失恋チャレンジ
三愛紫月
チャレンジ
「本当に俺の子?」
安っぽいメロドラマにありがちな台詞を私も吐かれる日がくるなんて思いもしなかった。
しかも、この歳になってだ。
「そうだよ」
「嘘だ。信じられないよ」
「何言ってんの?」
「駅前のホテルのロビーで、男といただろ?」
「あれは、商談相手と話してただけで。二人じゃなかったし。あの後、上司が来て」
「はいはい、嘘うそ」
「陽ちゃん」
「別れようか?」
お決まりの台詞を言われた。
何、それ。
「わかった」
それ以上は、言いたくなかった。
だって。
だって。
これは……。
嘘だから。
「あんたのせいだからね」
『ほら、言ったでしょ?彼は、あんたを本気で愛してないって』
「ふざけないでよ!私、もうすぐ30だよ。10代のあんたと一緒にしないでよ」
『何言ってんのよ、同じよ。結婚したいなら、同じ』
私の失恋を一緒に悲しんでくれるわけでもなく。
むしろ、誇らしげに笑っているのは、親友の
神子は、高校を卒業してすぐに亡くなった。
死因は、自殺。
って、事になっているらしい。
『犯人探し、手伝ってくれるんでしょ?』
「私が、結婚できたらね」
『それじゃあ、いつまで経っても無理じゃない』
「それって、私が結婚できない前提で話してるでしょ」
本人は、誰かに殺されたと思っているようだ。
だから、犯人探しを手伝えというのだけれど。
私だって、そんなに暇ではない。
犯人探しに時間を費やすことを考えると、専業主婦になることだと考えたのだ。
理由は、母を見ていたから。
母は、私一人しか子供がいなかったから、自分の時間をたくさん使えたことをいつも喜んでいた。
だから、私も犯人探しに時間を使えるかと思ったのだ。
それで、私が結婚相手を見つけて、付き合って一年以内には、失恋チャレンジを実行する流れをもう10年もやっている。
「そもそも、本当にこんなんで未来の旦那が見つかるのかな」
『大丈夫よ、失恋チャレンジは絶対なのだから』
「絶対って……」
19歳で亡くなった神子にとっては、確かに絶対なのだろう。
いや、もしかして絶対なのかな?
失恋チャレンジとは、私達が高校生だった時に流行ったものだ。
早く結婚したい。そのために、どうする?と考えた女子達がやったもの。
このチャレンジが成功して、結婚した人もいるし。
失敗して、別れた人もいる。
まあ、若い頃は別れた人の割合の方が圧倒的に多いのだ。
それもそうだ。
結婚なんかより、遊びたいが先なのだから。
だからこそ、失恋チャレンジは必要だった。
早く結婚して、ママになりたい!
そう考えている女の子にとって、必要なものだから。
だけど。
このチャレンジが、この歳でもまだ使えるなんてって思ったけれど。
私ぐらいの年齢になると、不倫って奴がついてくる。
不倫相手は、もちろん結婚なんてできないわけだから。
『もう、手っ取り早くマッチングアプリか結婚相談所に行くってのもありかな?』
「いや、それだとあれは使えないよ」
『確かに。結婚詐欺もあるし。既婚者が参加してる可能性もあるね』
「よく知ってるね」
『死んでも勉強は大切だからね』
私がWi-Fiに繋げたスマホを見せながら、神子は笑う。
神子を殺害した犯人を探すためにも、結婚相手を見つけなければ。
だけど、正直。
恋愛という過程を経験するのも大変というかめんどくさいというか。
まあ、でも。
頑張るしかないか!
私は、また新しい恋を探すことに決めた。
ーー1年後
『それじゃあ、いい』
「わかってる」
『失恋チャレンジの成功を祈ってる』
「頑張る」
31歳になったのだから、大丈夫だ。
次は、絶対成功する。
あっ、そうだった。
失恋チャレンジのやり方を予習しとかなきゃ!
私は、彼を待ちながら。
目を閉じて。
あの頃を思い出す。
同級生の望月かれんが、二年付き合っている彼と結婚したいからどうしたらいいって聞いてきた日。
あの日、失恋チャレンジを教えてくれたのは一つ上の先輩だった。
「いい。これから話すことをよく聞いてね」
「はい」
「まず、彼と他愛もない話をします」
「はい」
「15分ぐらい経った頃に、いったんトイレに行きます」
「はい」
「それから、5分はトイレにこもったまま」
「はい」
「そして、戻ってきたら深刻そうな表情でこう言うのよ……私、出来ちゃったみたいって」
先輩の深刻そうな表情を見ながら、唾をごくりと飲み込む。
「相手から、本当に俺の子?と聞かれたらチャレンジ失敗。もしも、かれんちゃんを心から愛しているなら、どうすればいいか考えたり、手放しで喜んでくれるもの。わかった?」
「はい」
「かれんちゃんじゃなく、みんなもやってみてね」
「はい」
「あの、先輩。チャレンジが失敗したら?」
「結婚したいなら一緒にいるべきじゃないけど。そうじゃないなら、いいんじゃないかな?結婚が人生のゴールって訳じゃないし」
先輩の言葉に、私もかれんも神子も釘付けだった。
先輩は、卒業後。
大手アパレル会社に就職した。
そして、今では。
『ちゃんとBLUEの服着てきた?』
「当たり前だよ」
『じゃあ、頑張ってね』
「うん、頑張る」
先輩が立ち上げたBLUEというブランドは、瞬く間に有名になり。
今では、有名ブランドの仲間入りを果たしている。
先輩は、今も独身だ。
たぶん、これから先も。
そんなことを前に話してくれたから。
恋愛より洋服に向き合っている時間が最高に幸せだと。
私は、大事な日にはBLUEの服を着る。
そして、勝負に挑むのだ。
「お待たせ」
さあ、これから私のチャレンジが始まる。
今度は、成功するだろうか?
「あのね、私。出来ちゃったみたい」
彼の目に動揺の色がうつり。
困ったように眉をよせる。
やっぱり。
やっぱり。
「あのね」
失恋チャレンジ 三愛紫月 @shizuki-r
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