魔術にしか興味がない私、セフレが王様だったけどどうでもいい
桜雨実世
第1話
その人といつも一緒に寝ると、その人はすべてを私に委ね、私の下にいる。
いつも声がでかいから、隣の人に苦情を言われたらどうしようと思ったんだけど、両隣も上の階にもそういえば住人がいなかった。
このアパートの土地を買いたいヤクザのいやがらせによって、住人たちは出ていったんだった。
そして、夜明け前に家を出る。
恋人ではない。
なんだ?
セフレというやつだろうか。
まあ、いいんだけどさ。
ある夜出会って、そのままダラダラと一年近く続いている。
私?
一介の貧乏魔術師よ。
だから、ヤクザから嫌がらせされても出ていけなくて……。
ある日、私が投稿した論文が王宮の目に止まり、城へと呼ばれた。
謁見の間では、王様が座ると思われる席にセフレが座っていた。
お前、王様やったんかい。
王様も私を見て、驚いた表情をしているが、すぐに真顔に戻った。
それから、威厳に満ちた声で言った。
「そなたの論文は素晴らしい!ぜひ城に勤め、さらに研究に励むがいい」
「お断りいたします。遠い外国に行くことが今朝決まったのです」
城務めってあれでしょ?通勤退勤時間決まってんでしょ?ごめん、それ無理だわ。
しかも、平日ずっと通うんでしょ。ごめんごめん、無理無理。
それに、人間関係って面倒じゃん。
平日は毎日風呂入らなきゃいけなくなるじゃん。
全部無理だって。
借金して、外国に飛ぼう。遠くまで行っちゃえば、借金取りこないでしょ。完璧すぎる。
王は言った。
「そうか。ならば、仕方がない。今日は帰るが良い」
あーざした。
私は立ち上がって、頭を掻きながら謁見の間を出て、自分の家へと戻った。
財布の中を見たら、コインが1枚。これでは何も買えない。
こういう時は知り合いが経営するキャバクラで、稼ぐのが手っ取り早い。
あと、客に飯奢らせることできるし。
時々、こうやって金を稼いでる。
やつともそこで会ったのよね。
あとは手堅くポーション作って売ってたこともあった。酒欲しかったから、作るための道具売った。酒を飲んだ後に、ポーションが作れないってことに気づいた。
だから、今は薬草集めてそれを売ったりとかもしてる。時々。
私はキャバクラに行こうとしたんだけど、ふと、
「魔術を圧縮して、打ち出すレーザー砲……。圧縮理論完璧そう!うわ、めっちゃかっこいい兵器思いついた!」
私は紙に設計図と計算式を書こうとしたんだけど、紙がなかったから壁に書いた。
これが完成すれば、一発で千の人間をほふれる。
借金しまくってから、これブッパすれば返済しなくて良くなるじゃん!よっしゃ!
どんどん書き進めるぞ!
材料買うために、借金しないと!
私は途中で腹が空きすぎて、動けなくなってとりあえず眠った。
目が覚めると、セフレがいた。昼に見たのとツラが同じだな?何を昼に見たんだっけ?それより設計図だわ。
私は微笑みながら、キャバ嬢モードになる。
こいつとの初対面がキャバだったからさ、演じてあげたほうがいいかなって思ってさ。
「あら、いらっしゃい。お久しぶり、元気してた?」
「……いや、昼に会ったと思うんだ」
「あら。そうだったかしら」
「君って、魔術と金以外のことは本当に何も記憶に残らないな」
「そんなことないよ。私、今日は……。何したっけ?その前にお腹空いちゃった。近くのお店から何か買いましょうよ」
私たち二人は近くの店に、飯を買いに行った。
私は店に入って一番最初に目に入った飴を手に取った。食料ゲット!
セフレは言った。
「もっと栄養あるもののほうがいいんじゃないかな?」
「栄養?」
「いいよ、僕が選んであげるよ」
「グルメよねー」
「グルメって言うより最低保証じゃないかな?健康は食からだよ。それより昨日は何食べたの?」
私はなんとか思い出す。食べ物の記憶ほどどうでもいいものもないから、苦労した。
「床に落ちてたなんかよくわかんない緑色の紐!甘い匂いしてたから食べれた!」
「それ紐の形のグミだね。数日前に君がきっと買ったんだね」
「そうなのかな?」
「それだけ?」
「うん」
セフレは溜め息を吐いた。グルメだから、食へのこだわりすごいのよ。
唐揚げばっかり食べちゃ駄目とか緑の草も食べなきゃ駄目だよとか。グルメがすぎる。
金は全部セフレが出した。
私、金持ってないから。
家に戻ってからセフレは壁の落書きを見て、
「何を書いたんだい?」
「魔力を圧縮して打ち出す兵器の設計図と理論。千人程度の人間をあの世送りにできそうな感じかしら!明日、材料を買いに行くの」
「へー」セフレの顔がひきつった。
「完成したら、借金取りを屠って、設計図と残った試作機を売っぱらって、外国のカジノに行く予定!しばらくあなたとは会えなくなるわ」
「……材料、言ってくれたら用意するけど?」
「本当!?」
「ただし、ここじゃなくて、違う場所で続きをやってもらうことになるけど」
「え、通いは面倒」
「住み込みになるよ」
渋る私にセフレは優しく言った。
「遠い場所?山奥とかちょっと。時々、キャバで金稼げなきゃいけないし」
「大丈夫だよ。金のことはもう心配しないでいい」
「それと、朝起きる時間とか決められるのとか面倒。好きな時間に起きて、好きなもの食べたい」
「うん。それでいいよ。だから、ちょっとエッチしたあと、一緒にもう行こう。君がやってることがヤクザとか外国とかにバレたら、きっと大変なことになる」
「アハハ。なんか用心深いね」
翌日、私は城みたいな建物の一角にある区画にいた。
連れこられたのがここだったから。
それで、セフレの言う通り、本当に来たんだよ、材料が。
それからは寝る間も惜しんで魔力圧縮レーザー砲を作り続けた。
完成した。
早速起動だ!
私は壁に向かって、起動させようとしたが、起動しなかった。
「魔力不足か……」
私はこの事をセフレに言うと、セフレはホッとしたように、
「良かった!城が壊れずに、人が死なずに済んだ!」
「殺すための道具だよ?」
「そうだね!でも、時と場合があるんだよ!威力と成功さえ確かめることができたら、誰も死ななくていいんだよ。というか、確かめるだけで死んだら困るんだよ!」
「そうなんだ」
「じゃあ、終わったから、ご飯でも食べようか」
「ご飯?お腹空いてないけど」
「でも、食べるものなんだよ。5日も食べてないんだから」
ここで暮らし始めてから、そこそこ経った気がする。
ここがどこなのかよくわからないけれど、いつも部屋きれいだし、本当に飯すぐでてくるし、わかったホテルなんだ。ここ。
やっぱ、私のセフレ、金持ってるわー。
私はやりたいことがなかったから、ベッドの上でダラダラと過ごしながら、ポテチを食べていた。
そうしたら、掃除係の女の人が来て、
「ねえ、王様って独身なのよ」
「ふーん」
「愛人でもいいから、王様の女になれないかしら」
私はあくびをして眠ることにした。
夜にセフレがやって来て、
「ここでの暮らしはどうかな?」
「いいわよ。何もしなくてもご飯出てくるし。ポテチ買いに行ってくるって言ったら、ポテチ出てきたし」
「そっか。実はさ、この国の王様は独身なんだ。知ってた?」
「知らない」
私はキャバスマイルで答えた。
金づるだからさ、愛想は良くしておかないと。
セフレは話を続けた。
「実はさ、過去に二回結婚していたんだ」
「そうなんだー。粗チンすぎて離婚になったの?」
「違うよ。王様はさ、ある占い師に言われたんだよ。お前と結婚した女の家は没落するって。でもさ、そんなの嘘だろって思って、政略結婚したんだ。一回目の妻の家は他国に滅ぼされたよ。二回目の妻の家は他家に乗っ取られたよ。それから、他国は王様と結婚したがらなくなったんだ。妻は僕を恨んで離婚したよ」
「かわいそー」
話し、途中から聞いてなかったけど、セフレの顔から、適当な相槌をチョイスする。
「でもさ、君と一緒にいれるからいいやって思うんだ」
「私、王様といた事ないよ。顔も見たことない」
「あ、……そうかな……。呼ばれたことない?王様に」
「ないよ!だって、私、単なる庶民だし!」
「……。君は親もいない天涯孤独の身で、底辺じみた生活していた君は没落のしようがないからさ……」
「やだあ。私、底辺でもないし没落もしてないよー!」
「うん、そうだね。でもさ、家賃払えなかったり、公園の水道水飲んだり体洗ったりするのはもう一般的に底辺なんだよ」
「そうなんだー」
そんなの普通だって。公園の水使えば、節約になるし。
セフレは拳を握りしめ、固い表情で、
「実はさ、俺が王様なんだ」
「アハハ。寝言は寝ていえ、バーカ!」
セフレも笑って、
「そ、そうだね。そろそろエッチしようか」
「いいよ」
おっぱじめる前に、ベッドの上で裸で仰向けになったセフレが言った。
「あのさ」
「うん」
「ずっと俺以外の彼氏作らないでよ?」
「え、なんで?」
「だって、俺、お前のこと好きだから」
「そっか。私は魔術のほうが好きだよ」
「知ってる」
「ずっとずーっと魔術のことだけやってたい」
「いいよ。で、時々、エッチしよ」
「それはいいよ」
数年間この生活を続けていたらさ、ホテルの人達は私のこと、天才魔術師様とかいい出すようになってた。
あと、研究の成果で、なんかよくわかんない賞を色々と受賞したりして、色々な場所に呼ばれるようになって忙しくなった。
セフレは、国で一番栄誉ある魔術の賞だよって説明してくれる。ものしりなんだよね。
それで、なんか妊娠しちゃった。あ、セフレの子ね。
せっかくだから、産んでみたら女の子だったんだよね。
セフレが泣いて喜んでるよ。
「僕に顔似てる」
「そう?可愛いけど、単なる猿に見える。これから、人間っぽくなるなろうけれど」
魔術実験が終了を告げるチャイムが鳴った。
「あ、私戻る」
「うんうん。僕がちゃんと育てるから、研究頑張るんだよ。あとで、迎えに行くから」
セフレがさ、ご飯食べてる時、
「僕、立場上さ、結婚も認知もできないけど、君も子どもも絶対幸せにするから」
「いいよ。そこまで責任感じなくてもさー。父親いなくてもちゃんと育つ子どもたくさんいるしー」
セフレは私を抱きしめた。
「だって、君がいて、子どももいて、幸せなんだもん」
私のセフレって大げさなんだよね。
魔術にしか興味がない私、セフレが王様だったけどどうでもいい 桜雨実世 @aisaka-you
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