第二話
「ん...はっ‼」
目を覚ましてみるとそこは俺の家だった。なぜ家のベッドに? 確か俺は模擬戦を見ていたはず。それにさっきまでの夢はいったい...?
「やぁっと起きたのかこの寝坊助が」
急にした知らない声にびっくりしてのそちらに目を向けると、模擬戦で異常な強さを見せたキュビリッツ・R・カグラがベッド横の椅子に腰かけて読書をしていた。待ちくたびれたぞ、死んだのかと思ったわ、そんな風に顔に書かれている。
「は、はい。えぇっと‥‥ん?」
「意外にこの時代の書物は興味深いものが多いな。いつかすべて読んでみるか」
この時代、全て読んでみる、ほぼすべての言葉に引っかかるがそんなことはどうでもいい。俺はもっと違うことを聞きたい。
「ここ俺の部屋ですよね? なんであなたが。そしてなぜ俺はベッドに?」
確か俺は模擬戦を観戦していたはずだったがいつのまにか自室のベッドに横たわってい る。しかも話したこともない先輩付きで。この疑問の解消がまず最優先だ。なにのんきに俺の本読んでんだこの人。マイペースすぎるだろ。
「あぁ、覚えていないのか? 君、あの模擬戦の途中に興味深いことを呟いて観戦席で倒れたんじゃないか」
んん?...ああ、そういえば。なぜかあの模擬戦を見ている最中に意識がなくなったんだった。確かあのもう一人の三年の先輩が吹き飛ばされて気絶したところあたりで。
「なるほど、思い出しました。確かに俺は気を失ったようですね。でもここにいるということは先輩が俺を運んでくれたんですか?」
「ああそうさ、感謝したまえよ」
「は、はぁ。その節はどうもありがとうございました。わけわかんない所はいっぱいあるんですけど、その、興味深い言葉って何ですか。俺何か言いましたか」
なぜまだこの部屋にいるのか、なぜあなたが運んできたのか、そういうことも聞きたいのだが「興味深い言葉」というのが気になる。もしこれで何か失礼な言葉、もしくは愛を叫んだとかになると俺は明日から学校に行けなくなるのですが。
「なんだそこは覚えていないのか。ほら、君はあの倒れこむ直前『助けて? だれ?』とつぶやいたじゃないか」
「んー? そんなこと言いましたかね。言ったような気がしないでもないような気も。というか俺じゃなくて他の誰かだったんじゃ?」
確かあの場所には覚えているだけでも二百人程度はいたはずだ。その中から俺の声を聴き分けるなんてそうそうできる芸当じゃない。よほど俺が大声で言っていない限り。
「いいや、確かに君はそう呟いたんだよ。私の聴力を舐めないでくれ。私が聞こえたと言っているんだからそうに違いないんだ」
「そ、それはなんともまぁ。じゃあ仮にそうだとしてこの状況はどういうことですか。俺の呟いたことと先輩がここにいることになんの関係が? 運んで看病してくださったことには感謝していますけど、わざわざ俺が起きるまで居なくたって」
だいたい、俺の部屋に運んでこなくても医務室なりに放り込んでおけばよかったはず。しかも周りにいた人ではなくて、模擬戦をしていた張本人が俺を運ぶ理由が分からない。
「冷たいなぁ君。私がそうするに足りるだけの理由があったからそうしたまで。大丈夫だ安心しろ、君の周りにいた人たちは君のことは覚えていないさ」
「覚えていない...? それはどういう...?」
いくら俺の存在が学園で避けられていたとしても覚えていないことはないだろう。というかそれがあり得るとしてこの人がそれを知っているはずがない。
「ああ、言葉足らずだったね。正確にはあの場で君が倒れたことも誰一人として覚えていない。何よりあの模擬戦自体なかったことにしてある」
「言葉を付け足した結果もっとわけがわからないんですけど。そんなこと魔法を使っても無理なのでは?」
言葉足らずという領域ではもはやない。それとも俺の頭が足らないのか? いやそんなことはないはずだ。模擬戦をなかったこと、はいくら何でも無理があるだろ。
「無理なものがあるか。この私にできないことなどない。...少なくとも以前は」
「以前は? 前はできたんですかそんなこと。実はとてつもない権力者...? は! 理事長の愛人の子的な?!」
確かにそう考えれな色々もみ消してもみ消して模擬戦がなかったことにできる。緘口令を敷くこともできるし、いざとなれば高位の魔法であの場にいた全員の記憶をいじれるのか。理事長の愛人の子! なんて恐ろしいの!
...いや、でも俺だけ覚えてるのおかしくないか? てか、なんで圧勝した側が模擬戦自体なかったことにしたいんだ? だいたいこういうのはこっぴどくやられた側がするもんじゃないか?
「なんて失礼な。そしてさらに失礼な妄想を広げるな。私の話をまずは聞け。...そうだな、君は『先約シオナリ』というのを聞いたことはあるか?」
「はい、もちろん。多分世界中の誰でも知ってるんじゃないですか? 先輩もそうでしょう?」
『
残虐、非道、非情。その力を持って実に世界の半分以上を掌握したとまで言われている災厄の魔法使い。多数の信仰者を配下に置き、世界を恐怖に陥れたが、やがては立ち上がった英雄たちにより捕らえられ処刑された。そしてその英雄の一人こそわが学園の理事長、サヴィア・ルビニアス。だからこの学園で先約シオナリの名を知らない人は誰一人としていない。
ちなみに理事長、かの災厄の魔女を倒したはずなので五百歳は超えているはずだけどびっくりするほどお元気そう。流石英雄。うらやましいね。
「うんうん。名が知れ渡っているようで結構。...いやなんで知れ渡っているんだ? 普通秘匿とかするもんじゃないのか?」
「いや何言ってるのかよくわからないんですけど、俺に聞かれましても。あれじゃないですか、過去の教訓から学ぼう、的な」
別に過去起きた様々な戦争だって秘匿されているわけじゃないですからね。立派にいろんな人が研究してこうして現代まで戒めや教訓にしているんだ。歴史って偉大だね。
「まぁそんなもんか。でだ、そんなことはどうだっていい。その災厄の魔女こそがこの私。数百年の時を経て復活したキュビリッツ・R・カグラだ。特別にキュビちゃんとかカグラちゃんとか呼んでくれてもいいよ」
やっばい。やばいやばい。頭がやばい人だ! 不審者だこれは! お母さーーーーーーん!!!!!!!! 警察呼んでーーーーーー!!!!!!!!
あ、一人暮らしだ! 携帯携帯!!!!
「まてまてまて、覚悟した顔で携帯に手をかけるな。多分警察呼ぼうとしているだろう。当然の反応だが私の話を聞いてくれ! 君にしか頼めないんだ!」
「手、手を放してください! 詐欺の常套手段です! 僕お金なんて全然持ってないです!」
彼女の手が俺の手首にギリギリと食い込んでくる。意外と力強い、いやだいぶ強いぞ! これが実技で優秀な人か‼ ていうかマジで痛い! 折れる折れる!
彼女の熱意というか執念に本能レベルで恐怖を感じ、もう諦めましたよと言わんばかりに力を抜いた。もう煮るなり焼くなり好きにしてください。あ、でも生きたまま丸焼きは嫌なんで、そこだけどうにか...。お慈悲を。
「やっと、信じてくれたのか。信じていたぞ」
「いえ、まったく。諦めはいい方なのでもう辞世の句でも詠もうかと」
「...私が言うのもなんだが、もうちょっとこう抵抗しても...じゃない! そうじゃなくてなんで信じてくれてないんだ?!」
なんで信じると思ったのこの人。確かに目で訴えられる執念は異様だし、模擬戦ではバカみたい強さしてたけど。それだけでかの有名な災厄の魔女様を信じるわけない。子供だって、へぇ、くらいで流すはずだ。
それほどまでに俺たちが聞き馴染んだ災厄の魔女の逸話は半端ではない。悪魔や魔王もなんのその、世界各地で語られる伝説の竜だって一捻り。その気になれば時間旅行や死者蘇生、なんでもござれの超魔法使い。力の使い方さえ間違えていなければ人類史始まって以来のぶっちぎりナンバーワン偉人だったはず。
だからこそ、そんな人が俺の目の前にいるはずがない。というか俺の目に入る前に俺は殺されていなければおかしい。
「常識的に考えて、としか。名前を出されても、まずなにより実物を見たことないですからね。教科書とかに載ってるのだって肖像画ですよ。というか俺が知ってる肖像画にすら似てないじゃないですかあなた。髪は赤くなかったですし」
「あ、た、たしかに! 私の事を生で見たことあるやつなんて現代に数人いる程度なはず。いやぁすまないすまない」
そういい、彼女はワッハッハ、と何が面白いのか豪快に笑い膝を叩く。いやぁ何に納得したのかは分からないが、よかったよかった。もう帰ってほしい。
「じゃあ反対にどうしたら信じてくれるの、君は」
「‼」
先ほどの笑いは何だったのか、と思うように急に笑顔をなくし真っすぐ目を見つめて彼女は俺に問うてきた。あまりの変わりように心なしか背筋が伸びてしまう。教師が急に机を叩いたときみたいだ。
「えぇ、まだ続くんですねこれ。んーーーー、あ、じゃあそうだ何か魔法見せてくださいよ。もちろん俺が見たこともないやつ。威力がすごいとかじゃないですよ。あ、あれです、時間旅行とか死者蘇生とか。ほら、かの魔女はできたって語られてるじゃないですか」
ここまで言えばさすがに諦めてくれるはず。誰もできない魔法、時間に干渉し世界に干渉する魔法。誰にもできないというのは存在しないと同義。ここまで魔法の技術が進歩した現在でもここは地球で、物理法則からは何人も抜け出せない。人類、というか物体は光速を破れない。これは魔法も例外じゃない。
というか災厄の魔女がそんなことができたのかは知らない。死者蘇生くらいはギリできててもいいんじゃないかな、とは思っているけど、さすがに数百年も前の話だから尾びれ背びれつきまくって脚色、誇張はされているだろう。
「あぁ! そんなもんでいいのか」
しかしあっさりびっくり。ポン、と手をつきなんでもないように彼女は顔色を変えた。
「というか逆にそんなもんでいいのか? 時間旅行だって数こそ多くはないけれどそこそこできる人はいるはずだぞ? なんてったってこの私が手ずから教えてやったやつらだっている自信作の魔法だったからな。私が死んでから結構時間は経っているんだ、もしかしてさらに改良...なんだ私の顔に何か?」
「い、いえ、何を言っているんですか? できるわけないじゃないですかそんなことが人類に。だってたかだか人類ですよ。過去に戻れるわけないし死んだ人間をよみがえらせられるわけないでしょ? 常識です、よね...?」
俺が信じられない、という顔をすると目の前の彼女も併せて信じられないといった表情になっていく。
しかしその顔を見ていると、同時に俺の鼓動が脈は速くなっていく。まさか本当に? 俺の目の前にあの伝説の? 恐怖と同時に、散々学園で馬鹿にされて育った自己承認欲求がにょきにょきと顔を出す。もしかするとだれも体験することのないものすごい瞬間に立ち会っているのではないか? ついに俺も災厄の魔女の手ほどきで最強になっちゃったり...?!
「そ、そそ、そんな無茶苦茶な魔法...魔法ということも烏滸がましいようなことできるわけないでしょう? そんな物理法則に反するようなこと不可能でしょ?」
「でしょって言われたって、まさかとは思っていたけれどそこまで魔法技術が落ちたのか? あれほど私が師事したって言うのにかい? もしかしてこれこそが私を殺した...」
最後の方はぼそぼそ言っていたから聞き取りづらかったけれど何か思うところがあるようだ。というか話はいいから実際に見せてもらいたい。無意識に体に力が入りこわばっていくのがわかる。心なしか呼吸も荒い。
「って、お話はいいんで早く見せてください。その時間旅行や瞬間移動を」
「悔しい半分期待されてうれしい半分でおかしくなりそう。いいともいいとも! と胸を張って言いたいけれど、実は私全盛期の十分の一以下の力しか扱えないんだ今。ま、待て待て、そんな顔をするな。死者蘇生に似たようなことくらいならできるから、な? それで我慢してくれ」
「...実は嘘なんですね。ちょっとでも信じかけた俺のなけなしの純情を返してください。もう早くお引き取りを」
「しょ、しょうがないだろ! あ! じゃあまずはにそこに転がっている人形を意思疎通できるようにしてやろう。それでどうだ? 定型文だけじゃないぞ! 人間と遜色ないレベルでだ! 形は違うが生命錬成に近いだろう? 見た感じ話すこともできないだろう、あれは!」
...転がっている機械? 疑問に思い彼女の指さす方を見やる。その方向、リビングへ入る扉のところに我が家の
「ちょっとぉ! まさか壊したんですか?! 高かったんですよ!」
俺はベッドから跳ね起きて魔法人形のもとへと駆け寄る。中古品、ではあるが家政婦型だから高かったんだ。故障しては治すを繰り返し多くのお金と時間を費やした大切な我が家の家事担当大臣なのだ。それを壊されてはたまったものじゃない。 俺はたまらず彼女に恨みの視線を向けた。
「おお、そんなに大切なものだったのかそれは。...そんなものが...んんっ、すまんね、ちょっとおじゃまで。でも先にその機械が攻撃してこようとしたんだ。それに別にそんなに責められるようなことはしていないさ、だって別に全壊してないからねそれ」
「へ? 壊れて、ない」
彼女の発言に思わず間抜けな声を出してしまった。部屋が静寂に包まれる。サァァと外の木々が風で揺れる音が聞こえた。気まずい、あんなにらみつけた手前なんて言えばいいか。
「だから落ち着いてくれ? な? 傷つけちゃったことは申し訳ない」
「...す、すいやせんね、取り乱しちゃいやして。少々値が張ったもんで、へへ」
「なんだその、微妙な謝罪は。妙に小ばかにされたような気がする」
そ、そんなわけないじゃないですか、やだなぁ。
それにしても、ただの型落ち魔法人形と意思疎通が可能に? もちろん声帯のような機構はないため声を出せないはずだ。あれか? テレパス系か? いやでもそれじゃこの人形が意思疎通してるかなんてわかんないよな?
まず機械との意思疎通なんてことがあり得るのか、まかり通るのか? おそらくそれはどの時代でも、人々を悩ませ続けてきたはず。この機械、自分のどこに問題起こってるからここ直してくれ~、って言ってくれたらなぁ。もうちょっと何か融通効いてくれたらなぁ。誰しも思ったことがあるはずの問題。会話を行う魔法人形もあるにはあるが、あくまであらかじめ組み込まれた会話をするのみ。
しかしこの人はあくまで妥協案として、簡単にその問題を解決することができるというのか。
「で、ではお願いします。 てかどうやってやるんですか」
「そんなの簡単さ。ほいっとな」
あまりに気の抜けた掛け声と同時に彼女は人形に向けて指を鳴らす。思わずガク、っと拍子抜けしてしまいそうになる。
しかし、次の瞬間、むくりと魔法人形は起き上がった。そして本来なら何もないはずの、人間の口に当たる部分の装甲が突然ガパッ、と開いた。
「家政婦型魔法駆動人形、起動完了。なんなりとお申し付けを」
「......い、いやいやいやいやいや、こわいこわいこわいこわい!! なんで流暢に話し始めてんの?!」
いままで機械音しか発さなかった魔法人形がいきなり人語を話し始めた。それも備わってないはずの口を無理やり作ってまで。
お母さぁーーーーーーーん!!!!!!!!!!! 警察呼んでぇーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
「ありゃ、思ったよりも上出来だな。なかなか捨てたもんじゃないなこの時代の人間の体も。まあそれはいいや。それで、私の話は信じてくれたかい?」
先約シオナリ 未色 @llollt
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