滅亡の理由

はじめアキラ

滅亡の理由

 西暦2XXX年。

 僕達僕達“株式会社・宇宙宅配便”が生まれてから、百年くらいが経過しようとしていた。

 最初は太陽系のごく一部の星だけで行われていた、異なる星の間での宅配サービス。今では太陽から冥王星に至るまでの、広い範囲で展開されるようになっている。特に、太陽と冥王星が追加されたのはつい先日のこと。最初はお手紙のやり取りだけだったのが、どんどん重たい荷物もお届けできるようになり、会社は人手不足でてんてこまいとなっているのだった。


「ドム!休んでる暇ねえぞ、急ぎの荷物だ、行ってくれ!」

「ええええええ……」


 金星の酸性雨をかいくぐり、どうにか大きな荷物を届けてきたばかりの配達員の僕。会社がある火星に戻ってきて早々上司に言われてげんなりしてしまった。

 倉庫に山積みになっているのは、大小様々のダンボールの山だ。どうやら、地球に観光に行っていた木星人が、ご近所にお土産を配ろうと大量発注したらしい。

 確かに、地球には他の惑星にはない美味しいものがたくさんある。異星人たちの間でも人気の観光スポットであるのは間違いない。が、さすがにこの量は異常ではないか。


「アマルテアのお宅に三個、エララに一個、ガニメデに十個、イオに八個、メガクリテに二個、ハルパリケに一個でバレトゥードーに二個、アオエデに五個でエウロパに二十五個で……ああああああああああもう!」


 木星には、旧ホラクラム星人が大量移住した影響になり、ここ百年ほどで爆発的に人口が増えたのだった。ガス惑星なので生命体が住むのに適さない、なんて言われていたのは遠い昔のこと。ホラクラム星人のような、有毒物質に強い“浮遊生命体”には、地面のあるなしなんて関係ないのだ。

 彼等は木星のガスの中を、ふよふよと漂いながら生活している。自分達の会社にとっても、木星のお客さんは多く、得意先と言っても過言ではないのだった。

 また木星と言う星は、衛星が非常に多い事でも有名である。木星に本拠地を置いて、周囲の衛星に別荘を持つ金持ちも少なくない。今回のホラクラム星の公爵夫人も、各衛星に住んでいる親戚にお土産を配りたくて仕方なかったのだろう。――自分達からすれば、仕事量爆増でかなり頭が痛い事態であたのだが。しかも。


「急げよ。全部クール便だ」

「まじで?」

「地球の魚は美味いからな。鮮度が大事だ。最速ワープ使って大急ぎで運ぶこったな」

「……まじで?」


 何故だ。何故親戚周りに大量に配るお土産を、急いで届けなければいけない冷凍モノにしてくれたのか!

 僕はがっくりと肩を落とした。


――……今日、僕家に帰れるかなあ。確実にてっぺん超えるじゃん。


 この仕事をするため、火星の賃貸アパートに住み始めて五十二年。もっと効率よく仕事をこなさなければいけないなあと常々思う。

 僕達オコロ星人からすれば、八十五歳の僕なんてまだまだ若造以外の何者でもないのだから。




 ***




 宇宙宅配便のサービスを利用する異星人の中には、地球人も一応含まれてはいる。

 ただし、地球の人達は気難しく、僕達異星人を警戒する者も少なくない。二百年くらい前にとある惑星の住人がうっかりロケットをぶっぱなし、太平洋上に落下したことで異星人が発見されたというから、ある程度不審に思われるのも仕方ないことなのかもしれないが(むしろ、二百年前まで異星人の存在に気付かなかったのがなんとも平和ボケしているというかなんというか)。

 地球人たちは、僕達と違って腕が二本、足が二本しかない。頭も一個、脳と心臓も一個ずつという奇妙な姿をしている。手足がそれぞれ五本ずつ、脳と心臓も三個ずつある僕からすると、なんともシンプルで不便な体をしているなあと思ってしまう。だって、心臓や脳が一個しかないなら、一個潰れたらもう駄目になってしまうということではないか。体の中に予備を持っていない上、体の表面も非常に柔らかくて脆い作りになっているという。

 多分それは、地球という惑星が恵まれた気候、環境にあったからだろう。

 僕達オコロ星人は、遠い昔に太陽系の外から移住してきた民族である。僕達の母星は、夏は気温が二千度、冬はマイナス五千度というのが一般的な気温だった。地球の気温は、一番寒い南極のあたりでさえマイナス五十度とかそこらへんだと聞いている。なんと温かく、住み心地の良い環境だろうか。

 そして、異星人による侵略がほとんどなかった星でもあるらしい。よその惑星が惑星間の戦争でごたごたしている頃も、地球の人間たちは地球人どうしで小競り合いをするばかりだったのだそうな。なるほど、そんな環境ならば、僕達のような鋼の皮膚もいらないし、予備の心臓や手足もいらなかあったということなのだろう。


――でも、地球の存在も、異星人たちに広く知られるようになったし。地球人も、もうちょっと進化しないと危ないと思うんだけどなあ。


 僕はパソコンの前で事務仕事をしながら、そんなことを思ったのだった。

 ちなみに、うちの会社は“電子メール”の送受信も委託されている。古き良き手紙を好む人もいれば、電子メールで簡潔なやり取りを好む人もいるからだ。ただし、メールの類は、惑星と惑星の間で直接送信することはできない。特殊な電波塔を使わなければいけないからだ。

 そこで僕達の会社が介入して、そのメールを中継する仕事もやっているというわけである。その際、ウイルスが混じっていないかも徹底的にチェックしている。異なる惑星から送られたメールのせいでパソコンがウイルス感染した!なんてことになったらそれこそ惑星間のトラブルに発展しかねないからだ。

 そう、実は僕たちの仕事は、間接的に太陽系の平和を守っているともいえるのである。この太陽系の中で戦争なんて起きないよう、それぞれの惑星がほどほどの距離を取りつつ友好な関係を築いていけるよう、日々努力を重ねているわけだ。

 とはいえ、地球人たちに危機感がない、と思うのはまさにその通りなわけで。


――彼等もそろそろ、手足を一本ずつ増やすとか、頭をもう一個生やすとか……そういう風に進化していかないと。それとも、地球人って簡単に形態変化とかできないんだっけ?


 五本の紫色の手で素早くキーを叩いていく。

 そういえば地球にある火星大使館の人が、“地球人はそろそろ脳を増やす手術などしてみてはどうか”みたいな提案をしたら、アメリカの大統領にものすごく激怒されたことがあったのだとか。――まったく理解できない。大使は間違いなく、善意と心配で言ったのだろうに。


「地球は人気観光スポットだし……異星人もとっくにたくさん訪れてるのにさー。もうちょっと寛容な心を持って欲しいもんだね」


 思わずそうぼやいた、その時だった。


「仕方ありませんわ。地球の方は、非常に臆病でございますから」

「!」


 鈴が鳴るような声。はっとして、僕は業務カウンターの方を見た。見ればテーブルの前に一人の美しい女性が座っているではないか。


――わ、わあ!


 宝石のような緑色の目が合計十三もある。ぬるぬるとした艶やかなオレンジの肌に、三つの頭皮から生えた黒い触手は綺麗にリボンで結ばれている。睫毛も長く、彼女が瞬きをするとキラキラと星が散るようだった。

 間違いない。僕と同じ、オコロ星人の女性だ。確かに火星にはオコロ星人の移住者も非常に多いが。


「こ、こここ、こんにちは!僕、ドムって言いますう!お、お、お客さんでしょうか!?」


 僕が慌ててカウンターに滑るように飛びつくと、女性はくすくすと笑った。その際、耳まで避けた大きな口が目に入る。歯が金色で鋭くて、あまりのかっこよさにくらくらしてしまった。年は二百五十歳くらい、だろうか。ドキドキしてしまうほど美しい人だった。


「そんなに緊張しないで、ボウヤ。ええ、今日は、届けたい荷物があって、手続きに来たのよ」


 彼女はよいしょ、と五本の腕で荷物をカウンターに乗せた。クール便だ。いつもなら面倒くさがるところだが、この素敵な女性のものだと思うとそれでもいいかと思ってしまう。男というのは、どこまでいっても美人に弱いイキモノなのである。

 ただ。


「えっと、地球、ですか?」


 届け先が、地球の日本と言う国になっていた。心配になって、僕は思わず確認してしまう。


「クール便ってことは、食べ物ですよね?地球の人に、オコロ星人の好物って口に合うもんなんでしょうか……」

「火星の、マーズオマールよ。実は、以前この星に一度だけ、地球の友人が来てくれたことがあってね。その時美味しい美味しいって食べてくれたものだから、彼女の誕生祝いに届けてあげたいのよ」

「あ、そうだったんですねえ」


 地球人の体は非常に脆いので、まだまだ限られた地域しか宇宙旅行ができないと知っている。現状彼等が行くことができるのは、月と火星のみ。そのせいか、火星には時折地球人が乗った宇宙船が降り立つことがあるのだ。

 きっとその時、女性と地球人の友人は友達になったのだろう。送り主は“ロゼ”と言う名前になっていた。多分、この人の名前なのだろう。


「わたくし達の方から地球に観光に行くことは珍しくないですけど、地球の方々が来られることは少ないですからね」


 ロゼはくすくす笑いながら言った。


「そして、先ほども申しましたように、地球の皆さんはどうしても臆病な方が多いです。わたくしたちが地球人に擬態していなければ、すぐ怪物だの化け物だのと呼んで怯えてしまうものですから」

「僕達からすると、地球人の方がよっぽどオバケっぽいですけどねえ。だって手足が合計四本しかないんですよ?貧相じゃないですか」

「本当にね。……でも、わたくしの友となってくれた彼女……マナミさんはね。まだ小学生の子供だったけれどとても聡明で、わたくしの本当の姿を見ても恐れることなく近づいて、お話をしてくれたんですのよ」


 あれで、わたくしは地球人の偏見を取り払うことができましたの、とロゼ。


「彼女の両親も、わたくしを怪物と呼ぶことなく、友として接してくださいました。……ただ、まだまだ地球には偏見が多いものですわ。わたくしがあまり何度も地球に行くと、他の皆様が怖がってしまうのはわかっています。擬態もそんな長時間持つわけではありませんしね。ですのでせめて、彼女が火星で美味しいと言ってくれたマーズオマールを届けて差し上げたいなと。今の時期は特に美味しいですから」

「優しいですねえ……」


 確かに、マーズオマールは非常に美味だ。体長25cmほどの体の中に、ぷりっぷりの身がしっかり詰まっている。

 二酸化炭素がまったくない環境下では生息できないが、地球は二酸化炭素も大気中に含まれていたはずだし、新鮮な状態で届けることもできるだろう。箱を振ると、がさがさと小さく音がする。冷凍された状態でもまだ生きている証だ。すぐに届ければ、新鮮な状態で配達することができるだろう。


「わかりました!この僕が、責任をもって美味しいエビをご友人の元へ運ばせていただきます!」


 僕はばばん!と大きな胸を叩いて言った。


「あ、書類だけお願いしますね。こことここと、あとここにハンコ……あと料金がこの重さだとこれくらいで……」

「わかりましたわ」


 その時、僕はうっかりしていた。

 確かに会社は人手不足で、その日も多くの社員たちが出払っていたのは事実。しかしいくら急ぎの荷物でも、二人以上の社員でダブルチェックを行ってから配達するのが規則となっていたはずなのに。

 僕は思わぬ美人との遭遇にすっかり浮かれていたし、大切なことを忘れていたのだった。

 つまり、場所によっては――絶対に運んではいけない荷物がある、ということを。


「おま、おま……ばっきゃろおおお!どうすんだこれ!?大損失だぞ!?」

「あわわわ……」


 その日。

 僕は夜、ニュースを聞いてひっくり返ったのだった。

 地球はたった数時間で、壊滅状態となっていた。巨大なエビが暴れまわって、地球の大陸のほとんどを海に沈めてしまったからである。

 マーズオマールは、二酸化炭素がゼロだと生きられない。

 ただし一定以上酸素がある環境下だと、全長200万kmまで巨大化してしまうのだ。僕もあの女性も、生物学の知識がまったくなかったのである。


「ああああ、ごめんなさい、社長ー!」


 僕は、思いっきり叱られてしまった。きっとあのロゼという女性もしょんぼりしてることだろう。

 せっかく、地球には面白いもの、美味しいものがたくさんあったのに台無しにしてしまった。本当にうっかりである。

 次からはこのようなことがないよう、気を付けようと思う。


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