第5話 従業員のトラブルを事前に解決する

アインスの町から少し離れた場所にその馬車の軍団はあった。

ピーグの奴隷馬車だ。

何列もの馬車が連結されている。この中にはピーグがさらった奴隷達がいた。

混血種だけでなく、普通の人間もいる。皆ぼろぼろの服だ。

混血種は法律が適用されないが、人間には適用されている。

つまり、ピーグはリスクのある人間を攫い商品として扱っているのだ。

なぜピーグが奴隷商をしているのか。

高く売れるから、この一点に尽きる。

小さい頃、お金がなくて苦労した彼は、お金の価値を知った。

金があれば許される。金は自分を助けてくれる。

実際、そのお金を使って思い通りのことができていた。

もっと、もっとお金を稼いでやる。

そう思っていた矢先に、絶好のお宝が出てきた。

攫おうとしていた子供が、混血種がいると言ってきた。

最初は逃げるための嘘かと思ったが、その少女の怪力を見た。

魔法で強化しているなら現れる魔力光が全くない。そんな状態であんな怪力は混血種でしかありえない。

あまりにも嬉しくて、情報提供者の少女を逃がした。

生まれて初めて、そういった約束を果たした。

母親もいたので、ついでにさらった。親子セットならきっとより売れるだろう。

だが、母親は途中でくたばった。流石に餌を抑えすぎてしまった。

しかし、混血種単体でも大金が手に入る予定だった。

首輪を壊され逃げられなければ。

必死に探した。

せっかくの大金が、人生で一番の額が逃げていくことには耐えられなかった。

だが、今日、ルナを見つけたという知らせが届いた。

俺はツイている。

聞けば、今ルナは薬屋の店主のところで住み込みで働いているらしい。

あいつは心優しい。

店主を人質にすれば、もう逃げることはないし、お客様のところに行っても従順になるだろう。




そう思い描いていた時だった。

なにやら騒ぎが。

「ピーグさん、大変だ。馬車がつぎつぎ壊されてる!」

その知らせを聞いてあわてて外に出る。

本当だ、後ろの馬車から順に破壊され、逃げ惑う奴隷の姿が見えた。

あそこにはこれから売る予定の奴隷たちがいるし、それにただの人間だ。

憲兵のところに逃げられるとまずい。

いや、待て

「逃げた奴を首輪の電撃で連れ戻せ。捕まっちまう。馬車を破壊している奴は誰なんだ」

「仮面をつけた奴で顔はわからねぇ、しかもそいつは奴隷の首輪を全部壊しているみたいで」

「首輪を壊すだと、生半可な力じゃ壊れねぇ代物だぞ。とにかく連れ戻せ」

ピーグがそう指示すると、他の仲間が逃げた奴隷たちを追っていった。

だが、その謎の仮面が追跡しようとしていた仲間たちを次々とぶっ飛ばしていく。

次第に壊される馬車がピーグのいる馬車へと到達しようとしていた。

ようやく仮面の男の姿が見える。

仮面に黒のローブだ。男か女かすらわからない。

「なんだお前は、売った奴隷たちの身内かなんかか」

「……」

謎の仮面は何も答えない。

報告にきた男が仮面に立ち向かったがあえなく、その腕をつかまれ馬車の残骸に叩き込まれてしまった。

顔と片腕はかろうじて見えているが、もう戦えまい。

「お前のせいでこっちは破滅だ、どうしてくれる」

怒りながら仮面と距離を詰めていく。

ひとまず、理由はわからないがこの仮面は自分と敵対している。

しかもうちの仲間を何人も倒し、堅牢な馬車を破壊するほどの強さはある。

どれほどの強さかは知らないが、この距離ならもういける。

「そらよ」

「……」

持っていた奴隷用の首輪を相手に投げる。

この首輪は特注で作らせた高級品だ。

相手と一定の距離で使えば内蔵された魔法が発動して自動で相手の首に装着され、電撃を浴びせる。

その後は、俺が許可したものが好きな時に電撃を浴びせることができるという代物だ。

当然耐久力はそこらの者とは違う。

並みの人間はともかく多少強化した魔法師レベルなら簡単に拘束できる。

まぁ、その頑丈さは仮面には効かないみたいだが。

今頼りになるのは、気絶させるほどの電撃だ。気絶させてガチガチに縛って、新しい用心棒にしよう。

だが、そんな思惑は外れることとなった。

「なんだと…」

仮面の首にはまって電撃が流れた。が。

苦しむどころか身じろぎ一つしない。

むしろこちらに近づいてきている。

「来るな…!金ならやる!ありったけ全部だ。どうだこれで文句ないだろ!」

本能的な恐怖からその言葉がでていた。

それでも仮面の男はとまらない。

ピーグのヒーローは金だ。その金で幾重もの困難を乗り越えてきた。

だが、今はその金がなんの役にも立たない。

終わる。

そう思った時だ。

仮面が目の前に立っている。

電撃の光は未だに走っている。

腕をつかまれた。

そのままふわっと浮かせられ、地面に猛烈な勢いでたたきつけられる。

突然の痛みに思考が追い付かない。

それを数度繰り返し、最後には顔面に拳が近づいたのがみえて、花火が散った。



ピーグの意識は完全に途切れた。

仮面を外すことはしないまま、俺は未だに電撃を放っている首輪を力で破壊した。

電撃は体を強化していれば多少気になるくらいだった。

ピーグとその仲間たちを確認する。

もう動けるものはいなさそうだ。

残りの馬車を破壊する。馬車ごとに何人かの奴隷たちがいた。

それらも解放する。解放する際に、町の場所と、憲兵にこの場所と自分の状況を話すように伝えた。

解放した奴隷は大体20人ほど、全員に伝えているからみんなそこに駆け込んでいるはずだ。

そうすれば憲兵によって保護してもらえる。

馬車はすべて壊し終えて、ピーグたちもまとめて縄で縛った。

これでこいつも終わるだろう。

最悪の未来はひとまず回避できたはずだ。

明日の営業で誰かにスキルを使って未来を確認しよう。

ピーグの未来は先ほど腕を掴んだ時に視えていた。

その大半は牢屋の中で終わっている。

ルナはここ数日しきりに外を気にしていたりしたから気が気ではなかったはずだ。

表面上は取り繕っていても要所要所の細かい所作でわかってしまう。

あの子が安心して過ごせるようにしなければ。何があっても守る!

改めてそう決意して、念のため憲兵が来るまで俺は縛られたピーグたちを監視した。





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