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「でさあ、マジで俺、あの世の入り口まで行ったんだよ」

## お前死んだって(笑)いやお前もな(笑)

真夜中。コンビニの冷房が、やけに肌に痛い。

「でさあ、マジで俺、あの世の入り口まで行ったんだよ」

カウンターでコーヒーを啜っていた俺の隣で、リュウがニヤニヤ笑いながら語り始めた。彼の話す「死」は、いつも冗談の具材でしかない。

「はあ? お前、この前も二日酔いで『もう俺の人生は終わりだ』とか叫んでたろ」

俺は缶コーヒーのプルタブを勢いよく開け、一口飲む。甘ったるい液体が喉を焼いた。

「違うって! 今回はガチ。心臓が止まったんだよ。救急車で運ばれて、蘇生されて……」

リュウは胸を叩く。彼の顔色は妙に健康的で、どうにも嘘くさかった。俺たちは高校からの腐れ縁で、くだらない冗談と、どうしようもない夢を共有してきた。彼の「死」の告白は、いつものように現実の重みを欠いている。

「で? 天国か地獄か、どっちの受付に並んだんだよ」

「地獄の受付は行列ができててさ。俺、諦めて帰ってきた」

「お前らしいな」

俺は鼻で笑った。死は、まだ遠い世界のことだ。俺たちにはまだ、消費しきれていない時間がある。この薄暗いコンビニの蛍光灯の下で、くだらない人生を語り合う時間が、永遠に続くような気がしていた。

「なあ、お前、最近疲れてるだろ」

急にリュウが真面目なトーンになった。俺はコーヒー缶をテーブルに置いた。

「別に。仕事が面倒なだけだ」

「違う。目の下にクマできてるし、なんか、生きる気力みたいなのがさ……」

リュウの言葉はいつも核心を突いてくる。それが気に食わない。俺は視線をそらした。

「うるせえな。お前こそ、そんなに死に場所が見つからないなら、さっさと見つけろよ」

「それだよ、それ!」

リュウは興奮したように手を叩いた。

**「お前死んだって(笑)いやお前もな(笑)」**

彼の笑い声が、自動ドアの開閉音にも負けないほど響いた。

「何だよ、意味わかんねえ」

「だってよ、俺が死にかけたって話してんのに、お前は俺の心配より先に、自分が死ぬかどうか心配してるだろ。その時点で、お前も既に半分くらい死んでるんだよ、精神的に」

その言葉は、いつもの冗談の皮を剥いだ、生々しい棘だった。俺は一瞬息を詰めた。

そうだ。俺は、リュウの死の体験談に安堵していたのかもしれない。彼が奇跡的に「戻ってきた」ことに、自分の「死ななくて済んだ」現実を重ねて喜んでいたのかもしれない。

俺たちは、お互いの生にしがみつくために、皮肉を言い合っているだけなのかもしれない。

「……最悪だな、お前」

俺はコーヒーを飲み干し、立ち上がった。

「どこ行くんだよ」

「帰る。お前も早く帰れ。明日、仕事だろ」

「そうだな」

リュウは静かに頷いた。彼の顔から、先ほどのふざけた笑みが消えている。

俺は出口に向かい、リュウが言った言葉を頭の中で反芻した。

*お前もな(笑)*

自動ドアが開く直前、俺は立ち止まった。振り返らずに、低い声で呟いた。

「……なあ、リュウ」

「ん?」

「本当に、危なかったのか?」

一瞬の沈黙。

「ああ。でも、お前が心配で、目が覚めたんだよ」

それは、いつものリュウなら絶対に言わないセリフだった。

俺は何も言わず、真夏の湿った夜の空気の中に飛び出した。背後でリュウが小さく笑うのが聞こえた気がした。

**「お前死んだって(笑)いやお前もな(笑)」**

その笑い声は、もう皮肉でもなければ、冗談でもなかった。

それは、俺たちがまだ、生きていてよかった、という、歪んだ祝福のようだった。俺たちは、お互いの存在を証明し合うために、これからもこのくだらない生を続けるのだろう。死に体みたいに生きながら。

俺はコンビニの灯りを背に、誰もいない道をただ歩き続けた。心臓の音が、妙に大きく聞こえていた。

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