第6話 ルナ

あの言葉を信じてしまった。

会ったばかりの男の言葉を。

ルークさんは"守る"と言ってくれた。

怖かった、何か裏があるんじゃないかって。

でも、その目を見てみるとなんだか本当の意味で守ってくれるような気がして。

つい、縋ってしまったのだ。

誰も信じないと決めたのに。

あの時、信じたから私は、お母さんは…。



雪の降る故郷で私とお母さんは暮らしていた。

お父さんは魔物ですでに亡くなっていると聞いた。

私は魔物と人間の血が混ざった混血種で、受け継いだ力は怪力だった。

それを誰にも見せないようにお母さんに厳命され、私はそれを守っていた。

お友達と遊んだり、森でとれる木の実などの知識のお勉強、お仕事から帰ってくるお母さんの家事を手伝いながら慎ましくも幸せな日々を送っていた。

それを壊したのは私自身だ。

一番仲のいい友達と二人で少し離れた森へ遊びに行った際に、魔物に出会ってしまった。

この地域では魔物の発生は聞いたことがなく、初めての遭遇に半ばパニックになって逃げた。

しかし、魔物の足は速く、回り込まれてしまい、友達へ襲い掛かった。

その際、とっさに魔物の前に出て、思いきり蹴った。

すると魔物はすごい勢いで木に激突し、動かなくなった。

私たちはそれを確認することもなく、すぐさまその場を後にして森から出た。

当然、友達からは色々詰められた。

秘密にして、という約束を交わした後、私は自身の秘密を友達に打ち明けた。

それを聞いて、最初は顔が青ざめていたが、次第に回復し、このことは誰にも言わないと言ってくれた。

嬉しかった。

秘密にしていた部分を打ち明け、受け入れてくれたことで自分自身を本当の意味で受け入れてくれたように感じた。

そうして、友達と別れ、お母さんに魔物が出たことを伝えた。秘密を打ち明けたことはまだ黙っていた。

それを聞いたお母さんは明日確認しましょうと言って、その日は暖かい家の中で眠った。


翌朝、お母さんと森を訪れた。

町へ報告する前に、お母さん自身がその目で魔物を確認したかったらしい。

いくら歩いても昨日の魔物は見えなかったが、魔物が木に激突した際の現場についてしまった。

お母さんはその現場についた液体を木の皮ごとはがし、ポケットに入れつつ私にこう聞いてきた。

淡々と話す口調はいつも怒られる時よりもすごみがあり怖かった。

私が正直に言おうとした時、いつの間にか周りを男たちが取り囲んでいた。

お母さんと私は首輪のようなものを取り付けられた。

突然のことで思考がついていかなかった。

耳には私を呼ぶお母さんの声が聞こえた。

男の一人が、友達が私のことを混血種だと教えてくれたと言ってきた。

それを聞いて、頭が真っ白になった。

友達…混血種…私の秘密を話したんだ。

違います、とお母さんはしきりに叫んでいたが、突然強い光が走った。

気づいたら、お母さんがその場にぐったりとうずくまっていた。

お母さん!と駆け寄ろうとしたが、私にも雷が走った。首輪から電撃が流れている。

男たちは笑いながら、昨日蹴飛ばした魔物を連れてきた。

檻に入れられた魔物は興奮しているようで、誰かれ構わず襲ってきそうだ。

そして、男は言った。

今からこいつに母親を襲わせる、と気色悪い笑みを浮かべた。

男が合図すると、檻の鍵が開けられ、魔物がお母さんに襲い掛かろうとする。

私は魔物の前に出て、昨日と同様にそれを吹っ飛ばした。

昨日の傷が癒えていなかったせいか、魔物はもう動くことはなかった。

それをみていた男たちは歓喜の叫びをあげた。ほんとに混血種だと。

何が嬉しいのだろうか。人をこんな目に合わせておいて。

にたにたと張り付いた笑みが、私とお母さんを地獄へと連れて行った。



馬車に乗せられた私たちはどこかわからないところへ連れていかれるようだ。

お母さんはしきりに、違うんです!混血種じゃありません、と叫んでいた。

それをうざがった見張りに殴られ、ただでさえ少ない食事を抜きにされて、お母さんはみるみる弱っていった。

これ以上はやめようといっても、あなたは守るから、とお母さんはしきりにつぶやいて私を守ろうとした。

そしてある日、お母さんは動かなくなった。最後まで私を守ろうとして。

話さなければよかった。あいつに、私の秘密を。

そうしていたら、今頃はいつも通りに暖かい家でお母さんと過ごせていたんだ。

許さない…許さない…

あいつも、話してしまった自分も。

何か事情があったかもしれない。でも、もう考えても意味はない…。



お母さんが亡くなった夜。

私は最大限の力を込めて首輪を壊した。

警備の隙を狙って外に出て、森へと身を隠した。

途中、空腹感に襲われた場合は周辺の木の実を食べた。

お母さんと勉強したことが生きて、私を助けてくれた。

ただし、あくまでごまかし程度のことで木の実では栄養を多少は取れても空腹までは満たしてはくれなかった。

あの時の魔物を倒した要領で、この森の魔物を何体か倒して解体できないか試してみたが、刃物がなく解体までできなかった。

ならばより大きい魔物をと思って、イノシシ型の魔物を狩ろうとしていた時にルークさんと出会った。

ルークさんは私より強く、混血種であることを見抜いた。

それでも、厄介ごとにしかならない私を家に連れて帰り、住み込みで働かせてくれた。

今はお店と家の中でしか生活していないため、外に出ることはほとんどない。

それでも外を気にしてしまう。

ピーグたちが私を探しているはずだからだ。

普通の奴隷ならもしかしたらあきらめるかもしれないが、大金の出る混血種である私を逃がすとは思えない。

…見つかったら、ルークさんに迷惑をかけてしまうな。

ここ五日間ルークさんと過ごした感想としては、お人好しということだ。

目の前の人に手を差し伸べないと気が済まない人である。

たまに来るお客さんの相談ごとに乗っていたりする。

自分にも厄介ごとが舞い込んでくるのになぜそうなのか。

でも、私はそこに救われている。

ルークさんに拾われなかったら今頃どうなっていただろうか。

野垂れ死んでいたのか、ピーグにつかまっていたのか、それともまだ森の中にいたのか…

どれも悪い方にしか転ぶようにしか思えない。

ピーグの手は今も広がっている。どこかで決着をつけないといけない。

でも、今はもう少しこのままでいたと思っている。

最近、常連さんのおばあさんと仲良くなった。

なぜか毎日薬を買いに来る。本人は毎日の運動も兼ねてということだった。

どうやら、別の町に私と近い年の孫がいるらしく親近感を持っているようだ。

話しやすいこともあって、お客さんが来ない時間はたまにお店で話し込んだりしている。

今後、そのお孫さんを紹介してもらう予定だ。

私がその時までこのお店にいられればいいな…。



「今日は町に出てみようか。薬の材料をいつも買うお店があるんだ。そこの店主に紹介したい」

休暇をもらった翌日。

ルークさんから提案があった。

町に出るということは、ピーグに見つかるかもしれない。

昨日の休暇は、思い切って外に出ようとしたものの、お店の周りを1周しただけですぐ部屋に籠ってしまった。

自分で思っている以上にピーグの影におびえていた。

でも、ルークさんの提案は断れない。

私は承諾すると、お店を閉めて外へ出た。



町は活気だっていて、様々なお店が並んでいる。

前いたユキタと比べると、三倍以上の人だかりだ。少し人酔いしそうである。

「ルナ、大丈夫か」

「はい、ルークさん平気です」

そうは言ったが、人酔いよりもピーグの目を気にしてしまう。

つい視線を左右に走らせ、首元に手を伸ばしてしまう。

噴水がある広場にきた。

「ここは噴水広場、名前の通りなんだけどね。それとあそこに町に関する掲示板があるんだ。アインス町報がある」

そう言って、掲示板に近づいた。

私も内容を読んでみると

「えっ…」

声にならない声が出てきた。驚きの内容がそこにはあった。

『奴隷商ピーグ壊滅・逮捕 人さらいの罪』

内容を見ると、昨日、ピーグの馬車が何者かに襲撃され、馬車は壊滅。

逃げた奴隷たちが憲兵に助けを求めて逮捕に至ったわけだ。

信じられない思いで記事を見る。こんなことがあっていいのか。

周囲の音が消える。

もう私はつかまることを怖がらなくていい。

私を縛り付けていた鎖はもうない。

何かが開けたような気がした。閉じていた未来への足音が聞こえ始める。

「奴隷商なんて来てたのか。怖いね。まぁ逮捕されれば安心だ。そろそろ行くか」

そう言ってルークは踵を返すのが見えた。

私はまだその場に立ったままだ。

「ルナ、どうした」

呼ばれて、はっと気づいてルークさんを見る。

「そろそろいくぞ。これからよろしくって挨拶するんだから」

これから…私には縛られないこれからがある。

そう考えて、私は笑顔でこう言った。

「はい!今行きます」

とりあえずは、挨拶を済ませないと!



-ルナ編 完-


ここまでよんでくださってありがとうございます。

誤字脱字がありましたらご容赦ください。

定期的に読み返して改稿していきます。

面白いと思った人は、『★で称える』をしていただけますと嬉しいです。

もう少し続ける気ではいますのでよろしくお願いいたします。




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