カクヨムを始めたきっかけはなんですか?

ぴよぴよ

第1話 カクヨムを始めたきっかけはなんですか?

私は天才だ。

子供の頃そう思っていた。


勉強では先生に怒られてばかり、運動できずみんなに怒られてばかり。怠け者で、寝ることと食べることが大好き。そんな私だが。


文章を書くことに関してはずば抜けていると、自負していた。


読書感想文やら絵日記やら。書かせればすぐに選ばれ、全校の前で読み上げられる。

国語は常に満点。幼稚園の頃から作品を連載して、いろんな人に見てもらっていた。

いろんな人に面白いと言われ、子供の頃は友達のためにいろんな作品を書いた。

中学生の時は官能小説とファンタジーを連載しており、読者が複数いた。


「こりゃあ、将来は有名な作家になるかもしれないぞ」担任の先生に褒められ、私はますます調子に乗った。

私は天才なのだ。今に日本の文学界を揺るがすとんでもない作家になるに違いない。


私が天才なことを、いろんな人間に知らしめなくては。

子供の頃から、自分の作品を文学賞やコンテストに出しまくった。選ばれなくても、私を選ばない審査員が悪いと思って、とにかく出しまくった。

なんて調子に乗った子供なのだろう。しかしこの時は、本当に自分が天才であると信じていた。


ある日のこと。とある雑誌に私の名前が載った。それは全国的に超有名な少年漫画だった。「原作部門」というストーリーを考える部門で、私は選ばれたのだ。

大賞ではなかったので特に賞とかデビューとかはなかった。

しかしこの出来事ですっかり私は天狗になった。


何を思ったのか、私はいくつかストーリーを書いて、東京にある出版社に乗り込んだ。

持ち込みというのをやってみたのだ。

この時は漫画を描いていたので、漫画のネームを持ち込んだ。

私は天才なのだ。だから今すぐ連載されるに決まっている。

普通、ネームの持ち込みなんて緊張するだろうが、私は自信満々だった。


編集部の人がすぐに会ってくれ、私の作品をパラパラと見た。

そして「面白い」と言って、机をバンバン叩いて笑い始めた。


ほら見たことか。私は天才なのだ。何人もプロを相手にしている編集者を笑わせることができるのだから。

私がドヤ顔で腕を組んでいると、編集部の人は

「面白いですね。ギャグのセンスがかなりある」と言って私を褒めた。

しかし「連載できるような作品ではありません」とすぐに言った。


一気に地獄に叩き落とされるとはこのことだ。今すぐ雑誌に載ると思っていた私は慌てた。

「何がダメなんですか?私の作品は面白いんでしょう!?」

バンっと束になった作品を机に置いて、私は抗議した。今、笑っていたではないか。

何がそんなにダメだったのだろうか。意味がわからない。

「絵がちょっと・・」と編集の人は困ったように言った。

なるほど。絵が下手なのか。それなら原作でも良い。良いから早く私を作家にしてくれ。

「絵がダメなら原作になります。なんでもします。ギャグもシリアスも描けます」

私が早口で言いまくると、「そうではなくて・・」と彼は言った。


「あなたは確かに面白いし、才能もあります。漫画の原作者になれますように、私も応援してします。きっといつか選ばれますよ」

それは拒絶の言葉だった。

本当に面白くて才能があるなら、今すぐ作家になれないとおかしいではないか。

ここで選ばれないってことは。私は必要ないということ。それ以外にない。

「何がダメなんですか?」食い下がる私に

彼は「ダメってことはないんです。うちのカラーに合わないだけで。ものすごく面白かったですよ」と言って原稿を返してきた。


ダメな理由も教えてくれないのか。私はショックのあまり、呆然とした。

その他にも3社ほど巡ってみたが、どこも「面白いけど、雑誌には載せられない」という返答だった。


私は絶望した。ずっと自分のことを天才だと信じてきたのに。こんなことになるなんて。それに面白いけど載せられないってなんだ。結局それって私の作品をどこも必要としていないってことじゃないのか。


絶望したまま家に帰った。机に突っ伏して大声で泣いた。

子供の頃からずっと夢見ていたのに。作家になれなかった。私はすぐにでも作家にならないといけないのに。


母が「編集部の人を笑わせたなんてすごいじゃない。あんたは間違いなく天才だよ」と言って私を慰めたが、それで私の悲しみは拭いきれなかった。


しかしどんなに苦しくても、辛くても、選ばれなくても。私の文章を書きたい、作品を書きたいという気持ちは消えなかった。

あらゆるコンテストに応募した。大きなコンテストから、地方の自治体がやっているようなコンテストにも出した。エッセイでもファンタジーでも恋愛ものでも書きまくった。


ある時、某新聞に私のエッセイが載った。

編集部から「テンポも表現力もずば抜けている。思わず何度も読んでしまう。非常に魅力的な文章だ」と評価をいただいた。


しかしまだ足りない。私は作家にならないといけないのだ。そんな評価で喜んでいるようじゃあまだまだだ。


私の言葉が本になって、いろんな人の心に届いたらどんなに素敵だろう。


子供の頃から感じてきた孤独感や、人として生きることの恐怖。生まれてきて感じた絶望や怒り。そして生きている喜び。それを人と共有するには、作品を届けるしかない。

私の作品が声になり、言葉が人の心に届けば、私は一人ではなくなるのだ。


孤独になりたくなくて作品を書いている。

空想の世界や執筆は、私にとって希望だった。恐ろしい現実から逃れ、人と繋がるツールだった。


どんなに賞を取れなくても、私は書き続けた。


ある日、とある団体がエッセイの募集をいるのを見た。大賞を取った作家には、ライターインレジデンス権がもらえるという、非常に魅力的なものだった。

ライターインレジデンスとは、作家をサポートするシステムのことで、書く環境を提供してくれて、そこで執筆を行えるという、まさに環境を欲しがっていた私にとって、

夢のような賞だった。


私はものすごい勢いで執筆した。何本も出していいと言われていたので、とにかく書きまくった。

持てる力を全て出し切り、賞に出した。


しかし結果。一次は通過したものの、大賞には届かなかった。


私は脱力した。


どんなに頑張っても、どんなに書いても、私の世界は人には届かないのだろうか。

私が命をかけて書いた作品は、誰も必要としていないのだろうか。


ちょうどその頃、就職した。職場環境が合わずに、うつ病になった。

あっという間に心が壊れた。

心が壊れると、作品が書けなくなった。あんなに輝いていた世界は曇り、目の前には何も見えなくなった。


死のうと私は思った。作品を書けるからここまで生きてきた。作品が書けない自分なんていらない。病は私の希望を打ち砕いて、心を殺した。


うつ病になってから、全く話が思いつかなくなった。

私は何度も自殺しようとした。色のない世界に用はない。こんなに酷い世界に産み落とされて、足掻きながら生きてきた。世界を色付けるのは、自分の作品しかなかったのに。


医師に「今はゆっくり休むときだ」と言われた。

「あなたの執筆の力は消えたわけじゃない。今は心身ともに疲れ果てて眠っているだけ。病気が良くなれば、また書きたくなるよ」


作品を書かずに、何ヶ月も無駄に過ごした。物語が思いつかない世界は退屈で、今すぐ消えたいと何度も思った。

そんな感じで月日は流れていった。


ある時数少ない友人に「インターネットに投稿してみたら?」と言われた。

でも私は物語が書けないのだ。何を投稿すれば良いのだろう。

何も言えずにいると、友人は

「今までの体験とか子供の頃思ったこととか、投稿したらいいよ。物語が思いつかなくても、過去の自分が見たことや経験したことなら書けるはず。まずはリハビリだと思って、エッセイを投稿してみたら?物語はそのうち書けるようになるよ」と私を励ました。

そして「カクヨム」という投稿サイトを教えてくれた。


試しに一本エッセイを書いてみた。

誰も見てくれないと思うが、もしかしたら誰か見てくれるかもしれない。


ざっと短編のエッセイを書いて投稿した。


すると思った以上に反応があった。「面白い」と言ってくれる人が何人もいた。


私の声を聞いてくれる人が何人もいる。私は嬉しくて、エッセイを書きまくった。

昔の感覚が戻ってきたような気がした。


しばらく書いていると、だんだん物語を書いていた頃を思い出してきた。

自分が書くために生まれてきたことを思い出した。

この感覚をずっと待っていた。


ある時、曇っていた目に突然映像が浮かんだ。物語が降りてきた。

私は驚いて、すぐにプロットを書いた。短い物語だったが、私に書けと言ってくれている。ずっと戻ってきてくれるのを待っていた。


皆さんのカクヨムを始めたきっかけはなんだろうか。


私はいろんな人に作品を届けたいと思ったところから始まった。私の作品を読んでくれることで、私はその人の心に遊びに行ける。孤独ではなくなる。

それってとても尊いことではなかろうか。


そして私の作品を読んでくださった皆さん。

私は本当にいつも感謝の気持ちでいっぱいだ。どうか私を心の中に入れてくれたことを、忘れないでいてほしい。

もし忘れてしまったとしても、皆さんに遊びにいけた私は、皆さんの心にこれからも寄り添い続ける。あなたの人生の時間に、少しお邪魔できたことに感謝を。


ちなみにこんな大真面目なことを書いているが、私の本質は笑いだと思っている。

いつもはズッコケエッセイを書いているので、そちらにもぜひ遊びに来て欲しい。

これからはもしかすると、大真面目なことも書くかもしれない。

来てくれたら、私はいつでも大歓迎だ。


ちなみに昔ほどではないが、私は自分のことを天才だと信じている。

自分が自分を信じなくなったら終わりだからだ。

いつか作家になれることを信じている。

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