最近、野崎歓の「水の匂いがするようだ 井伏鱒二のほうへ」を読んで、井伏鱒二への興味が膨らんだ。ある作品と別の作品の書き出しがよく似ている、という指摘など、退屈なミステリを読むより驚いた。
この本を読むと「実は、井伏鱒二は面白い!」という情熱の炎が燃え上がってくる。
で、実際に井伏鱒二の作品を読もうとすると、大抵の図書館にある日本文学全集に代表作が入っている。文庫も新潮文庫、岩波文庫、講談社文芸文庫ほかで10冊くらいは生きている。全集が全29巻くらい、もう少し前に出た選集が全13巻、となっている。
この選集は自作に厳しい本人によって選ばれたというもので、ヤフオクで2500円から6000円くらいといったところ。買ってしまいそうになったが、なんとか堪えた。
有名な短編を少しだけ読み返してみると、やはりというか何というか、以前にも感じた退屈さが再び蘇ってくる。
「やっぱり、井伏鱒二はつまらない!」という方向へ、気持ちがUターンしてしまった。
しかしまだ未読の代表作がいくつかある。そういう作品はやはりずっと書店に置かれ続けているようで、駅の近くの大きな書店に行ったら文庫の「山椒魚」「黒い雨」「さざなみ軍記」「荻窪風土記」「珍品堂主人」「駅前旅館」などは今でもきちんと存在している。このあたりを読んで、面白かったら選集を買うべきだろうなと思う。
結論としては、書店の文庫コーナーで売られている本であれば、大抵の没後作家の作品は選りすぐりの「ベスト・オブ・ザ・ベスト」なのである。昭和を越えて平成を生き抜いて、令和の今でも商品として通用しているのだ。驚くべき寿命の長さである。
けれども、どうしても好みの問題で「山椒魚」や「へんろう宿」や釣り小説の良さは今のところ微妙としか言えない。修行が足りないというべきか……。