朝目覚めたら、俺の顔が卵だった件について
満月 花
第1話
爽やかな朝。
いつものように目覚め、洗面台の鏡の前で寝癖チェック。
それがいつもの日課。
でも、寝癖チェックしたくてもできない。
今日、俺の頭に髪が無い。
そもそも卵に毛が生えてるわけない。
……というか、俺の顔
「なんで、卵!!!!!」
白い卵がちょこんと俺の首の上にある。
場所的にも顔のはず。
え、俺まだ寝てる?寝ぼけてる?
そうだよな、朝起きたら自分の顔が卵なんてありえない。
夢か、夢だよな。
乾いた笑いがもれる。
鏡の中の卵も小さく揺れていた。
「ちょっと、お兄ちゃん邪魔」
妹が俺を押し退けようとする。
「いくら見たって、その寝ぼけた顔がイケメンにならないから」
妹がヘアアイロンで髪を整えようとする。
「……寝ぼけた顔に見えるのか」
妹が片眉をひょいと上げる。
「うん、いつもの寝ぼけ顔」
……そうか、俺の顔はいつも通りなのか。
俺には卵に見えるんだけど。
母親に声をかけられ朝食を取る。
目の前には、ベーコンエッグトースト。
食べれるのか?俺、卵だけど。
っていうかベーコンエッグって共食いっぽいんだけど。
「早く食べちゃいなさい、遅れるわよ」
母親の言葉に、とりあえず、トーストを口のあたりに持っていく。
シャクシャクと小気味良い音がした。
いつもの様にベーコンエッグトーストの風味が口の中に広がった。
横目で、ガラス戸に映った自分を見る。
食べる度に、卵の殻の前で消えていくトースト。
シュール過ぎて笑えない。
俯いたまま、完食をした。
学生鞄を持って家を出る。
本当は休みたかった。
でも、顔が卵になったから休みたいなんて言えるわけがない。
だって妹も両親も、なんの違和感もなく俺に接している。
という事は、俺以外はいつもの俺の顔ということになる。
でもどう見ても俺の顔、卵なんだけどなぁ。
手で触っても、ちょっとざらつき感がある卵そのもの。
この卵、生卵なのか、茹で卵なのか?
軽く頭を振ると中で揺れる気もする。
生卵なら気をつけないと。
割れて中身が出たら大変だ。
意識すると歩みも慎重になる。
転んだら、何かにぶつかったら、叩かれたら……。
無事に学校に着いた。
でも、授業中でも休み時間でも気が気じゃない。
思えば、顔って無防備だよな。
服着てるわけでも、靴履いてるわけでもないし。
剥き出しだ。
無意識に頭を抱える仕草をしてしまう。
クラスメートがそんな不自然な俺に声をかけて来る。
みんな、やっぱり俺の顔に違和感ないんだな。
でも、学校の鏡に映る俺の顔はやっぱり卵なんだ。
早く、授業終わってくれ、速攻で家に帰りたい。
布団をすっぽり頭から被って卵を守りたい。
もう、部屋から出たくない。
何とか午前中は無事に過ごした。
昼ごはんにも手を付けない俺に、友達が心配そうに気遣ってくれるが
中途半端な言葉で誤魔化す事しか出来ない。
やばい、今日、午後から体育があるじゃないか、それも球技なはず!
出来る気がしない。
割れそうな不安しかない。
「先生、俺腹痛いです!」
マジで胃の辺りが痛くなった。
保健室に行くと、養護教員が俺の顔を見るなり、心配そうに声を掛ける。
「大丈夫?すごい顔色悪いわよ」
「……顔色悪いですか?」
「ええ、なんか青白いっぽい」
そりゃ、白い卵だし。
ベッドに横になる事を勧められ、ホッとする。
保健室の白を基調とした雰囲気に安堵する。
カーテンを閉められ、俺はベッドに潜り込んだ。
枕が卵に心地良い。
これからどうなるんだろう。
俺一生卵顔のままなのか?
そもそも、なんで俺だけが卵に見えるんだろう。
いくら考えても答えが出ない。
風呂に入ったらゆで卵になるのかなぁ、馬鹿な事を考えてると眠くなってきた。
連絡を受けた母親が車で迎えに来てくれた。
元気なく黙り込んで助手席に座る俺に、母親が病院に行くかと聞かれたが、
部屋で寝たら治るからと断った。
夕飯も断った。
食欲が全然わかない、また卵料理が出て来るかもしれないし。
ベッドに横たわると、手で顔を覆った。
ずっと卵顔なら、これからヘルメット被った方がいいのかな。
というか、卵って賞味期限あるよな、腐ったらどうしよう。
布団の中で溜め息が止まらなかった。
スマホのアラームが軽快な音を鳴らす。
悶々とベッドで眠れぬ夜を過ごしてたがいつのまにか眠っていたらしい。
のっそりと起き上がるといつもの癖で頭を掻く仕草をする。
昨日風呂入らないで寝たから、髪がゴワゴワだ。
髪?、髪がある!
俺は慌ててスマホのミラーで確認する。
いつもの、俺の顔が映っている。
見慣れた、俺の顔。
戻ってる!
安堵に深く息を吐いた。
よかった、本当に。
ちょっと涙が出た。
あれは何だったのだろうか、現実だったのか、夢だったのか。
不思議な1日だったな。
さて、いつものように起きるか
勢いをつけて身体を起こす。
妹が使う前に洗面台に行かないと、あいつ使い出すと長いんだよな。
すると、妹の部屋から悲鳴が聞こえた。
「なんで、豆腐なのーー!!!」
……ドンマイ、豆腐は卵と違って崩れやすそうだから頑張れ。
俺は妹の部屋の前を通り過ぎて、軽快な足取りで階段を降りて行った。
朝目覚めたら、俺の顔が卵だった件について 満月 花 @aoihanastory
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