかった”……。主人公であるぼっちちゃんこと後藤ひとりちゃんの過剰なまでの人見知りっぷりは見ていて面白いと言うよりかたはら痛く、キャラクター達の関係は私の基準では百合認定の閾値を超えない「女同士の健全な友情」であり、アルコール依存症の描写はかなりマイルド(悲惨さは隠しきれていないが)という感じだった。
それよりも、インディーズバンドを結成して身銭を切りながら活動し、少しずつファンを増やしてゆくという過程の描写がとても面白くて興味深かった。知名度がなく実力もまだまだだけれど熱意と夢のある創作者の、社会での立ち位置の描写にめちゃくちゃリアリティがあり、オリジナル小説で同人活動をしている自分自身の境遇を彼女たちに重ね合わせてしまった。細田守監督の「竜とそばかすの姫」を観たときも同じような感覚を抱いた。陰キャで地味で人付き合いも得意じゃない女の子がインターネットで自己実現をし、けれどその先に「ネット上の不特定多数」ではなく特定の「その人」と生身の体で向き合うようになる、という物語は現代のヲタク、特に自分で何かを作っている人たちの共通感覚なのかもしれない。インターネットがどんどん発達し、顔を合わせずに人と繋がることができるようになっても、やっぱり現実世界で誰かに「あなたの作るものが好きです」「あなたが必要です」と言ってもらえるのは何物にも代えがたい喜びなのだと思う。ネットがリアルに繋がり、リアルがネットによって広がってゆく。ネット社会とリアル社会は不可分であり相乗的に広がってゆくものなのだ。だから私たちはインターネットに作品を投稿しながら、リアルのイベントにも参加する。
ところで、私の好きなキャラクターは店長さんときくりさんだった。私の元々の性癖で「主人公より年上のお姉さん」が好きというのもあるが、この二人はめちゃくちゃ良いキャラしてるなぁと思った。特にきくりさんは、ひとりちゃんと同じように人や社会が怖くて不安が強いが、それを克服して確かな実力でファンを増やしている、ひとりちゃんのロールモデルになり得る人物である。けれど、その克服方法が酒に溺れることであり、あのペースで呑んでいたら近いうちに確実に脳や肝臓に障害を来し、ベースを弾くどころかまともに立つことすらできなくなるであろう破滅への道を進んでいる。ひとりちゃんは絶対にきくりさんのようになってはいけないし、恐らくこの先なることもない。憧れの対象であるが、同時に絶対に真似してはいけない闇落ちした敵みたいな立ち位置でもあり、そのくせこの先ずっと味方であり理解者でもあるのがかなり面白いし独創的なキャラメイクだと思う。もしかしたら、OP映像でのきくりさんの登場シーン(ネットでラスボスとか言われてるやつ)は、彼女のこの立ち位置を表していたのかもしれない。
長々と語ってしまったが、とにかくぼざろはめちゃくちゃ面白いアニメだった。出会えて良かったと思う。