【短編/1話完結】吾輩は卵である

茉莉多 真遊人

本編

 吾輩は卵である。


 名前はまだない。


 当たり前だ。


 生まれていないのだから。


 とはいえ、なんでか意識はあるので、ちょっとパロってみた。


 そう、私はなんやかんやいろいろとあって、異世界に転生することになり、転生ボーナスで最強の存在として生まれるになったからか、卵だけど意識がある。


 まあ、卵生の時点で人間を辞めていることになるわけだが、鳥人や竜人みたいな亜人種、人型であることに期待したい。


 あと、かっこいいとなお良いし、女の子にモテモテでハーレムを作れるとなお良い。


 最強しか確約してもらえなかったので一抹の不安があるものの、そこは異世界転生あるあるなご都合主義のお約束ということでそうあってほしい。


 しかし、不思議なものだ。


 卵であることは自然と分かったのだが、厚い殻に覆われていて光も通さないから真っ暗闇で外のことなど微塵も分からない。


 ただ、たいていは温かいため、母親の温もりの中にいるのではないかと思っている。たまに母親が座り直すのか、冷たい風が殻を撫でてくるのはご愛嬌だろう。


 しかし、どれくらいの時が経っただろうか。無限にも感じる時間の中で誕生の時を待っている。


 生まれた瞬間に最強というのはどういう感覚なのだろうか。


 無敵で、力に満ち溢れているのか。


 そういえば、どうして最強なんだろうか。


 戦うことがあるのだろうか。


 極力、戦いは避けたい。


 流行りのスローライフを満喫したい。


 なんやかんやでいろいろあって、異世界に転生することになったのだから、それくらいのご褒美は欲しいものだ。


 ん……何やら外が騒がしい。


 急に殻の周りから温もりが消えた。


 母親がいなくなった?


 そう感じた次の瞬間に、殻が砕かれた。


 ようやく光を得た。


 しかし、最初に見た光景は何かの歯だった。


 そして、最初に見た光景が最期に見た光景でもあった。


 吾輩は卵である。


 力はまだない。


 当たり前だ。


 生まれてないのだから。




 しばらくすると、再び意識が戻ってきた。


 だが、何やらおかしい。


 どうやらまた卵のようだ。


 残念だ。


 どうせなら人間にしてほしかった。


 しかも、光があって、温もりはなくて、周りには私と似たような卵がたくさんある。


 水辺?


 なるほど。


 吾輩は卵である。


 それもどうやらカエルの卵のようである。


 最強のカエル……かあ……。


 いや、待て、最強という確約はまだ残っているのだろうか。


 などと思っていると、どうも私たちを狙っているような虫が近寄ってくる。


 ……生まれるまでまだまだ先が長そうだな。

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